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伯爵、友と語らう

 結婚2ヶ月が過ぎた。仕事も含めて相変わらず極楽みたいな日々。仕事量は多いが、やるだけ褒められるし市民からの信頼も得ている雰囲気がある。


 ユース王子とレグルスのお陰で、汚れ仕事から足を洗えた。今のところ、派遣されそうな大きな戦争もなさそう。


 ここのところ、酒や食事を美味しいと感じる。肉はまだ苦手。突然吐きそうになる。


 領主邸の応接室にて晩酌。窓の外はもうすっかり暗い。仕事後にレグルスに呼び出されたら、まさかのユース王子襲来である。ユース王子は毎月現れるつもりなのか?


 向かいのソファにレグルスとユース王子が並んで座り、フィラントは向かい側。酒は白ワインで、つまみはチーズ。


「いやあ、やっと3人で過ごせる。ここに寄る用事を思いつくのも大変だし来ても2人とも忙しいんだもん」


「そりゃあ、王太子と君の支援の為にこの領地を発展させないとならないからな。で、ユース。王都は大丈夫なのか?」


 レグルスがワインボトルをユース王子の手にあるワイングラスへ傾けた。


「何とか。父上の体調が悪くなってから、水面下での後継者争いは酷い」


 王太子対第2王子の対立というか、第2王子とその一派が王座を狙っているのは聞いた。


「それに、互いの悪評を流すものだから市民は王家そのものに不信感。市民革命とか起きるかも」


「市民革命って何です?」


 フィラントの問いかけに、ユース王子はワイングラスを天井に向かって高々と掲げた。


「王族や貴族ではなく、市民が自分達で国を動かす。そういう動きさ」


 立ち上がったユース王子は、何故か一回転した。


「栄枯盛衰。世は無情。100年続くこの国もそろそろ転機なのだろう。兄を祭り上げるには、民の信頼を集めないとならない」


 軽く会釈をすると、ユース王子はニヤリと笑った。


「家柄ではなく実力主義の領主。劣勢だったゴルダガ戦線を勝利に導いた奴隷上がりの騎士を領主補佐官に抜擢。治安最悪の街を生まれ変わらせた者達が、王都の弱者を救う。そういうパフォーマンスさ」


 そういう理由で、フィラントは過剰なくらいの役職を与えられたのか。


「まあね。しかし、市民革命か……。共食いしていると隣国や東西の大国に潰される。どう思う? ユース」


 チーズをつまみ、口に放り投げたレグルスが腕を組んだ。


「あれだけ苦戦したゴルダガは煌国に潰されかけている。煌国は大陸中央を統一するのだろう。ゴルダガの次はこの国だろうな」


「その煌国は西の大蛇連合国と手を結んでいるんだろう? 王権交代とか市民革命なんてしていたら、我が国はぺちゃんこだな」


 ユース王子とレグルスの話に正直ついていけない。フィラントはワイングラス口をつけた。今日は味がする。少し苦めだが軽くて飲みやすい。


「この国の歴史なんて大蛇連合国や煌国に比べたら赤ん坊。より良い条件で属国や植民地になるのがマシな道だろう。それを分かってない連中が多い。あと、問題は西と東のどちらにつくのが良いのかだ」


「どうせ、大蛇連合国と煌国はそのうちまた戦争をする。休戦なんて泡沫さ。この国も含めて、挟まれている小国は右往左往することになる」


 ユース王子とレグルスのワイングラスが空になったので、フィラントは2人のグラスに白ワインを注いだ。


 この国の先行きは不安なのはヒシヒシと伝わってくる。


「まあ、君達は今の仕事に励んでおいて。悪いようにはしない。去るのは自由だけどね」


「去る? まさか。リチャード派、ビルマ派、市民派とどこにでも転じられる絶妙な立ち位置。まあ、裏切ったらすまんユース」


 あはは、と呑気そうな笑い声を上げたレグルス。


「レティアを忘れているよレグルス」


「レティア姫様は大蛇連合国中枢、ドメキア王国に嫁がれるのでしょう?」


 はあ? フィラントは声を出しそうになって唇を結んだ。実は男、のレティア姫——王子——を西の大国に嫁がせる?


