-特別編1 最終話- 迷い・吹っ切れ その02。
リーネは暫く呆けて、その後「えっ?」なんて間抜けな声を出してしまった。
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思い掛けない形で別荘を手中した【リリエル】。
彼女達はその後、気分によってラナの村で過ごしたり、マロンの治めるエルフの里で過ごしたりするようになった。別荘より本宅にいる方が多いが。
転移門は片方だけだと意味がないので、ラナの村の【リリエル】の自宅にも設置してある。
見た目は本当に門だ。両側に白い壁、中央に左右両開きの格子状の門。
開門するとエルフの里。世界広しと言えどマロンにしか創れない物らしい。
マロンは里の長であり、喧しくても優秀な魔道具職人でもあるのだ。
転移門の他にも里が万が一襲われた時に備える為にルージェン王国からゴーレムを買い、買ったゴーレムに手を加えた物が何体かいるというので、見せて貰うと、【リリエル】は僅かに引いた。
ルージェン王国のゴーレムは剛力だけが取り柄だが、改良ゴーレムは肩に二門の大砲が取り付けられていたのだ。
1秒につき1発。[万象の爆裂]が撃てるそう。
1門につき300発。2門付いてるから合計で600発撃てることになる。
説明を聞くだけでも驚異的なゴーレムが100体いた。
実演を見て【リリエル】は開いた口が塞がらなくなった。
この里は一体どんな奴を敵として想定してるんだろうか?
小国程度なら簡単に潰せる程の軍力を有している。
この里に手を出すのは[馬鹿]という言葉では足りないくらいに[馬鹿]な奴くらいだろう。
【リリエル】はドン引きしつつも、改良ゴーレム凝視していると彼女達の視線を察して、マロンから「良ければ何体か譲るよ譲るよ」と言って貰ったのでラナの村を守る為に10体程。改良……。魔改造ゴーレムを分けて貰った。
ゴーレムを譲り受けた際にこの里の家・別荘と転移門もマロンから受け取った。
無償では無い。譲渡の条件があった。料金代わりに【リリエル】全員がこの里の有事の際は収束・鎮圧に協力することと、クオーレをたまにマロンに貸付けをすることを彼女に要求されて、クオーレが了承した結果、【リリエル】は心強い軍事力とこの里の住民権を得た。
クオーレの派遣はともかくとして、この里の有事の際の協力って実際問題必要があるんだろうか?
魔改造されたゴーレムがいるのに?
と、【リリエル】は内心思ったが、『マロンがそれでいいと言うのならそれで』と考えることにし、変に口を出したりすることを避けた。
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今日はマロンのエルフの里で【リリエル】は過ごしている。
仕事もあるし、普段はラナの村。本宅にいる。
別荘に来るのは休日時くらい。森林浴なんかをしに来る。
リーネ達は元よりエルフ族なのですぐにこの里のエルフ達に受け入れられた。
心配なのはミーアだったが、彼女も意外にも早々とこの里の人気者となった。
特に子供のエルフから大人気で、毎日鬼ごっこやら隠れんぼやらしているのが、見ていてとても微笑ましい。子供達と全力で遊んであげている彼女は好印象。
リーネとアリシアは彼女達の様子を別荘の縁側で眺めつつ和んでいる。
「なんだかどちらも子供みたいね」
と、言うアリシアの言葉には、リーネも笑いながら同意した。
「ねぇ、リーネ」
アリシアがリーネの名を呼びながら"そっ"と彼女の手に自分の手を乗せる。
たったそれだけのことでリーネの心に広がるのは大きな[愛]と[安心感]。
リーネが前に向けていた顔を隣のアリシアのいる側に向けると交わる視線。
「リーネ、おいで」
愛する女性からの誘いの台詞。
10秒と掛からず沸き立つ心。何かの期待に心が震える。
リーネはアリシアの台詞と包容力に抗えずに。
いや……、抗おうともせずに彼女の自分より若干豊かな胸の中に飛び込んだ。
「まだ1人で抱えてるんでしょう」
アリシアは自分の胸の中に飛び込んで来た最愛で可愛い女性に向けて言う。
そして、頭を何度か撫でる。彼女の髪は非常に滑らかで清い。
