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伯爵、友と語らう 2

 領主邸のレグルスの書斎に2人きり。フィラントはレグルスに差し出されたワイングラスを受け取った。


「あちこちから、色々と聞いているがとんだ災難だったな」


 向かい合うソファにそれぞれ腰掛けているが、レグルスがいつになくソワソワしている。こちらも落ち着かない。


「レグルス、君はどこまで知っている?」


「どこまで? ユースがお前に自由を与えようとした。そこまでだ。で、フィラント。てっきりユースと決別すると思っていた」


 思わず、ワイングラスを落としそうになった。


「俺に自由を?」


「ああ、全部話して素直に問いかけろって言ったんだけどな。ユースは首を縦に振らなかった。フィラントは本心を飲み込む。そう言って、強硬手段を選んだ」


 レグルスがゆっくりと大きな呼吸をした。次は肩を揺らして、ソファにもたれかかる。


「どういう意味……そういえばエトワールが……」


「エトワールちゃんがどうしたって?」


「ユースの本音は、俺とエトワールだけを逃がしたい。わざと俺を怒らせたのではないかと……」


 パチンッとレグルスが指を鳴らした。ニッと歯を見せて笑うと、レグルスは大きく頷いた。


「まさしく、その通り。君の天使、宝物。目に入れても痛くない可愛い妻が酷い目に合えば君は怒り狂う。で、流石に自己主張をする。まあ、ユースはエトワールちゃん自体も気に入っているから相当気を遣っただろう」


「ユースがエトワールを?」


「何せ君を幸福にしてくれる存在だ。自分で気がついているか知らないけれど、随分と雰囲気が変わったぞフィラント。睡眠不足に摂食障害も治りつつあるしな。友の良い妻を嫌いになると思うか?」


 睡眠や食事の件は指摘通りである。


「雰囲気が変わった?」


「気がついていないのか。まあ、いい。そのうちユースがやってきて、君の出頭についての真実を教えてくれる。なので、何があったか語らなくても良い。俺が聞いておきたいのは、ユースとのことだ。エトワールちゃんがユースの本音を見抜いた。それで、君は今の立場でいることを選んだ。その辺りのことを知りたい」


 珍しく真剣な眼差しのレグルスに、フィラントはユース王子とのやり取りを語った。それから、エトワールの言葉。エトワールに言われて、ユース王子と決別しなかった事をレグルスへと伝える。


「死と隣り合わせで良いとは豪胆だな。それに、ユースを脅すとはとんでもない」


 レグルスは考え込むように、少し俯いて顎をさすった。


 脅す?


——ユースお兄様、私のことも大切にして守ってくれますよね?


 確かにあの台詞は脅迫といえば脅迫か。


「ユース、泣きついてくるかもな。仕事が増える。俺はフィラントはユースから離れないと思っていたが、ユースを捨てる決心をするまでエトワールちゃんに惚れていたなんて驚き。で、ぽややん娘のエトワールちゃんの意外な一面には驚愕」


 エトワールちゃんに惚れて、そう言われた瞬間、フィラントの顔が火照った。


「うわっ、真っ赤。そのしかめっ面で赤くなるのは止めろ。激怒に見えるんだよ」


 レグルスにケラケラ笑われた。激怒に見える? そうなのか。知らなかった。


「エトワールは危なっかしいし、危機感が無さすぎる。俺、正直どうエトワールを守りながらユースに協力すれば良いのか分からない。そもそも、ユースの目的を知らない。ユースは教えてくれない……」


 急に立ち上がったレグルスが、ワイングラスを乾杯というように動かした。


「賭けは俺の勝ち。フィラント、君はユースを支える道を選ぶと思っていた。君とユースの間にある絆は主従関係や損得感情ではなく本物の友情。俺はユースにそう言った。俺達の目的を話して3人で未来を切り開こうってな。賛同しなくても、フィラントなら裏切って俺達を売るなんてことはしない。俺は前から君に話をしたかった」


 十中八九、ユース王子はレグルスと手を結んでいると思ったがやはりそうなのか。フィラント1人だけが蚊帳の外だった。


「除け者で腹が立ったか? ユースに怒れ。ユースは君に対して過保護なんだ。フィラント、君が自己主張をしないでユースや俺の為なら何でも引き受けてきたからだ。しかし、君は変わった。ユースが色々と策を弄した。ユースは本物の対等さを求めていたからな。嬉しい誤算はエトワールちゃんが思っていた以上に君の懐に深く入ったこと」


 立て、そう目で訴えられている気がしてフィラントはおもむろに立ち上がった。


「いいか、フィラント。そのうちユースは王位継承権を放棄する。リチャード王子は他国へ引き取られるだろう。レティア姫も同様。アルタイル国に残る後継者は1人だけとなる」


 テーブルを回り込んできたレグルスに肩を組まれた。レグルスは白ワインを一気飲みして、次を注げというようにフィラントへグラスを傾けた。素直に応じる。


「そのうちというか、もう放棄したらしい。本人曰くだけどな。ビルマ王子に玉座を与えて、裏から牛耳るのか? この国を他国に売って……」


「売りはしない。共存といって、お互いに利益があるようにするのさ。このアストライア街は、西と東の中間地点。アルタイル王国だと交易路からズレる」


 レグルスに促されて、フィラントも白ワインを口にした。程良い酸味とほのかに香る果実の匂い。美味い、そう感じた。


「優秀な人材、信頼出来る者、それから王家に反発する助けるべき市民などをこの街や領地へ集める。この街を整備し発展させてな。アルタイル王国なんざ欲しい者にくれてやる。醜い権力争いはうんざり。最初からやり直すんだ」


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 嘘だろう?


 開いた口が塞がらなかった。

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