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伯爵夫人、秘密を知る


 何処かへと向かう馬車。もう、夜が訪れています。ランタンの灯りに照らされるレティア王子様は、やはりどこからどう見ても、麗しいお姫様。けれど、この方は王子様らしいです。


 私が勝手にその秘密を話したので、女騎士ミネーヴァは驚愕で固まっています。


「状況説明しておくから、把握しておいて姉さん。ミネーヴァ、話せ」


「お、お、おう、王子……」


 ミネーヴァが腰を抜かして床に座り込みした。私、何故「姉さん」なのでしょう? フィラント様がユース王子様と兄弟みたいで、レティア王子様とユース王子様が兄弟だからと言っていました。王子様に「姉さん」と呼ばれるなんて、変な気分。


「話は後でするミネーヴァ」


 レティア王子はミネーヴァを優しい手つきで、ご自分の隣へと誘導ました。ミネーヴァは放心状態。


「姉さん、グラフトン公爵はユース兄上と目障りな成り上がり騎士を叩き潰したい。なので、俺は彼に餌をぶら下げた。レティア姫がフィラント伯爵に恋い焦がれて、ロクに食べない。睡眠不足で倒れる。駆け落ちするとか、死ぬとか大騒ぎ。そういう感じ。で、それを利用してグラフトン公爵はフィラント伯爵を罠に掛けた」


 何ですって⁈ つまり、フィラント様を陥れようとしているのは、目の前にいるレティア王子様。グラフトン公爵はフィラント様を、悲惨なゴルダガ戦線の最前線へと行かせた方らしいです。


 レティア王子様は味方ではなく、敵だった。何てこと。


「おい、最後まで聞け。睨まないでくれ。グラフトン公爵は以前からあの手この手でユース兄上を懐柔しようとしていた。兄さん、ああ見えてあちこちに顔が効く。グラフトン公爵は墓穴というか、やることなすこと兄さんの神経逆撫で。それで、グラフトン公爵と兄さんは敵対している」


 中央政権の派閥争いについては、フィラント様が少し教えてくれました。ユース王子様が権力闘争に負けた時が亡命する時。そう、聞いています。


 今は、どうなのでしょう? 逃げる前に捕まってしまいました。フィラント様の知らないところで、ユース王子様が蹴落とされた?


「グラフトン公爵はフィラントを自陣に招いて、ユース兄上と交渉するつもり。俺はフィラントと君を保護してユース兄上に恩を売りたい。俺は兄さんに味方になってもらいたいんだ。いいか、俺はグラフトン公爵を欺いて君達をユース兄上へと引き渡す」


 この話、信じて良いのでしょうか? 複雑そうに感じる人間関係。私にはサッパリ判断出来ません。


「フィラントが君を大切にしているのは調査済みだ。傷1つつけないで、フィラントへ返す。信じることは難しいだろうが、信じて欲しい。だから、長年仕えてくれているミネーヴァのような忠臣でさえ知らない秘密を君達夫婦へ打ち明けた」


 ……。


 どうしましょう。確かに、とても手厚く保護されたと言えるような状況です。しかし、巻き込まれなかったら、今頃私とフィラント様は仲睦まじい新婚生活を続けられました。


 誕生日祝いの準備をしていたのに!


 フィラント様は1度もそういう事をされたことがないと、ユース王子様に聞いていたので張り切っていたのに!


——フィラントが君を大切にしているのは調査済み


 私は人質。フィラント様の足枷みたいです。


「嫌です。そもそも、巻き込んですみませんとか謝罪は無いのですか?」


「はあ? 先回りして保護してやったんだぞ!」


「そうなのですか? それなら、その話を先にして下さい。今の説明ですと、レティア王子様もフィラント様を蹴落すのに協力したと感じられます。保護なんて嘘かもしれません」


「グラフトン公爵は難癖つけて、近々フィラントを捕縛するつもりだった」


「ユース王子様やレグルス様が、その前に手を回してくれた筈です。そもそも、何故フィラント様はグラフトン公爵にそんなに敵視されているのですか?」


「フィラントの行動の何もかもが、市民へのアピールになっているからだよ。それは、そのままリチャード王子やユース王子の高評価に繋がってきた。まあ、そう仕向けているのはユース兄上だ。フィラントを守るために。ユース兄上は、相当フィラントを大事にしている」


