伯爵夫婦、もっといちゃいちゃする 2
人間は羞恥では爆発しません。心臓が破裂しそうでも、全身熱くても、平気みたい。世の中の夫婦、元気に生きていますもんね。夫婦の営みで爆発していたら、人類は滅亡してしまいます。
それにしても、今までの行為は何だったのでしょう? という程今回は違いました。昨夜のマカロンより甘くて素敵でした。
終わったら、いつもはゴロンと私に背中を向けるフィラント様。しかし、こっちを見てます。腕は私の腰。この格好は朝起きた時と同じ体勢です。
ふわあ、と小さな欠伸をしたフィラント様。眉間には小さな皺。私の目を見て、髪や顎と、あちこちを見てます。それが恥ずかしくてならないので、私の視点はフィラント様の左肩の刺青です。やはり、レティア姫様とお揃いです。
寝る時に背中を向けないで欲しいという要求が叶うと、こういう照れてどうしようもない目に合う。こんなの、予想してませんでした。そもそも、もう朝です。まだ明け方なのでまだ寝ても良さそうですが、間も無く寝る時間は終わりです。起きて身支度……。
「エトワール」
「は、は、はい、フィラント様……んんっ?」
はて、キスされました。何故⁈ しかもいきなり割と激しいです。
お待ち下さいフィラント様! そう思ったら、抱きしめられてフィラント様の上に体を移動させられました。それで、キスは終わり。頭を撫でられて、次は頬です。沸騰しそうなので、見ないで欲しい。でも見つめられていたい。私、矛盾だらけ。
「何でしたっけ? 何とか小道と丘。あと、ハーブ園や朝の市場に興味あります? アストライアと違って治安が良いので、部下の騎士と共に着飾らないで出掛ければ問題ないと思います。俺もその方が気楽です」
へ? と思ったら体がゴロりんと反転しました。真っ直ぐ見据えられて、ぽーっとしてしまいます。これは、私と散策してくれるということ? それにハーブ園や朝の市場。
朝の市場。今から行こうということですか⁈ それは是非行きたいです。それにハーブ園? 行きたいに決まっています。フローラに聞いて、隙を見てフィラント様に行ってみませんか? と尋ねようと思っていましたもの。
「その顔、行きたいって思ってくれたんですね。良かった……」
「私、フィラント様とお出掛けがしたいだけです。そこが見てみたい場所だなんて幸せ過ぎます」
パチパチ、とフィラント様が瞬きを繰り返しました。フィラント様の眉根が寄っていきます。明け透けなさ過ぎたようです。
「エトワール、礼拝にはまだ早そうなので、もう1回良いです?」
もう1回⁈ えええええ⁈ そういうことってあるのですか⁈
あの……返事をしてませんよフィラント様。もう手が私の腰です。唇も私の首筋ですけど……。
「あ、あの、もう1回?」
「嫌なら止めます」
そっと頬にキス。次は首。それで、肩。嫌ではないです。むしろ、甘い時間をもう1回だなんて恥ずかしいけど嬉しい。堂々とフィラント様に抱きつけるので、意気揚々とフィラント様の背中に腕を回しました。嫌ではないですと付け加えます。
これで、何回キスしたのでしょう。1000回キスされたら、好きになってもらえる制度だったと思います。確か、そうです。数を忘れたので最初から数えましょう。
恋人までの距離はあと何歩でしょうか。昨夜の、今までよりもうんと甘ったるい時間からして、2、3歩くらい進んだ筈です。全部で10歩だとして、まだまだ遠い……。「愛しているエトワール」まであと8歩とは何をしたら……。
コンコンコン。
コンコンコン。
隣室の方からノック音。ノッカーの音って結構ビクリとします。
「はい。少々お待ち下さい!」
ガラッと雰囲気を変えたフィラント様。少しピリッとしています。サッと起きて素早く服を着ると、フィラント様は私に布団を被せました。隣室と繋がる扉はフィラント様の手で閉じられ、鍵もかけられました。
起きて、とりあえず昨夜最初に着た寝巻きを探し出して身につけました。長袖のドレスみたいな白い寝巻き。
「ユースだフィラント・シュテルン卿」
「ユース様?」
明け方の来訪者はユース王子様みたい。どうして良いのか分からないので、私は隣室への扉前に立ちました。バタンと扉が閉じる音がしたので、ユース王子様は隣室に入室したのでしょう。
