1回裏 おまえもアウトになるんだよ!
《青海視点》
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泡坂は証言する。
「痛烈な打球が野手の正面をついてアウト、っていうのは試合を観ていればよくあることだけれど……その打球を打ったコースっていうのは大半が四角いストライクゾーンの『辺』なんだ。特に四隅――アウトロー・アウトハイ・インロー・インハイにいいボールがくると、速い打球を打っても野手の定位置に飛んでアウトになりやすい」
「野球のルール――ストライクゾーンだとかフィールドの設計が上手くできている証拠だよ。ピッチャーが質の高いボールを四隅に投げさえすれば当てられてもアウトがとれる。ヒット性の当たり≠ヒットってことね。だからトップレヴェルを目指したいなら野手のいない位置に打球を飛ばすことを学ばなければいけない(プロは『惜しいかった』じゃなくて結果を残さないといけない)。そのためにボールの叩く位置を状況に応じ真芯から微妙に変え、もしくはスイングの軌道を変え、打球を意図的に操作することを覚えないといけない」
「別に難しいことを言っているわけじゃない。テニスだとか卓球だとか……他の球技じゃ打つボールに回転をあたえて変化させることは普通の技術でしょ? 考えてみたら屋敷がやっていたスポーツばっかりだね」
「打球を操作する感覚は一朝一夕では……というか小学生のころからその感覚で打ってないと高校生の今一流を相手にその技術を使うことはできない。才能もそうだけど経験も必要」
「他の高校生もある程度は『打球操作』の技術は使っている。でも俺や屋敷ほどは使いこなせてない。俺は長打を放つために、屋敷は確実にヒットを打つために使っているから成績は似通わないけれど……」
「四隅投げを攻略するために『打球操作』という技術がある。じゃ、その『打球操作』を使う打者を攻略するためにピッチャーはどうすればいいのかって言うと、それは単純に《《バットに当てることもできないボールを投げればいい》》」
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置鮎は証言する。
「まったく身も蓋もないことを言うな泡坂! 人に変化球教わろうっていうのに少しはかしこまったらだろうなんだ? 将来日本を代表するピッチャーになるこの俺に!」
「『1億積んで頭を下げろ!』ってレヴェルだぞ。わかってんのかこのベースボールマシンがよ。人の心ねぇのかよ!」
「屋敷対策? あいつは確かにヤバいバッターだったが……」
「ったく。こっちが断れねぇのわかって頼んでんだろ? 人の良さそうなツラしておいて本当性格悪ぃな……だが対価を寄越せ。金なんかじゃねぇ」
「俺の彼女だよほら! 美人だろ? 一瞥で視線切んじゃねぇよおまえ! 野球以外興味ないサイボーグかおまえ……。選手権終わったら彼女とデートするからおまえついてこい。少しは普通の高校生っぽいこと教えてやるからよ。1日空けとけ」
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泡坂のフォークボールは……。
(置鮎の唯一絶対のそれとはまるで比べものにならない出来やった)。
置鮎が強打者たちから空振りを奪いゴロを打たせフライを打たせカウントを稼ぎ打ちとり続けてきたフォークに比べたら、コントロールも精度も劣るだろう。
(せやけど落ちる)
落ちる変化球ほどバッターから空振りが奪えるボールはないのだ。
泡坂はチームメイトかつライヴァルである置鮎に頼みこみ、この3ヶ月間この1つの変化球を覚えることに多大な時間を費やし、そしてマスターした。
今の泡坂は本物のフォークボール投げることができる。
実戦ではまだ投じていない。
一度だけ使える奇襲攻撃。
それを1回表の先頭打者に使う。それだけの価値が屋敷にはある。
(敵は過大評価するにこしたことはない。10割という数字はどこまでも真実なんやから――)
『打球操作』という技術も、当たらなければどうということはない。
カウントB-S。
今村のサインに泡坂はうなずく。
(さぁ空振れ! 跪け! おまえも死になるんだよ!)
投じられたボールは、最初はストレートと同じ軌道、
だがボールにかけられた回転は低速、ゆえに下向きの揚力が発生し、
打者がスイングを開始するタイミングで落ち始める。打てるはずがない。
しかしボールが低い。
(地面に叩きつけられる!)
泡坂のフォークはホームベースの手前で跳ねた。
遮蔽のため両膝を落とす今村。
両チームの選手ほぼ全員が思った。
(泡坂の第5球は大きく外れた。屋敷は見送り決着は3-2になってから)と。
だが現実には、
屋敷はスイングを開始する。
バウンドしそれでも膝よりも高く上がらなかったボール、
それを、ほぼ真下に振り下ろしたバットが捉える。
ゴルフスイング。
(こいつ、軸足を抜いて無理矢理クローズスタンスに!)
ストライクゾーンのはるか下部の跳ね上がったボールを正確にとらえ、打球は三塁手後方へ。その守備範囲を越える位置までボールは飛翔し、
左翼手の前に落ちた。
これで22打席連続安打。
10割継続。
1塁ベース上の屋敷は控えめなVサインをベンチに、そしてあてこすりで泡坂にむけている。
ベンチの夙夜が片眼を閉じ、手のひらを上にして眼の下に添えるという謎のポーズをして屋敷を見ていた。
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