 その話は、本当です。ユース王子様はフィラント様こそ家族だと言っていました。


「レティア王……レティア様はどうしてユース王子様に味方してもらいたいのですか? そもそも、何故お姫様だと偽っていたのです? 王都でフィラント様と親しげだったのは何故ですか? おめでとうという祝辞は本心ですか? 嘘だったのですか?」


 レティア王子様は少し目を丸めて、瞬きを繰り返しました。


「この状況でよくそんなに堂々としていられるな……」


「堂々と? 心臓がバクバクいって煩いですし、手も震えています。しかし、聞かないと分からないでしょう? 私には反抗する力も逃げる能力もありませんから、諦めています。保護が本当なら安心ですし、私の方が優位です。あることないこと、ユース王子様やフィラント様に言いつけられますもの」


 私は膝の上で両手をギュッと握りしめました。


「自分を害する相手の雰囲気や目くらい分かります。少なくとも、アテナさんとミネーヴァさん、レティア王子様は酷いことをしなさそうです。アテナさんは少し怖かったですけれど、今は居ません」


 レティア王子様とミネーヴァが顔を見合わせました。


「レティア様、聞いていた方と同一人物とは思えません。そもそも、私も何を信じて良いのか分からなくなりました……」


 ミネーヴァが渋い顔になり、レティア王子様はご自分の長い髪を優雅な仕草で撫でつけました。


「ああ、そうだな。君が言う通り、姉さんの心臓には毛が生えている。フィラントには脅迫されると思っていたけど……。ミネーヴァ、フィラント伯爵と奥さんを逃がしたいと言ったのは本当。君達と必死にグラフトン公爵を出し抜く方法を考えたのも嘘ではない。ただ、理由が違っていただけ」


 苦笑いを浮かべると、レティア王子様は肩を竦めました。


「愛する者の愛する者まで守るべき。フィラントを愛しているから、守りたいっていうのは大嘘。俺は君達家臣をどうにか守りたいだけだ。ユース兄上同様に、俺も誰につくのか選んだ。何もかも父上のせいだ……」


 父上? 国王陛下の事でしょうか? レティア王子様が俯いて、顔を両手で覆いました。


「俺が姫として育てられたのは父上の命令だ。第4王子がどう生き抜くか見定めるため……。父上は、兄上達にもそういう足枷、試練を与えているらしい。教えてくれないから、具体的な内容は知らないけど……」


 それって、表向きの王太子はリチャード王子様だけど国王陛下は後継者に相応しい息子は誰かと観察しているということでしょうか?


「姉さん、君達夫婦が俺に対して優位なのはその通り。どうか、助けて欲しい。俺はともかく、レティア姫に誠心誠意尽くしてきた忠臣を助けて欲しいです。巻き込んですみません……」


 面をあげたレティア王子様は、あまりにも儚げな姿です。さめざめと泣く美少女には胸が揺さぶられます。しかし、こう、微かに嘘の臭いがします。


 ただ、謝罪は本心のような感じがします。


 感動したのか涙ぐむんでいるミネーヴァは、嘘っぽくないです。彼女のレティア王子様——ミネーヴァとしてはお姫様——への思慕は本物のよう。


「姉さん、フィラントには俺の従者が度々世話になっている。だから、悪いようにならないように努めます。姉さんにも協力を頼もうと思っていたけど、難しそうなのでフィラントだけに頼むことにする。必ず、傷1つつけずにフィラントの元へ返す。神に誓う」


 レティア王子はまた顔を手で覆って、肩を震わせました。啜り泣きが馬車内に広がります。ミネーヴァが泣きながら、レティア王子様を抱きしめました。


 国王陛下と4人の息子達は、どうやらとても複雑な関係。犬猿の仲の公爵達は国王陛下の掌の上なのではないでしょうか? 知りたくもない秘密を知ってしまいました。


 どうにかして、フィラント様とユース王子様と逃げたいです。レティア王子様とミネーヴァが泣き続けるので、私もあれこれ不安が強くなり、明るい未来の想像も出来なくて、つられるように泣きました。


 アルタイル王国は、この先どうなってしまうのでしょう?


 田舎の貧乏子爵令嬢だったのに、こんなことに巻き込まれるなんて、人生とは実に奇妙で予測不可能です。

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