8回表 眼前の敵を直視しろ!
《青海視点》
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「泡坂と対等に喋れるのは俺だけだ」
1年と4ヶ月前、置鮎は風祭にそう言った。
「ピッチャーとしてあいつと張りあえるのは全国で俺だけだ。俺たち二人と他の投手との実力差は隔絶している。……その点を踏まえ風祭、お前のバッティングは《《物足りない》》。泡坂とは比較にならない」
「あいつを一人にするな風祭」
「コミュ症のあいつがなに考えてるかは全然わかんねぇよ。俺たちを認めてるのか見下してるのか……でもあいつが青海の中心選手だと、投打ともに最強のプレイヤーだと外の人間が思っていることは確かだ。なにせ大事な場面に限ってデカいことを成し遂げやがるからな」
「それがムカつく。《《復讐してやろう》》!」
「方法は簡単だ。あいつが試合でヘマやって、チームを敗北の危機に追いやって、で、そのときが俺らのリヴェンジの機会だ。俺がマウンドに立って後続を抑え、おまえがあいつが凡退した分バットで取り返すんだ。簡単だろ?」
「俺は準備ができている。おまえはどうだ風祭。そのチャンスが訪れたとき確実にぶっ放せるか?」
「正直言おう、俺たちは無敵だ。2年の夏の今の時点で1年後のドラフト1位候補、泡坂にも俺にもMLBのスカウトが声をかけている。青海に敗北の二文字はあり得ない」
「だから敗北を糧に成長することもできない、そうだよな」
「おまえは泡坂より打球を確実に飛ばせない、試合を決められない、相手投手に勝負を避けられない。そうだよな?」
「だったらおまえは毎試合のように敗北しているようなもんだろ。泡坂に」
「眼前の敵を直視しろ!」
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「左手だろ? 右利きの左打者のおまえに足りないのは左手の精密動作。インパクトの瞬間左手を押し込む正しい感覚が身についてない。だからアウトコースに投げられたら打球に角度がつかない。小さく変化する球を投げられたら飛距離がでない。今村の受け売りだけどな」
「左手の感覚を養うために授業中も左手でノートをとるようになった。あんなきれいな文字で書いてたのに日本語覚えたての外国人さながらだった。歯磨きも箸を持つ手も左にして不器用さらしてる……」
「ま、その程度の努力やって当たり前なんだがな」
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「木製バットで特打(特別打撃練習)か。おまえはミートポイントが狭く飛ばない木のバットに苦戦してた」
「泡坂はもっと早い段階で木製バットを手にしおまえよりもかっ飛ばしているぞ。投げた俺がそう言うんだから間違いない。公式戦は金属バットでもセンスの違いは現れる」
「先達が歩みを緩め待っていてくれるという都合の良い考えはやめろ。泡坂は道を違えない。後進のお前にはその分長足の進歩が求められる」
「泡坂と学年同じなんだからな、忘れるなよ」
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「トップレヴェルの投手は最高のボールを投げればトップレヴェルの打者を打ちとれる。投手にとって練習がほぼイコール実戦であり、再現性があるといえる」
「打者は練習でできた会心のバッティングが実戦で再現できるかわからない。どんなボールを投げるか投手が事前に教えてくれないからな」
「練習して日々成長を実感できない。昨日出来たことが今日出来ないことだってあるんだろ。新しく試している技術が本当に正しいことなのか? 本当に自分にあっているのか? それすら判断できない」
「暗中模索。進むべき方向に進んでいるのかわからない……」
「俺は『盲信するしかない』と思う」
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「約束は守れよ。あいつをグラウンドで孤独にしない。試合中ピンチになってチームメイトに助けられる――そんな当然の出来事がなかったら高校で野球やってる価値なんてねぇからな。《《あのサイボーグに人間らしい感情をあたえてやるんだ》》」
「俺たちは共犯者だ」
「泡坂を救ってやって感謝されて、それでゲームが終わったらあいつを一日パシリにしてやろうぜ。絶対楽しいぞ。なぁ風祭」
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