-二章- プリエール女子学園 その05。
私は、アリシアとミーアに見守られる中、盛大にため息を吐いたのだった。
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プリエール女子学園。
そこは名前の通りに女性の、女性による、女性の為の学園。
この学園は教師も生徒も全員が女性。男性は1人もいない。
何故共学にしなかったのか。
それはシエンナ様とラピス様の趣味が一致した為。
ラピス様は普段は魔王であることを隠し、ロマーナ地方の一伯爵として過ごしているらしい。
領主シエンナ様も伯爵。そしてこの学園が建築される前迄はラピス様はこの国の女王フレデリーク様の側近として働いていた。
それが何故この地方にいるのか。
別に左遷されたわけじゃない。
ラピス様自身が望まれたのだ。
理由は私達と同じ。
「都会しんどいのじゃ」
ある日突然そんなことを言い出し、ラピス様は女王フレデリーク様から許可を強引に取ってこの地へと赴任してきた。
その赴任時期はラピス様にとっては運が良かったと言えるだろう。
シエンナ様が学園を建設している最中だったのだから。
それを見たラピス様は急いでシエンナ様と会い、取り引きを持ち掛けた。
学園設立の為の資金提供とこの地方に募金をするから自分を学園の理事長にしてくれと。
それを聞いたシエンナ様は多少躊躇いがあったようだけど、ラピス様と話をしているうちにラピス様は信用に足る人物と判断して、その話を受けることにした。
実は学園を造ることを決めたはいいけど、やはり資金面で悩んでいたのだ。
そこに降って湧いたお金。学園はそれから2人の手によって設立された。
計画の初期の初期の初期段階では男女共同学園の予定だった。
が、シエンナ様もラピス様も「女教師に女子校生。やっぱり女性だけの学園の方が目の保養になるし、良くない?」と意見が一致して計画は白紙に。再開後は男性は男性のみ。女性は女性のみ。別々に学園が建設されることになった。
これは後で知ったことだけど、かなり珍しいことらしい。
他の地方ではロマーナ地方のそれとは違い、資金面・効率面から男女共同学園にしている所が殆どなのだとか。
だって[国命]は普通の学校ではなく、騎士や衛兵やハンターを養成する場所でもある所を造れということだった。
それならば男性と女性の身体の作られ方の違い。
動かし方の違いなど目の前で見聞きして学んで、お互いに切磋琢磨した方がいいに決まっているという話。なので設立するのは男女共同学園。
その言い分は物凄くよく分かる。
しかし2人はそんなこと知っちゃこっちゃないとばかりに女子学園・男子学園を設立した。
男子学園はここから結構離れた距離の所にある。
そこに女性はいない。教師も生徒も全員が男性。
運営はシエンナ様の側近のうちの1人の男性に任せられている。
たま~に、シエンナ様が視察に行くらしいけれど、その側近とちょっと話したらすぐに帰るらしい。
逆にプリエール女子学園の方は視察に来たらラピス様とお茶をゆっくりと楽しんでから領主館に戻るのだそうだ。
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「まぁ、それはそれとして困りましたね……」
私達【リリエル】は早速問題に直面していた。
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それはこれから担任となる女教師さんに自分達が所属することになるクラスへと案内して貰って自己紹介などを軽く済ませて1限目の授業へと突入。その終わりの休憩時間時のことだった。
シエンナ様が配慮してくれたのだろうか? ひとまず【リリエル】全員同じクラスで良かったね。とアリシアとミーアを交えて話していた時のこと。1人の、とある存在が私達。正確には私に突っかかってきたのだ。
「ちょっとあんた、標準的耳長人よね。耳、みっじかーい。いっそのことそれ切っちゃえばいいのに。あ~、やだやだ。こんな中途半端な奴がうちらと同じ種属名で呼ばれてるなんて。本当に迷惑っていうか~。あんた達なんてこの世界から消えていなくなっちゃえばいいのに」
