-二章- プリエール女子学園 その04。
その顔は何故かとても幸せそうな顔をしていた。
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「シエンナ様?」
彼女の何とも言えない……。
強いて言えば夢見心地? な顔をしているのがどうにも気になった私はその名前を呼んでみた。
「とても……」
「はい?」
「とても眼福でした」
意味不明な返事をされる。
私の頭の中に浮かぶのは大量の疑問符。
シエンナ様は確かに後ろを向いていて、だから私達【リリエル】が着替える姿は見えてない筈。
なのに眼福とは???
「もしかして……」
アイリが呟く。
それからやれやれといった感じの表情を私達に見せてから、スカートの太腿部分から取り出すのはダガー。
ちょっ、まさかの隠し武器!? 本気で暗殺者らしくなってるよ。アイリ。
「透明なる鏡」
そのダガーからアイリが発生させる魔法。
だからどうしてダガーから魔法を発生させることができるの?
付与なら分かるけど。放出ができるなんて……。
ダガーは本来そういうことが可能な武器じゃない!!
どうやってるのか教えてよ。それ。
ううん、それより……。
アイリの前に浮かぶ縦に長い長方形の魔力の塊。
その魔力の塊の中には私達の姿がくっきりと映っている。
そういうことか―――。
私も理解した。
シエンナ様は魔法をこっそりと使って、私達が着替えるところを覗き見していたということだ。
「うふふっ。バレちゃいましたね。でもでも、【リリエル】の皆さん、油断しすぎですよ。魔力が発せられたのに気が付かないなんて。もしこちらがその気だったら、今頃は皆さんの[生命]は無かったかもしれませんよ。最もそんなつもりなんて少しもありませんでしたけど。ふふふっ、覗き見大成功です」
確かに油断していた。相手は無問題な女性。
今回は着替えるところを見られただけで済んだけど、実際シエンナ様がその気になっていれば【リリエル】は無抵抗で全滅させられていただろう。
反省……。次からはどんな相手でも気をつけないと。
以前にもあの忌まわしい盗賊団にしてやられたことがあったことを思い出す。
あの時は本当に最悪だった。二重、三重にミスが重なった。
アイツらが馬鹿だったから依頼は無事に達成できたけれど、アイツらにもう少し知能があれば依頼失敗で次の被害者を出していたかもしれなかった。
「……。2度あることは3度あるって言いますからね。これで2度目ですか。3度目は無いように」
空中から杖を出現させる。
それを向けるはシエンナ様のすぐ右横。
「気を付けないといけませんね!」
[透明なる鏡]・シエンナ様の魔法を私の魔法で捻じ伏せる。
さっき迄の笑みが消え、少しだけ怯えた表情になるシエンナ様。
杖を消して私はシエンナ様に尋ねる。
「ところでいただいた制服ってこのまま着て帰ってもいいのですか? それから元々着てきた服はどうしたらいいですか?」
シエンナ様から返答は無い。
さっきの私の魔力に中てられたみたいだ。
着替えを見られたことと嫌味を言われたことの仕返しにとちょっとした趣旨返しのつもりだったけど、やりすぎてしまったよう。
「リーネ」
アイリから"ぺちっ"と頭を軽く叩かれた。
「仮にも相手は領主様よ」
アイリの呆れた声。それでシエンナ様は再起動した。
「仮にもじゃありません。正真正銘の領主です。……制服は勿論差し上げますよ。私服はそうですねー」
私達はそれから4人で紅茶を楽しんだ後、馬車でラナの村迄送って貰えることになった。
シエンナ様から紅茶を差し出された際にミーアがさっきの私の話を真に受けて、その紅茶を"くんくん"と嗅いでいるのが可愛くて、残りの3人で彼女のその行動を"くすくす"と笑ってしまった。
「大丈夫ですよ。普通の紅茶ですから」
「嘘だよねー。これスライムの溶液が少し入ってるー」
「それは別に身体に害が無いからいいではないですか。それよりスライムの溶液は無味無臭なのによく分かりましたね」
「自分の鼻は特別だからねー」
「そうなんですか。流石ですね。【リリエル】の皆さんは」
「さっきは油断しすぎって言ってたのにー」
「それはもう忘れてください」
"あははははははっ"
シエンナ様の苦笑いに私達の間で笑顔が巻き起こる。
それから1時間程女子会をしてから私達は領主様専用の馬車に乗り込んだ。
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馬車の中。私達がさっき迄身に着けていた私服に頬擦りをしているシエンナ様に私達はドン引き中。