手で掬うと軽快に零れ落ちる彼女の髪。何故だろう。見ていると[色]が……。
意識すると、アリシアの心の奥の熱溜まりが煮える。
目的が変わる。頭から手を彼女の鎖骨に、お腹に、太腿にと下ろしていく。
際どい所を撫でると彼女の身体が跳ねる。
「アリシア……」
[嫌]は感じられない。逆に欲しさが感じられる。
渇望している。彼女の大好きな行為。欲しい、欲しいと叫んでいる。
ああ、可愛い。リーネ可愛い。可愛い。かわいぃぃ。
故障するアリシア。顔は紅潮し、だらしなく緩んでいる。
リーネ、リーネ、リーネ、リーネ、リーネ。
頭の中がリーネ一色。彼女に自分を意識させたくて膨らみを押し付ける。
と、潤んだ瞳がアリシアを射抜く。
「リーネ、そんな目をされたら……」
「キスください」
小動物の願い。アリシアは二の句を続けらず、自分の唇を彼女の唇に重ねた。
息が苦しくなる迄重ね合い、束の間を置いてまた唇を重ねる。
1度目と違い、2度目は彼女を貪るように食む。
唾液が甘い。美味しい。時と場所と場合。そんなもの欠落してしまっている。
ひたすら彼女を味わう。無意識のうちに両腕が彼女の腰に回る。
決して離さないと言わんばかりに彼女を抱える。
逃がさないわ。リーネ。
響く水音。息が限界。渋々離れる。
「ぷはっ。ハァ、ハァ。リーネ」
「ハァ、ハァ……。アリシア……。もっと強く抱き締めてください……」
「っ」
切なげで、泣きそうな彼女の声色。
アリシアに冷静さが戻る。
「貴女は1人で抱え込む嫌いがあるわ。もっと、わたし達に甘えていいのよ」
彼女をこれでもかと抱擁し、耳元で優しく囁くアリシア。
リーネもアリシアの腰に手を回す。密着、接着、密接、付着。
全部の言葉を混合したように抱き合う2人。
「もう少しだけ、このままでいさせて貰ってもいいですか?」
「勿論よ。ねぇ、リーネ。わたしだけじゃない。【リリエル】も皆、思ってる」
「……そうでしょうね。【リリエル】の皆さんは優しいですから」
「泣くのを我慢しなくていいわ。泣きたい時には泣きなさい。リーネ」
「そんなことを言われたら、耐えられないじゃないですか」
「貴女がこれを言われるのは2度目ね。リーネは1人じゃないわ」
アリシアがリーネの背中を"ぽんぽん"と軽く叩く。
リーネはアリシアの思いやりの言動で込み上げていたモノが崩壊。
声を押し殺し、アリシアの身体を強く抱き締めて涙を零した。
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リーネとアリシアが互いに抱き合っていた頃。
里は湧いていた。あまりにも、あまりにも尊いものを自分達は見れている。
彼女達の様は女神にも勝るとは劣らない。いや、百合の女神だ。
「ああ……。百合の花々が咲いているわ」
「私達。リリィなんて言うの烏滸がましかったのね」
「女神リリィーリス様。ありがたや、ありがたや」
「リリィーリス様って何?」
「知らないの? 【リリエル】の方々は女神様なのよ」
女神。騒めく里。1人のエルフが何かを手に持って皆の元へやって来る。
【クレナイ】がファンクラブで販売している【リリエル】の肖像画集。
一部の者達の間では聖典として扱われている。
「皆、これを見て」
叫びを聞いて彼女の元に集う里のエルフ達。
1枚、1枚。ページが捲られる度に尊死する者や崇める者が現れる。
制服姿の肖像画を見たところで小さく呟かれる声。
「セレナディア教から改宗しようかな」
「その必要はないわ! 何故ならリリィリース様とセレナディア様は同一だからよ」
違う。同一ではない。同一ではないが、セレナディアは神々の地で笑っている。
〔あの子達を見ていると飽きないね〕
セレナディア公認。世界秩序構築完了。
したところで、聖典が前触れなく閉じられる。
「ちょ、何で閉じるのよ」
「この先のページを見るとね……。死ぬ可能性があるからよ」
恐ろしい言葉。見るだけで死ぬとは。それだと聖典ではなく、呪物なのでは。
疑問符があちこちで飛ぶ。困惑している皆を見つつ、聖典の持ち主は告げた。
「水着姿よ。ビキニよ。生きていられる?」
「あ……。無理……」
「想像しちゃった。鼻血が……」
