一人じゃ怖かったんですね
ファミレスに合流すると片城発見。素晴らしい。「ファミレスってもうちょっと遊ぶ場所選べよ」「おまえみたいに金ねぇんだよ」と勢源。「今村さんから電話きましたよ。『甲子園はストライクゾーン広いから気をつけろ』とのことです」と片城。「毎日アドヴァイスしてくるぞあいつ」と俺。「自分たちに勝ったんだから甲子園でも優勝しろってことじゃない?」と比叡。俺はデザートを注文する。「まだ食べるのかよ」と呆れ顔の勢源。「で、どうしたんだ? わざわざ俺呼び止めて」「「「おまえが呼んだんだろ!!!」」」「そうだっけ? でもここで話すのはちょっとな」勢源がいるここでは話せない。「甲子園関係あるのか?」「勢源は甲子園優勝したいのか?」「高校球児なら当然だろ」「意外と常識人的なふるまいをするんだな」「なんのためにおまえら鍛えてきたと思ってんだ」「? 青海に勝つためじゃないの?」「それはあくまで目的の一つだ」「俺の命令はそれだったはずだが」「おまえのことなど知ったことか。甲子園は怪我人がでない限り全力で勝ち進む」「怪我人ならでてんじゃん」俺とアダム。桜も疲労困憊だ。「俺は監督だ。全権を寄越せと言ったはずだ」「知らねぇよ。このままじゃ神風特攻、どこか引き際が必要なときは俺に任せろ」「なにを?」「マウンドを。俺一人が恥をかけばいい。それはそれとして少しは見栄えがいいフォームを覚えないとな」テーブルの上で腕を振り回す俺。「どうしたおまえら?」「1年目にしては上出来すぎますよね」「同意見よ」片城と比叡はこちら側のようだ。追いつめられた眼をする勢源。「決勝戦が終わったその日に言うことか……?」「所詮現場指揮官には戦略が立てられない。俺たちの目標は青海を倒すことだった。あとはボーナスゲームだよ。甲子園が2度とない機会なのかもしれない、でもおまえらはまだ1年だ。未来はある。完全燃焼する必要はない。他の奴らには言わないでいいけれど、全国では『潮時』を認識するときがくるだろう。敗北を甘受する時期がくる。なんたって九人だし、今日も含め都大会なんて奇跡の連続だったし」「あとは勢源君の一存ですよ」「……わかった。《おまえら三人がそう言うなら、俺は共犯者になるよ」」「どうした比叡」比叡が手を挙げてる。「勢ちゃん、悪いけど帰ってくれない? 屋敷は目的片城なんでしょ」「ま、そうだよ」「じゃ帰って」「俺だけハブりかよ。いやいいけどよ。どうして俺はダメなんだ?」「そりゃただの気分としか言いようがないわよ。そうね、まだ4ヶ月の付き合いだけど、なんとなぁく見下してるところがあるのよね部員のこと」「うわギスり展開」「黙ってて屋敷。一度辞めたくせに野球馬鹿なところが抜けてないのよ」「野球部員が野球馬鹿で悪いのか?」「私はコーチのことで一度野球辞めかけたのよ。あのとき学校に野球部の見学にきて、雰囲気が悪かったらそのまま野球部に入らなかったかもしれない」「ああそうかよ」「屋敷、あんたの言葉には夢があった。青海に勝てるだなんて……すごいことを言ってそして実現した」「勢源は悪いけど帰ってくれ。今日は祭だから許すが……」「おまえまで……」「勢源の今日の仕事なんてサヨナラホームランの比叡がやってのけた仕事に比べたら大したことない。高校野球史上もっとも価値のあるホームランだった。済美の逆転サヨナラ満塁ホームランより上、横浜の17回表の2ランより上だろ」「試合で活躍しないと発言権ねぇのかよ」と勢源。「栄光なんてもう過去のものよ」比叡はきっぱりとそう言った。「素晴らしい。比叡はこれからなにかしたいけどそのとき勢源がそばにいて欲しくないと」「ええそう。性格的にあんたにはいて欲しくない」「俺の性格ってそんな悪いか?」勢源は俺を見ながら言った。「俺みたいな聖人にはなりきれてないって感じだな」「おまえが聖人?」「勢源君はしきりたがりなんですよ」片城は指摘してくれた。まぁ納得しかない。しばらく黙る勢源。「わかった。比叡の言ってっことは正しい。俺は帰るよ」「で、比叡はどっか行きたいところあるの?」「海」きた。「なにすればいいの?」残ったのは三人、俺と片城と比叡だ。「電話をするから」そう言ってスマホをとりだす比叡。「なになに?」「見守って欲しいの。ただそれだけ」「海にむかって叫ぶのかと思った」「優勝してけっこう時間経ってますからそういうテンションじゃないですよ」「そういえばこういうシチュエーションのマンガがあったような。大会に優勝した選手たちが海にむかって並んでポーズ決めるんだよ」「誰に電話してると思います?」比叡が俺たちから15メートルほど離れ通話を開始した。「わからん」「コーチじゃないですか、シニア時代の」「比叡に手をだした奴か」「今までずっと話ができなかったんじゃないですか」「そもそも連絡できるんだ」いろいろな意味で。「一人じゃ怖かったんですね」比叡は小声で話しどんなやりとりをしているかはわからない。……しばらくすると、比叡は、空いた右手で自分の太ももをつかみ、膝を抱え、しゃがみ、砂浜に座りこみ、スマホをしまい、顔をおさえ、海のむこうがわの暗闇を見続けていた。戻ってきて一言。「ダメだった」「眠って忘れろ」無理だと思うが。「勇気ありますね」と片城。眼を赤くした比叡は帰った。今日一日のアップダウンが半端ない。残りは二人。