その存在はその耳の長さから長大耳長人だとすぐに分かった。
エルフと言っても1種の存在だけがそう呼ばれている訳じゃない。
魔物の中にもスライムとかアラクネーとかドラゴンとかいるように、人間の中にも黄色人種、白色人種、黒色人種といるように、エルフも数種の者達を全部混ぜてエルフと呼ばれているのだ。
その内訳はハイエルフ・エルフ・ダークエルフの3種族。
地球ではハーフエルフやクォーターエルフなどファンタジーな物語では有名だけど、どうもこの世界にはそういった存在はいないらしい。例えば人間とエルフとが結ばれて子供が生まれてもハーフとならずにそのどちらかの種族となるみたい。
エルフの中でもハイエルフは気位が高い。
エルフとダークエルフの寿命は凡そ500年。対してハイエルフは1,000年。
エルフとダークエルフの魔力量は一概には言えないけれど、あのクソゲーを参考にして、ラピス様の魔力量を10,000と仮定するとエルフは2,000~3,000でダークエルフは0~500。対してハイエルフは凡そ4,000。寿命も魔力量もエルフとダークエルフに勝っている。
それに魔法の扱いそのものもハイエルフの方が長けている。
その為だろう。ハイエルフがエルフを「ノマエルフ」と呼んで見下して、エルフを出来損ないな存在とみなすのは。多分……。
「あんたさー」
ミーアがそのハイエルフに食って掛かろうとする。
それを止めるのは私とアリシア。
「ミーア。いいですから」
「やめておきなさい。ミーア」
「でもー」
「編入して初日に面倒事を起こすことはよくないと思うのですよ」
「そういうことよ」
「うー。リーネとアリシアがそう言うならー」
私とアリシアの説得で渋々引き下がるミーア。
ハイエルフはそれが気に入らなかったのかな。私の胸倉を掴んできた。
「たかがノマエルフがお高く留まっちゃって~。調子に乗ってんなよ!」
突き飛ばされて他人の机に身体が激突する。
結構痛い。威力緩和の魔法を使うことを忘れちゃっていた。
「ごめんなさい」
激突しちゃったクラスメイトに頭を下げる。
「机、平気でしたか?」
聞くとそのクラスメイトは「大丈夫だよ。それより貴女こそ大丈夫なの?」って私を心配した声を優しく掛けてくれた。
「はい、大丈夫です。心配してくださってありがとうございます」
「頭下げなくていいってば。貴女が悪いわけじゃないんだし」
「はぁ? 何あんた。うちが悪いって言ってるわけ?」
「実際そうでしょう」
「ざけんな」
ハイエルフが私を心配してくれたクラスメイトの机を蹴った。
それを見て一瞬頭に血が上る私。
得物の杖を取り出しそうになったけど、2限目開始のチャイムが私を我に戻してくれた。
「ちっ」
それを聴いて自分の席に戻っていくハイエルフ。
その様子から、どうやら根っからの悪タイプではないらしい。
私はもう一度クラスメイトに礼を言ってから席に戻る。
「だから貴女が悪いわけじゃないってば」
って言われたけれど、なんとなくもう一度言っておかないと私の気持ちが収まらなかったのだ。
途中アリシアとミーアが寄ってくる。
「大丈夫? リーネ」
「ねぇ、本当にこのままでいいのー?」
「大丈夫ですよ。少し背中が痛いですけど」
「それって大丈夫って言わなくないー?」
「まぁ、この程度なら平気ですよ」
「無理はダメよ」
「はい」
そんなことを話していると、教室に入ってくる2限目担当の教師。
私達は席に戻り、授業を聞く。
それからハイエルフは事あるごとに私に突っかかってきた。
お陰でアリシアともミーアともろくに喋れない。
溜まっていくフラストレーション。
今日の最後の授業となる6限目の前には[黒い私]が前面に出そうになってたけど、なんとかかんとか理性で抑え込んで初日は無事に終えることができた。
「何処にでもいるんですね。ああいうの……」
疲れた。物凄く疲れた。
精神的に疲れた。
家に帰ってきた私は制服も脱がずに1時間程度ベッドの上に倒れ込み続けた。
西暦2023年。日本の近頃の学校は教壇とか黒板とかなかったり、チャイムなんて無い所も増えてるみたいですね。
でもまぁ、この学園は古き良き日本の伝統? 的な学園ということで……。




