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甲子園4連覇チームを倒す話  作者: @tokizane
第■■■回全国高等学校野球選手権大会東東京大会決勝戦 青海大学付属高校対松濤高校
54/102

5回表 オーダーはただ一つ

《松濤視点》


『松濤ベンチの会話 その2』

「オーダーはただ1つ、『屋敷がホームランを狙う』、それだけだ」

 そう勢源は宣言する。


 高校野球において強豪校の監督がチームの強打者に『ホームランを打ってこい』という指示をだす場面はそこまで珍しくはない。

 使用するバットが金属製でボールがよく飛び、

 かつプロと違い選手たちの能力が不均一なこのカテゴリーにあっては、

 格下の弱いピッチャー相手に格上の強いバッターが狙ってホームランを打つ可能性は現実味があるのだ。

 とはいえ――


「あのね勢ちゃん、泡坂は高校で1度もHR打たれたことないのよ? あいつがどんな強力な打線と対戦してきたか知ってるでしょ。そいつらでも無理だったのに……」

 比叡が青い顔をして監督に詰め寄ろうとする。他の選手も同様に動揺していた。

 175㎝の俺にホームランを狙え――あまりにも論理が破綻している。

 ホームランを放つには物理的な数字――身長も体重も不可欠なのだ。サイズのない俺にそれを頼むとは。

 勢源は選手たちをたしなめる。

「こっちが必勝プラン講じてることがバレちまうじゃねぇか。そしておまえたちに拒否権なんてねぇ。俺が『こうしろ』って試合中指示出したら絶対守ってもらう」

 俺は首をななめに傾けた。

「オイオイオイオイオイオイオイ。きいてねぇぜ困難こんなの。やんねぇし」

「俺は監督なの! 命令は絶対! 選手の独断専行なんて敗因でしかねぇんだよ」

「HR狙うなんてギャンブルじゃん。打率10割も守れない」

「10割だとかそんなの幻想だ。ったく、大差ついたらどっかで凡退しておけって言ったのによ」

「ないないありません」

「屋敷! お前にしか泡坂からホームランは打てねえ。打つことができたらそれがどんだけド偉いことなのかわかってねぇのか? 試合の流れは間違いなくこっちに転がる。青海を倒す決勝点だ」

 そういう熱血的な展開はいいから。

 部員たちが空気を読め的な視線をぶつけてくる。

 そういえば俺だけ2年生か。一人だけ仲間外れだ。ベンチに夙夜がいて助かった。

 スタンドのざわめきがいやに耳にとどいてくる。松濤のベンチが静寂に包まれているからか。

 誰かが俺の背中を叩く。振り返ると夙夜が顔を近づけていた。

「勝ちたくないの?」

「そりゃ勝ったほうが楽しいさ……でも……狙ってホームラン――」

 相手が泡坂でそれは無理だ。人類誰にとっても。

「3月のときは打てたでしょ?」

「あいつは本気じゃなかった」

 あのボールだから柵越えを狙えた。幸運にすぎない。

「ホントは勝機があると思ってるんじゃないの? これまで2打席ヒットを打てた」

「ヒット狙いとホームラン狙いじゃ話が違う」

「本当は勢源に頭を下げてもらいたくて、『お願いします』的なことを口にして欲しくて駄々こねてるだけなんでしょ?」

 ……。

 夙夜にはなにもかもお見通しか。付き合いが長いだけはある。

 すかさず勢源は胸に手を当て頭を下げる演技くさいポーズをとった。

お願いします(プリーズ)!」

「ノー! じゃなくてイエス! あーはいやりゃいんだろやりゃ。泡坂あいつからホームランを打つ……出来らぁ!」

「大丈夫? 顔が全然笑ってないけど」と夙夜。

 だって無理ゲーじゃん。今村みたく相手の投げる球がわかるならともかく。

 可能性は精々4%か。

 勢源は手を強く叩き、選手たちを集中させる。

「ともかく! 次のイニング相手の攻撃をしのいでからだ! 俺のプランは超完璧」

「松濤の頭取に任せておきなさい」と俺。

「トウドリってなんだよ……。あとは攻めの守りで流れをつくろう! まずはバッテリー!」

「みなさん一生懸命がんばりましょうね」

 気の抜けた発言をする片城キャッチャー

「オレら試合始まってからずっと一生懸命だろ!!」

 ツッコミ役に回るピッチャーが新鮮だった。




『5回表・青海大学附属の攻撃結果』

8番国枝 空振り三振

9番御手洗 空振り三振(振り逃げ)

1番佐山 セカンドゴロ

2番芹沢 四球

3番今村 キャッチャーフライ


 青海はこの回も無得点に終わった。


  青海00000    |0

  松濤0000     |0


『女性三人』

  逸乃「夙夜なら屋敷先輩の身長体重くらい把握してるよね?」

  夙夜「身長は175.4㎝、体重は昨日量ったら65.2㎏でした。身長に対してこの体重は同年齢の平均には達していますが――」

  逸乃「野球選手としては物足りない」

  夙夜「食は細くない――というより健啖家なほうですが、どうしても増えないんです。これでも4月から5㎏も増やしたんですよ。慎一はもともと痩せ気味で……。『どれだけ食べても太らない体質なんだ』っていいますけれど」

  逸乃「一部の女性に喧嘩を売るようなセリフだね。本当に喰えない先輩だよ……。特に打者にとって体重――筋肉の量は打球の飛距離に直結する。だからたくさん食べさせる」

  千歳「だから練習中休憩してるときに間食させてたのね!」

  夙夜「ウェイトもしてますし筋肉はついてきてます。ユニフォーム着たらわからないですけれど」

  逸乃「それをどうやって知ることができたのかはおいておいて……彼に長打を狙わせるならなぜ打順を1番にしたのか、そして長打を狙わなかった第1打席第2打席はなんだったのかという話になる」

  夙夜「試合中失敗を分析している暇はないのでは? 大事なのは今ですよ」

  逸乃「確かに……私たちは完璧じゃない」

  夙夜「それは対戦相手もです。桜さんを打ちあぐねています」

  千歳「『あぐねる』ってなかなか使わない日本語ね……」

  逸乃「屋敷先輩に打席が回ってくるのはあと2回。相手が勝負を避ける可能性だってある。これが本当に正しい作戦なのか――」

  夙夜「野球はもともと個人の才能に依存するスポーツですよ。慎一こそが戦術となってしまうことは避けられなかった。……そういえば昔、世界一の打者になるって私に――ふふっ、話してましたね。あの慎一は私よりも小さくて……(5秒)……かわいい……」

  逸乃「夙夜、試合中に意識飛ばさないでくれないかな。この暑さだし具合が悪くなったのかと……」


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