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-特別編5- もう1つの正史 その2。

 爆発に伴い、予約制のお店へと変わるのだった。


**********


 カフェ・リリエル。

 【リリエル】の新しい本業は本日休業日。

 予約制になっても開店から閉店迄予約がびっしり。

 嬉しい悲鳴。だが同時に休む暇のない【リリエル】一行。

 なので今日は本来は自宅でのんびりと過ごすつもりだった。

 だったのに、神様は【リリエル】一行に休暇を与えるつもりはないらしい。

 自宅で寛いでいた【リリエル】一行の耳に届く鐘の音。

 国に何か大きな事件が起こった時に鳴らされる警報の鐘。

 彼女達はこれ迄の人生で何度か警報の鐘の音を聴いているが、何度聴いても心臓に悪く、とてもじゃないが慣れることはできない。


「いつ聴いても嫌な音色ですね」


 リーネのボヤき。彼女の言葉に相槌を打つ彼女の妻と仲間達。

 警報の鐘の音の後、改めて鳴らされるはハンターの緊急招集の鐘の音。

 招集命令の鐘の音を聴いて思わずため息を漏らしてしまうリーネ達。

 鐘の音が示すのは強制招集で拒否権は無いということだ。

 休日返上決定。なるべく早く終わることであれば良いなと願いつつ重い腰を各々上げる。

 疲れている身体に鞭を打って向かうはハンターギルド。

 到着するとすでに多くのハンター達が集結しており、その中には【リリエル】の傘下な【ガザニア】と【クレナイ】の姿もあった。

 【ガザニア】の2人も疲労感が隠せていない。

 【クレナイ】も【リリエル】がカフェを開店したのと期を同じくして温泉旅館を開業。彼女達が開業した温泉旅館は【リリエル】と【ガザニア】が共に営むカフェよりも大盛況。予約がなかなか取れない旅館として人気を博し、連日大忙し。旅館はカフェよりも大変な業務だ。いや、一概には言えないが少なくとも彼女達の旅館はそうだ。そのせいで明らかに【クレナイ】の面々は疲労の色がカフェを営む者達よりも濃い。

 【クレナイ】が気に掛かり、彼女達の元へ歩み寄る【リリエル】一行。

 【クレナイ】のリーダー・オリビアにリーネが話し掛けようとすると、少し先にリーネに【オダマキ】のメンバーが話し掛けてきた。


「リーネさん」

「……! ああ、誰かと思えば【オダマキ】の皆さんですか。どうしました?」

「我々が作ってる野菜。どうですかね? ほぼ毎日仕入れに来てくださるってことはお客様に美味しく食べていただけてるのかなって自信持って大丈夫ですかね?」

「そうですね。貴女達が育ててくれている野菜は好評ですよ。特に旬の野菜は人気ですね。どんな料理にしても必ずお客様から注文が入ります。ですが、旬ではない野菜が人気が無いわけではありません。旬の物には若干劣りますが、カフェで野菜が余るということはありませんよ」

「やった! 毎日可愛がって育ててる甲斐があります」

「貴女達のお陰で料理の価格を下げられています。農業は大変でしょう? 暑い日も寒い日も野菜を手塩にかけて育てて下さってありがとうございます」

「いやいや、そんな。これからもうちの野菜達を使ってやってくださいね」

「ええ。よろしくお願いしますね」


 結局、【クレナイ】ではなく【オダマキ】との仕事の話。

 話がひと段落着いた頃、ハンターギルドの長たるルミナがハンター達の前へと姿を現した。

 リーネは彼女の容姿。目には見えないモノを見て、視て想う。自分達よりも先に逝ってしまったヒカリお姉ちゃんによく似ているなと。


「さて、皆さん。本日は今日は急に招集をかけてしまってすみません。単刀直入に言いますね。我が国は先程ヴァフール王国に宣戦布告を受けました。従いまして、これより我が国はヴァフール王国との全面戦争に突入します。そこで、皆さんにはこの国を守る役目を果たして貰います。報酬は終戦後に国から出ます。女王様直属の[(めい)]なので皆さんに拒否権はありません。話は簡潔ですが、以上です。では各自戦闘準備に取り掛かってください」


 ルミナの凛とした声がハンターギルドに響き渡る。

 彼女の話を聞き、身を引き締めてギルドから外へと駆けていくハンター達。

 リーネ率いる【リリエル】一行と傘下のメンバーも先に駆け出した者達に続く。

 走りながらリーネが思うのは、『まだこの国と戦争したがる国があったんだ!!』という驚きの気持ち。

 ルージェン王国は大昔の頃とは全然違う。

 確かに少なからず平和ボケしている国なのは否めないけれど、この国には呑気を補うに充分な、過剰な迄の軍事力がある。

 遠い過去から現在に至っても活動を続けているゴーレム。強化されたハンターや騎士に衛兵達。

 国全土に結界も張ってある。この国に対して敵意を持つ者・物・モノらを決して通さない結界が。

 敵意を弾く国とどうやって戦争をやるつもりなんだろうか?

