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伯爵、友と語らう 3

「独立するつもりなのか⁈」


「まあ、そのうちね。市民革命なんて血だらけな道は却下。単にユースがのし上がるには、これまでの道化的な態度や貴族の権力争いなど障害が多い。普通に独立宣言なんてしたって潰される。そこで他国の後ろ盾だ」


 レグルスがテーブルの中央にワインボトルを置いた。


「いいか、フィラント。数十年前から西の大国大蛇連合国と大陸中央の煌国は停戦中。大国同士のいがみ合いにはかつて、このアルタイル国も迷惑を掛けられた。しかし、先程も言ったように両国の直線上では無いので我が国に多大な被害はなかった。しかし、このアストライア領地は違う。この辺りが荒れているのは、かつての大戦の爪痕だ」


 ワインボトルを挟んで左右に、レグルスとフィラントのワイングラスが置かれた。ワインボトルがアストライア領地で、ワイングラスが大蛇連合国と煌国なのだろう。


「大蛇連合国は連合国同士で少々ゴタゴタしているという。煌国は大陸中央の統一を目指していて近隣諸国吸収に勤しんでいる。で、その忙しい両国は20年程前から交易を始めて、かなり儲けている。そして停戦を象徴する絆もある。この2カ国は反目するより、手を結んでいる方が良いとは馬鹿でも分かる。両国は年々、親密になっている」


「大蛇連合国と煌国の交易に噛む気なのか。得は互いの国を行き来するよりも近くなるとかか?」


 ここ最近、ユースが国外へと出ているのは知っている。大蛇連合国か煌国へ赴いているのだろう。いや、大蛇連合国は遠い。煌国の方がまだ近いからそっちか?


「そっ。他にも色々ある。1番は新興国家建国の後押しをしたという恩を与えることだ。どのみち煌国に潰されるなら、先に白旗振って良い条件で下僕になる方がマシだろう? 大蛇連合国は言わずもがな、煌国からも微妙に遠い土地なので、自治させて利益だけ享受する方が楽で得。そう、話を運ぶ」


 この国が他国を侵略したり、逆に侵略に対処していたり、グラフトン公爵やカンタベリ公爵が権力闘争をしている間、2人はこんな大それたことを考えていたのか。ユースとレグルスはいつも遠くを見ているとは思っていたが、まさかここまで。


「このアストライア領地は交易ルートとしては良い立地だが、治安や街並みなど最悪だった。目下改革中。大蛇連合国と煌国に媚を売り、両国の権力者とのパイプが欲しい」


 それで、流星国とかいう国の要人に取り入れ——正確にはエトワールを働かせろ——という話だったのか。


「前に話していた、流星国か。少し調べたが、何の情報も無いのだが……」


「国王と妃が停戦の象徴。なんでも、妃は大蛇連合国の神に愛される娘らしい。大蛇連合国で異彩を放つ存在だという噂を仕入れている。で、その妃は煌国皇帝の弟に溺愛されている。大蛇連合国と煌国、どちらにも権力がある夫婦なので擦り寄るべき。大蛇連合国の頂点ドメキア王国は遠い。流星国は近いし、大蛇連合国と煌国の交易の中心だ」


 レグルスがテーブルの上に置いてあった、ワインのコルクを掴んだ。


「そこらへんはユースが少しずつ情報を仕入れている。で、我が国の顔だけ姫を使って大蛇連合国や煌国の要人を集めることにも成功しそう。っていうか、話をしているときにもっと興味を持てよ。質問しろよ。流されるままっていうのは君の悪いところだ」


 ようやく、点と点が結ばれた気がする。レグルスが何故かコルクをフィラントへ渡してきた。受け取ろうとしたら、コルクを額にぶつけられそうになった。思わず手で払う。一瞬、目上に何しているんだ? という考えが脳裏をよぎる。しかし、レグルスは愉快そうに笑っただけだった。


 こういう考え方、態度を見抜かれているのだよなとフィラントは苦笑いを返した。


「そっ。好きに怒れよ。で、ユースが仕入れてきたんだけど岩窟龍国のルタ皇子。煌国皇帝の気に入りらしい。宝石採掘の件にかこつけて、ゴマすってきて。あの美しい石、もう間も無く我が国では宝石と認められる。ライラ夫人、英雄の妻エトワール夫人のお気に入りだからさ。競争相手が出てくる前に交渉を取り付けてきて。独占契約だからな!」