「フィラント! エトワールちゃんは何をした? レティアが城から君達を追い出せって。まっ、お前にフラれた腹いせだろう。いやあ、色男は罪作りだな」
ユース王子様の声がしました。フィラント様がレティア姫様を振った。何ですその話! これは、扉に耳を付けて盗み聞きするしかありません。
「はあ? 何の話です? そういう軽薄さで話を逸らさないでくれ。レティア姫が俺なんかを気にする事はない。殆ど話したことがない。エトワールはレティア姫に2人で逃げろと言われたらしい。何を企てて、どんな噂を流しているのか知らないが、振り回されるのは御免だ。巻き込んで構わないが説明はして欲しい」
「うわっ、怖っ! 待て、待て、待てフィラント。お前の激怒は怖い。私は大層なことは企てていない。君に話をした以外には何も始めていない。噂とは何だ?」
「奴隷印の件です。レティア姫、エトワールをお姉様と呼んだと。ゴルダガ戦線に送られたのも、その噂のせいだろう?」
「何それ。知らないから調べておく。レティアはあちこちから色々と吹き込まれているからなあ……。君がゴルダガ戦線に送られたのは私への嫌がらせ。あと、レティアが君と結婚したいとゴネたから」
ええええええええ‼︎ とんでもない話を聞いてしまいました。
「はあ? レティア姫が俺と? まさか。ロクな接点も無いのにあり得ない。ああ、誰かがそういう嘘で俺を君から遠ざけたのか」
「まあ、真実は不明。ゴルダガ戦線から英雄になって帰ってきたフィラントは使える。父上はレティアと君の婚姻を検討しだした。でも、君はレティアに全く興味無いし、グラフトン公爵も君に敵意剥き出し。カンタベリ派閥を追い出すには、レティアの婿はグラフトン派でないと」
「それで、俺を結婚させたんですか?」
「色々と先回り。昨日話をしただろう? 他にも理由はある。全く、君は凄く面倒。この城に政治も辛い。いざとなったら、共に亡命するからな。私は私で色々しているから、君は君で逃げ道を探しておいてくれ。わざわざアストライアに君やレグルスを配置したのは、交易の街なら人脈を広げられるだろうっていう意味がある」
「ユース……そんなにまで……。エトワールもいざとなったら逃げようと……。君と家族で……」
「へえ、エトワール令嬢が……。とりあえずレグルスとアストライアで励め。どう転ぶか分からないから様子見だ。今を楽しめ。ということで、宿を手配して荷物を運ばせておく。先に物見遊山してて。正午に大聖堂前で待ち合わせしよう」
「おい、待て。そっちに行くな。まあ、鍵をかけて……何で合鍵を持っているんだ! おいユース!」
扉が急に開いて、耳を当てていた私は転びそうになりました。
「どう転んでも、これから死ぬまでよろしくエトワールちゃん。まあ、君がフィラントに捨てられたらさようならだけど。するする人の懐に入ってきて、フィラントの妻じゃなかったら欲しいくらいだ。でも圧倒的な色気不足。それに私は甘い顔より凛とした女が好み。友の女にも手を出さない。愛でない代わりに今日、欲しい物を何でも買ってあげるね」
ニッコリ笑顔のユース王子様。私は扉裏に逃げ込みました。寝巻きというはしたない姿、フィラント様以外に見せられません!
「お褒めいただきありがとうございます。欲しいものなどございません。いえ、あります。お金では買えません……」
「まあ、そういうものだよね。私も1番欲しい物は全く手に入らなそう。おい、フィラント。止めろ。そういう持ち方をするな! ケチ! そもそも私が贈った寝巻きを着せておけよ! 見たかったのに! 可愛い女は分かち合え!」
そろそろと扉から覗いたら、フィラント様はユース王子様の首元の服を掴んで引きずっていました。王子様をあんな風に扱って許されるって、本当に仲良しですね。それに「ユース」と呼んでいました。
「黙れ! 彼女を怯えさせるなユース!」
フィラント様にポイッと部屋の外に放り投げられた、ニヤニヤ笑いのユース王子様。何やらフィラント様に耳打ちしています。
扉を閉めたフィラント様は不機嫌そう。ムスッとしていて、近寄り難いです。
手招きされて、何だろう? と近寄るとギュッと抱きしめられました。
色々手配が終わったら、朝市に連れて行ってくれるそうです。