「レティアは嫁にやると相手を怒らせる。気性が激し過ぎる。それに嫌だとゴネている。相手が欲しいのは絶世の美女。だから変わり身を贈る予定。相手のジョン王子は美しくてそこそこ教養のある側室が欲しいらしい」


 神妙な面持ちのユース王子に、フィラントは寒々しさを感じた。


「レティア姫様の生誕の儀に諸外国の要人を招待。不細工の替え玉、もしくは病だとかなんだで容姿を貶めたレティア姫様本人を表に出す。自分の息のかかった器量好しを差し出すつもりか。そこにフローラを? それなら寝返るぞ」


 微笑みながら、レグルスは低くて静かな声を出した。レグルスを見つめるユース王子は小さく頷いた。


 ユース王子はレティア姫が王子だとレグルスにそのうち話すと言っていた。まだ、話さないのか。


——半年後に仕事を頼む予定。この城の晩餐会でちょっと働くだけ


 王都で言われたのは、このことか。いや、そもそも器量好しのエトワールを見つけて教養を叩き込むためにフィラントと結婚させたのだろう。


 ユース王子がゆっくりとフィラントに視線を移した。


「レグルスはそうだろうね。ならフィラント、頼む。君もエトワールちゃんも大出世出来るぞ」


 瞬間、フィラントは首を横に振っていた。エトワールは大国の妃になるのは嬉しいかもしれない。なので、話さないといけない。しかし、フィラントとしては断固拒否したい。


 ユース王子の命令に背くのは初めて。一瞬目を見開いたユース王子は、何故かくしゃりと嬉しそうに笑った。


「だよね。私は友の妻を奪ったりしない。大蛇連合国には煌国とパイプを持つ国が1カ国だけある。流星国っていうんだけど、晩餐会でその国の誰かに近寄って欲しい」


「流星国? 聞いたことのない名前だな」


「レグルスが知らないのに俺が知っている訳がない」


 レグルスとフィラントは顔を見合わせた。


 西に君臨する大蛇連合国に所属する国は約30ヶ国だったはず。別名はドメキア王国。連合国とは名ばかりで、ドメキア王国とその領地である。


「建国20年。国王は煌国皇帝の兄弟、妃はドメキア王国国王の娘。のらくら生きるのに必要なゴマすり相手だろう? ビルマ兄上に殴りかかるんだから、逃亡先や後ろ楯を確保しないと。近寄るのは君達の妻ね。相手は妃と王女。もしくは側近」


 レグルスが唸った。


「フローラは兎も角、エトワールちゃんにその仕事は難しいんじゃないか? ユース、何故俺達にというか俺達の妻に頼む」


「俺もそう思います」


「流星国フィズ国王は大変嫉妬深いらしい。妃に男を近寄らせないって。特に私達のような色男。他に知っているのは美男美女で子供は3人。あれこれ情報収集中。使える者は全部使う。君達は私と大蛇連合国や煌国の要人に接触。晩餐会に不参加は許さないからな」


 レグルスとフィラントを交互に見て、ユース王子は力なく笑った。


「全く。私は身1つで逃げたいね。守りたい家臣が多過ぎて超面倒。私が下手したら、自分達で逃げろよ」


 はああ、と大きなため息を吐くとユース王子は体を曲げてテーブルに額をくっつけた。


「フィラント。夫婦で私と逃げるという約束、全然期待していないけど忘れないからな……」


 ユース王子の小さな声に、レグルスが目を丸めた。


「そんな約束したのかフィラント! ならユース。返り咲く地位は俺が用意する。三位一体だからな」


 三位一体? 何だって? そんな話は初耳。驚いたらレグルスに太腿を抓られた。おまけに睨まれた。ユース王子が顔を上げると、レグルスはサッと笑顔になった。


「まっ、ありがとう。材料はあげたから好きにすると良い。私は自分しか信じない」


 政治の話はそれきり。ユース王子とレグルスと真夜中まで酒を飲み続け、2人のいつものくだらない話を聞いた。毎度のことながら、ポンポンとやり取りされる2人の会話は、口下手なフィラントとしては面白いし興味深い。


 最終的に何故かフィラントはユース王子と格好を交換させられた。影武者役は懐かしいとか何とか。髪型も弄られた。


「似せればまだ似てるな。よし! 君の天使は気がつくかな? 帰ろうフィラント。いやあ、飲んだ飲んだ。明日の昼にはこの街を出ないといけない。遊ばないと」


 ユース王子は愉快そうなワクワク顔。先行き不穏なのでその反動だろう。それにしても、よくもまあアレコレおふざけを思いつく。


 レグルスにニヤニヤ笑いで見送られた。後日、根掘り葉掘り聞かれる。ユース王子経由でもバラされる。フィラント不在の際に2人の酒の肴にもされるだろう。


 フィラントはユース王子に引きずられるように帰宅した。

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