 え? フィラントはコルクを落とした。


「帰宅早々、岩窟龍国へ行けと?」


「時は金なりフィラント! 君が不在の間、ユースを信頼していても不安で眠れなかった。仕事が捗る捗る。騎士達も燃えているし、副隊長兼領主補佐官が不在でも大丈夫! 忠誠心の厚さを誇りに思っていたのに国家反逆罪の冤罪。精神的に参って療養。そんな感じかな?」


 一難去ってまた一難。調べてあるが、岩窟龍国は煌国より更に東。道も険しそう。カシムからもそう聞いている。


「これは命令じゃない。フィラント、自分がどうしたいのか良く考えろ。裏切らなければ、協力しなくたっていいんだ」


「俺は裏切りなんて……いや、ユースに酷いことを言った。手厚い振りで駒にするって……」


「合ってるだろう。俺はユースのやり方は好きだ。基本的に両者損をしないからな。難しい道や手段を選ぶユースを尊敬もしている。岩窟龍国へ行くかは3日以内に決めてくれ。誰かに先を越されたら困る。俺は信頼して、なおかつ得をして欲しいから君に頼んだ。領主命令にしても良いけど、今の君の立場なら大抵の事に対して拒否権がある。それを忘れるな」


 バンバン、と背中を叩かれた。


「行きたい気持ちはあるが……。ただ、エトワールをどうするか……」


 ユースやレグルスの後押しをしたいし、亡命先確保にもなるかもしれない。エトワールの瞳に似た宝石も欲しい。しかし、エトワールから目を離すのは恐ろしすぎる。


「そこは君の忠臣、ゼロース隊長や小隊長達やロクサス卿と相談しろ。呼んで来る。さあ、飲め。今夜は真の仲間入りの祝い酒をしこたま飲むぞ! ついでにエトワールちゃんとどこまで進んだのか話せ」


「ど、どこまで……喋るか! それにもう飲むか! 帰る。俺は家に帰……」


 家に帰る。フィラントには帰る家がある。


「なんだ急に涙目になって」


 レグルスに髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でられた。


「いや、帰るというのがなんだか妙に……。レグルス、ありがとう……。ユースと2人で俺に今の生活を与えてくれたんだろう? きっと、かなり無茶とかして……」


「はっ! 今更! 感謝が遅い! それに、ユースの影武者役でルクス領地での国境線戦に行ったり、俺の出征時に俺を囲う作戦を立てた挙句に自分は最前線って男に感謝しない奴がいるか?」


「まあ、普通にいるだろう。王都にゴロゴロ」


 つい、そう口にしたらレグルスに頬を抓られた。


「そいつらと俺達を一緒にするなよ! いたら、ぶっ飛ばす。腕力は無いから権力でだ。帰れ帰れ! 待機させられているゼロース隊長やロクサス卿は可哀想だな。帰るのは良いが、フローラと話してから帰れよ。今回の件、フローラに凄い怒られた。何もしないのか! ってさ。俺はフローラに言えない事ばっかりだ。レグルスのおかげってうんと褒めてから帰れよ!」


「それは、そうするが……フローラさんには何も話してないのか?」


「まあね。信頼しているけど……色々迷うからさ。彼女の親族を蹴落とすかもしれないとか……しがらみって難しい。フローラが何処まで俺についてくるか自信もない」


 自信家のレグルスから「自信がない」なんて台詞を吐くなんて衝撃的。


 もう少しレグルスと飲んで語るか。フィラントは帰るのを止めてソファにもう一度腰掛けた。


「何だ、帰らないのか?」


「色々、聞いてみたいしな。仕事じゃない話について」


 大きな声を出して笑うと、レグルスはテーブルの上のワイングラスを2つ掴んだ。


「やはり変わった。よし、飲むぞ。ゼロース隊長とロクサス卿を呼んでくる」


 レグルスが書斎を出て、しばらくして戻ってきた。フィラントは連れてこられたゼロース隊長とロクサス卿にワイングラスを渡して、白ワインを注いだ。この2人、レグルスのお気に入りだと今日まで知らなかった。レグルスは酒は好きだが、興味の無い相手や嫌いな人物とは決して飲まない。


 帰還祝いだと、レグルスが口にする。4人で乾杯した。


 グラスが鳴る音を、初めて小気味良くて耳触りの良い音だなと感じた。

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