 空からも海からも、勿論地上からもこの国を傷付けることはできない。

 謎だ。


 と、リーネは思考していたが、敵国の戦争の仕方はすぐに判明した。

 間接的なやり方。この国に巣食う邪族を操っての戦争。

 敵国はそういうことができる道具を発明することに成功したらしい。

 ルージェン王国の各地で起こる邪族大行進(スタンピード)

 なるほど! 外から攻められないなら内側からというわけだ。

 自分達の手も汚さずに済む。一石二鳥。敵国はそう思って、せせら笑っているに違いない。


「でも……」


 邪族大行進(スタンピード)如きでこの国の者達が怯むと思ったら大きな間違いだ。

 【リリエル】他ハンター達は邪族の大群を視界に捉えても泰然とした顔。

 手慣れたもの。自分達に向かってくる邪族を楽々と屠るハンター達。

 疾風怒濤。狂戦士(バーサーカー)の如しな者達。

 そんな中、リーネは自分に群がろうとする邪族に無言で杖を振るう。

 言霊が無くても発動される魔法。

 800年の年月の間に研鑽に研鑽を重ねて可能になった世界で唯一たった1人、彼女にだけできる芸当。

 仲間達と嬢子(でし)達は、また背中が遠のいたなぁと感じつつ見入る。

 

 ―――悠遠の魔女―――


 今も健在であることを人々に魅せ、見せている。

 [悠遠]の称号は飾りじゃない。

 ルージェン王国の者達は余裕を見せているが、敵国の者達は焦りを見せている。

 今更ながらに自分達の見通しが甘かったことに気が付くが、もう遅い。

 邪族に指令を送っていたのは軍艦に乗って海上から。

 だったが、指令を送る軍艦の周りを一周。ルージェン王国の海中仕様のゴーレムが囲んでいる。

 敵国の者達は次の瞬間にゴーレム達によって海の底へと沈められ、操られていた邪族達は洗脳が解けて巣へと逃亡していった。


 これで終わり。

 ハンター達は誰もがそう思っていたが、リーネ達は別。

 肌に感じる強い嫌悪感。

 邪族とは又違う。[人]の憎悪。


 リーネが一言。


「それで。いつまで隠れているんですか?」


 声を掛けると、隠れていた者は不敵な笑みを浮かべて彼女達の前に姿を見せた。

 始まった戦闘。

 リーネと戦争を隠れて見ていた者との一対一の決闘。

 隠れて見ていた者が身に纏っているのは真っ赤な燕尾服。

 彼の名は炎獄の魔公アポロクス。

 ルージェン王国において侯爵の座にあり、王都から近い大地方を治めている者。

 どうやら今回の戦争を引き起こしたのもコイツが原因。

 目的は先程の敵国の者達を手引きしてルージェン王国をある程度破壊させた所で自分が女王フレデリークに代わってこの国を統治すること。

 そしてこの国の女性達を好きなようにすること。


 反吐が出る。

 リーネは戦闘前に彼自身から聞いたことを思い出して顔を歪める。

 更にコイツは常軌を逸したことを言い放った。

 女王フレデリークに取って代わった暁にはアリシアを娶って、貪らせて貰う。

 などというリーネにとって赦せない、心の底から怒りの気持ちが生じることを。

 アリシアを巡り、申し込まれた決闘。


 この世界に転移したばかりの頃の再現のよう。あの時とは立場が逆だが。

 アポロクスは自らの魔力を付与した剣2本によりリーネに猛攻を仕掛けてくる。

 仕掛けてくるが、リーネは猛攻を紙一重で全て躱す。

 攻撃は一切せずに、ただただ彼の様子を見守っているだけ。

 静観を貫くリーネの姿勢にアポロクスが焦れる。

 

「どうした。逃げてばかりでは勝てないぞ!」


 声はリーネを蔑み笑っているが、顔は声とは裏腹に真実を映し出している。

 自身の攻撃がどれだけ粘ってもリーネに一切当たらないからだろうか? 苛々しているのが見て取れる。


「ふっ。悠遠の魔女がどれ程の者かと思っていたが逃げることしかできないのか!」


 ついには挑発。

 挑発を受けてリーネは初めてこの戦闘中に出さなかった声を出す。


「そこ迄言うのなら、悠遠の魔女の実力を見せてあげましょう」


 安い挑発に乗ったのではない。戦闘に飽きたのだ。


 リーネが杖を軽く下に振る。

 緩やかな動作によって彼女の周りに浮かぶ複数の球体。

 球体の正体は彼女の魔力。

 神聖にも邪悪にも見える矛盾したモノ。


「言霊無しでも放出できるのですが、敢えて言いましょう。魔力之散弾(マナバレット)


 リーネの言葉によって自由になった魔力の散弾(猛獣)がアポロクスを強襲する。

 手足を食い千切り、腹に穴を空け、地を赤に染めて消えていく。

 倒れ伏すアポロクス。まともに動けない彼の傍へ悠然と歩いていくリーネ。


「ごふっ。ば……化け物……」

「1つ聞かせてください。貴方は何故アリシアを娶ろうと思ったのですか?」

「さっきも……ごふっ。言った……だろう」

「本当にそれだけの為だったんですね。もういいです。魔力の銃弾(マナショット)


 リーネの杖から放たれた魔力。

 彼女のそれはアポロクスの額を貫通し、彼は息絶えた。


 後に残ったのは赤の地とそこに立つリーネ。

 彼女はその場でアポロクスの遺体を見ながら言葉を紡ぐ。


「何故でしょうね。とても虚しいです」


 虚空を眺めるかのようなリーネの双眸。

 彼女はこの戦闘を締めくくる最後の魔法を行使する。

 リーネなりの葬送の魔法。


灼熱之獄炎(インフェルノ)


 炎が好きだった彼へのせめてもの手向け。

 魔法の炎は彼の全てを焼き尽くし、戦闘と戦争は終わりを告げた。

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