納得。この日からマロンの里は女神セレナディアと女神リリィリース。
2柱。……【リリエル】個人個人にすると5人。6柱を祀るようになった。
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翌朝。
リーネは少しの息苦しさを感じて目を覚ました。
アリシアとミーアに挟まれているのはいつものこと。
……なのだが、今日は2人が随分と自分に密着しているような気がする。
息苦しさはそのせいかと悟るリーネ。
「んんぅ……。リーネ」
「鳴き声、可愛いー」
艶。色気を揺蕩わせる寝言。
2人の寝言で身体が火照る。鮮明に思い出す夜のこと。
仲が深まり、心の距離が縮まった。温い夜だった。
「でも、恥ずかしいですね。幸せでしたが」
恥辱と愛情。同一のようで、異なっているような、そうでもないような。
本人は気付いていないが、百面相をしていると左右の頬に魅力が訪れた。
「おはよう、リーネ。朝から可愛いわ」
「本当。本当。可愛いー」
アリシアとミーア。覚醒した2人がリーネに覆い被さる。
愛しい女性に順番にキス。桜色の唇に何度も、何度も。
夜の余韻が抜けていない。愛する女性を味わい足りていない。
捕まえている筈なのに、捕まえられている気がする。
リーネが自分達の心身を掴んで離さない。
キス。とにかくキス。キスの雨が降り続いた。
ベッドから3人が下りたのは昼だった。
朝食もベッドの上で食べた。「あ~ん」で3人交互に。
現在はリビングに移動して、ソファに座り"イチャイチャ"中。
アリシアの膨らみとミーアの膨らみがリーネに押し付けられている。
極楽な抱擁。気の抜けているリーネ。
アリシアとミーアは煮え滾る欲望を必死に抑え込んでいるというのに。
美味しい獲物。食べても食べてもまた食べたくなる獲物。
無防備な獲物を捕食しようとしているというのに。
「ねぇ、リーネ」
「はい」
「キスしたいわ」
「何度もしたではありませんか」
「もっとしたいよー」
「でも、拙くないですか。カミラ達もいますよ」
「2人は2人に夢中だから、自分達のことなんて見てないよー」
「クオーレが……」
今更2人の眼光の鋭さに気付き気圧されるリーネ。
狼2匹がいる檻の中に1匹の子羊。
どうにか狼を諫めようとするものの、無情にも食いつかれた。
「「リーネ」」
「まっ、待ってくださ……」
就寝前迄理由を付けられては続けられたキス。
どうでもいい理由が大半だった。
息をしているからキス。
生きててくれてるからキス。
動いてくれてるからキス。
ご飯前後のキス。
座ってるからキス。
可愛いからキス。
立ち上がったからキス。
ベッドに寝転がったリーネは満身創痍。
キス度数が高すぎて死ぬかと思った。
2人の唇の感触が今も尚、色濃く残っている。
「リーネ。もう大丈夫ー?」
ミーアがリーネに内容を知らせない問い掛けをする。
知らされずとも強く頷くリーネ。
吹っ切れた。後のことは彼女達自身が決めることだ。
自分はやれるだけのことはやった。あれ以上のことはできなかった。
拳を握り、握った拳を見つめながらリーネは呟く。
「もっと、身も心も強くならないといけませんね」
リーネの答えを聞いて微笑むアリシアとミーア。
それはそうと……。
「リーネ、まだ寝かさないわよ」
「うんうんー。楽しもうね」
「えっ!?」
口角を上げるアリシアとミーア。
リーネに悪戯開始
「擽らないでください。足の裏はダメですって」
「やっぱり笑ってる方が可愛いわよ。いえ、……泣き顔も結構可愛かったわね」
「そう言えば昨日アリシアと抱き合ってたよね。あれいいなって思った。羨ましいからもっと擽ってやるー」
「やめてください。ミーア。降参です。降参します。あはははははははははっ」
リーネの笑い声がエルフの里の彼女達の別荘に木霊する。
この後、リーネはアリシアとミーアの隙をついて彼女達の唇にキス。
2人の顔を真っ赤にさせることに成功。
先程の2人からの悪戯の仕返しができたリーネは久しぶりに心からの笑みを顔に浮かべた。
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特別編1 Fin.