制服と引き換えに私服はシエンナ様に没収された。
「いい匂いがします」
「シエンナ様ー。正直引きますー」
「だって【リリエル】の皆さんの私服ですよ! 宝物にします」
「それ……。ラナの村で安く買えますわよ」
「何を言っているんですか! 【リリエル】の皆さんが身に着けていたことに価値があるんです」
「……やっぱり返して貰っていいですか?」
「ダメに決まってるじゃないですか! 領主権限で没収です」
「職権乱用が過ぎると思いますー」
「リーネ、ミーア。残念だけど、もう聞いていらっしゃらないわ」
「そのようですね」
「自分の中のシエンナ様のイメージがどんどん崩れていってる気がするー」
「そこはよく分かりますよ」
「そうね」
……………。
ラナの村到着。
その道中、私達【リリエル】は楽しく談話していたけれど、シエンナ様はずっと私達の私服に頬擦りしたり、匂いを嗅いでいたりした。
「皆様、村にお着きになりまし……た……!!!!!」
馬車が止まって馭者の人がその馬車の扉を開く。
中を見て"ぎょっ"としたようだ。
複雑な顔をしながらも、自らの仕事を全うする為に私達に手を差し出してくれる馭者さん。
私、アイリ、ミーアの順番でその手を取りながら馬車から降りる。
全員が降りたら扉を閉めて馭者台へ戻っていく馭者さん。
心なしか、見てはいけないものを見た。という顔をしていたような気がする。
その気持ちは分かるよ。
強く生きてね!!
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翌日。初登校の日。
「まさかまた学校に通うことになるとは思ってもいませんでした」
私はその建物の前で"ぽつり"と言葉を零した。
それにしても、これ迄ここに学園があるなんて全然知らなかった。
それはアイリとミーアも同じ。
私達にはこれ迄ここは[草原]に見えていたのだ。
どうも関係者以外には発見できないように強い魔力によって結界と隠蔽の魔法が掛けられていたらしい。今はもう解かれているけれど。
私でも発見できない程の魔法。
となれば、この魔法を使った者はドラゴンか件のスライム?
どっちだろう?
ちょっと考えてみる。
件のスライムは滅多に王都横の森から出てくることはない。
となれば、残るはドラゴン。
勝手に決めつけて、ドラゴンって凄いな~っ。
なんて感心してる私の身体に突然"ぞわっ"と寒気が走った。
慌てて背後を見る。そこに立っているのは私に寒気を走らせた原因の主。
「ふむ。エルフか。しかしその魔力の量に質、ただのエルフではないようじゃな。それにお主からは僅かながら、この世界の者とは違う異質なるモノが感じられる。お主は異世界人か?」
言葉が出ない。ううん、出せない。
怖い。私の目の前の者は本物の化け物だ。
身体が震える。冷や汗が止まらない。
血の気がどんどん引いていく。
この何者か。まるでこの世界全部の魔力を集めて人型にしたかのよう。
「うっ……あ……っ」
漸く声が出せたと思ったらそれだけ。
それ以上は出せない。
その者が私の方へと歩いてくる。
逃げたい。逃げたいけど、身体がちっとも動かない。
「そう怖がらんでもいい。儂はこの学園の理事長でラピスという。他の誰にも見破られたことは無かったが、お主には分かるようじゃな。そう。儂はこの世界の魔物の王。魔王じゃ。まぁ、安心せい。儂は邪族以外には危害を加えたりはせんわい」
魔王。この世界にもそういう存在がいたんだ。
とするなら勇者ももしかして?
魔王ことラピス様の言葉で少し安心して息を吐いたら、ラピス様は"ぽんぽん"と私の肩を優しく叩いてくれた。
「ところでじゃがな、勇者はもう死んでおる。殺ったのはお主達もよく知っておるあのスライムじゃ。ドラゴンスレイヤー……。別名レーヴァテイン。あ奴は勇者を一突きで殺った後、その剣をも食しおった。神々が創ったとされる剣をな。お主は儂を怖がっておるが、あ奴の方が余程恐ろしい存在じゃぞ」
"くくくっ"と笑いながらラピス様は私の横を通り過ぎて学校の中へと入っていく。
……。その手前で立ち止まった。
「ああ。言い忘れておった」
学校の玄関前。こちらに振り向くラピス様。
「女子校生っていいよの。お主達の制服姿もそそられるわい」
……………。
私が何も言えないでいると、"くくくくくっ"と笑いながら今度こそ学校の中へと入校していくラピス様。
私はその場で天を仰ぎ、図らずも呟くことになった。
この言葉を―――。
「残念美女がまた1人……」
私は、アイリとミーアに見守られる中、盛大にため息を吐いたのだった。




