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伯爵夫人、寝て起きて驚く

 視界がぐるぐるします。ふわふわして、普段も直動的なのに余計にそうなっています。


 ポロリと本音が出ました。好きですアピールよりも、フィラント様の安息を優先するつもりだったのに……。これが、お酒の効果でしょうか?


 しかし結果は良い方に転びました。フィラント様が私に背中を向けて寝る理由は「寝顔が可愛いから眠れない」だそうです。何てこと! そんなこと想像していませんでした。というか、出来ません。


 可愛いと思われていたなんて! 前にも聞いたような気がしますが……社交辞令? 何でも良いです。本当なら最高。嘘なら「優しい嘘をついて私の事を無下にしないフィラントは素敵♡ 」なだけです。


 フィラント様が私の髪飾りを外して、編み込んである髪をほどいてくれました。耳飾り、ネックレスも同じように外してくれます。何だか子供に戻ったみたい。


 1度も褒めて貰えなかったドレス、髪型、装飾品。お金をつぎ込んでも無駄とはこの事です。ユース王子様が買ってくださり、褒めちぎってくれて、フィラント様も気に入ると言ってもらったのに……。その事に気がついたら悲しくなってきました。可愛い発言は優しい嘘のようです。


 自然と顔が俯きます。お酒のせいか、感情の起伏が激しいです。飛び上がりたいくらい喜ばしかったり、急に落ち込んだり、飲酒の効果は体に悪そうです。今後、あまりお酒を飲まない方が良いかもしれません。


「エトワール?」


 名前を呼んでもらえました。髪を手櫛で直しながら、自分の靴を見つめます。フィラント様の顔を見るのが少し怖い。笑ってくれることが少ないからです。


「はい、フィラント様……何でしょう……」


「エトワール」


 また名前を呼ばれて、顔を上げたら、フィラント様はしかめっ面。やはり、笑っていませんでした。胸がぎゅうっと締め付けられて、切ないです。


「具合、悪いです?」


「具合? 悪いのは気分です……。どんなに着飾っても顔は変わりません……やはり寝る時も化粧をして……肌が悲惨な事になります。解決策が思いつきません」


「あの、その話は終わったのでは……」


「はい。何も策が思いつかないので、諦めました。お酒でぐるぐる、ふわふわしますし、感情を上手く抑えられないので歯を磨いて、お湯を借ります。先にで申し訳ありませんが、多分私は寝た方が良いです」


 社交辞令ではない可愛いが欲しいです。やはり、寝る時に背中を向けないでもらいたい。顔の作りは変えられません。フィラント様好みに生まれたかった。ミレーが化粧をしてくれれば効果ありなので、早くあの化粧を覚えないと……。


「ああ……。その方が良さそうです」


「ありがとうございます」


 私はお礼を告げ、会釈をして、寝室へと逃げ込みました。浴槽に張られているお水に、暖炉のお湯を運びます。元貧乏子爵令嬢は、基本的に1人であれこれ出来ます。脱ぎにくいドレスを脱ぐのも、コルセットを外すのも大丈夫。


 爵位授与式前に洗ってもらい、乾ききらなかった髪を、櫛でしっかり梳かします。癖っ毛巻き髪なので、よく梳かしておかないと大変なことになります。グルグルして、ふわふわして、眠くてなりません。


 客間にお風呂がついているとは城とは凄いです。フローラから聞いた、城下街にある大衆浴場というものに興味津々でしたが、旅先で自宅みたいなお風呂とは贅沢中の贅沢。そもそも、アストライアのお屋敷にあるお風呂にも未だに驚きの日々。上流貴族というのは本当に贅沢者です。


 実家にはお風呂なんてありません。井戸から近い場所にある共同浴室です。それでも、貴族だから使えていた場所ですけど。叔母さんの宿では、冷たい井戸水か雨の日に外に出るか、川に行くしか無かったです。


 洗い場から浴槽のお湯を洗面器ですくいながら、しんみりしてしまいました。昨日も驚愕しましたが、石鹸に良い香りがついています。石鹸自体が貴重なのに……。改めて私はとんでもない世界に迷い込んだのだと感じます。


 お湯が冷めないうちに、フィラント様と交代しましょう。


 なるべく少ないお湯で体をしっかり洗います。使い過ぎるとフィラント様のお湯が無くなってしまいます。


 ふわっふわのタオルで体を拭けるとは、お姫様になった気分。お姫様……本物のお姫様であるレティア姫様の美貌を思い出して、落ち込みました。


 歯を磨いて、寝巻きを着て、ふらふらする足を動かします。フィラント様に声を掛けないといけません。そう思ったら、フィラント様が目の前に立っていました。


「声を掛けにきてくれてありがとう。かなり酔っているように見えたので心配でしたが、良かった。遠慮せず、先に寝て下さい」


 ふわり、と体が浮きました。抱っこ。抱っこされています! いつも思いますが、フィラント様の腕は筋肉質で逞しいです。見たことありませんが、そのうち見れるのでしょうか? 想像してみたら、悶えました。猫みたいに、フィラント様の胸に擦り寄ってしまいました。


 そうっと寝台に寝かされました。運んでくれるなんて優しい……。でも、抱っこの時間が少なくて残念です。そう思ったら、フィラント様が覆いかぶさってきました。


 とっても熱っぽい視線。色気たっぷり。予想外の事に私の心臓は止まりそうになりました。


「エトワール……化粧なんてしなくても、とても可愛いらしいです。化粧も良いですけど、素顔がとても綺麗です」


 今、何て言いました? あれ、社交辞令ではなかった? 可愛い? 綺麗?


  嘘でも本当でも、私にはフィラント様の心の中など分かりません。本当と思っておきましょう。もっと言って下さい。


 褒めに照れたのと、フィラント様の微笑みにぽーっと見惚れていたら、キスされました。


 何で、いつ、フィラント様の性欲スイッチが入ったのでしょう?


 男の人とは謎です。私はフィラント様以外は断固拒否しますが、男の人は別だと言います。私、サシャから学びましたよ。お金で女を買うのは、男性は性欲が強いのと色んな女性に手を出したいから、らしいです。娼婦のこととか色々教わりました。


 終わったら虚しくなりますが、甘ったるい擬似恋人時間の始まり。


 触れるだけのキスを何度か。それから少し長くて深いキス。頭を撫でられて、ほっぺたや首にもキス。キスされたところから発熱していくみたい。全身熱くて仕方ありません。ぞわぞわ、ぞくぞくして、痺れも感じます。


 私はこの時間をかなり待っています。あまりにも幸せなんですもの。もう、すっかり痛くありませんし。


——手を出してもいない女性より、毎晩抱く女性。男は単細胞なので大丈夫


 レグルス様曰く男性はそうらしいです。フィラント様は全くもって単細胞には見えません。無理矢理結婚させられた可哀想な娘には手を出さない。そう考えていた生真面目な方です。私が必死に誘惑してとにかく歩み寄ってくれと迫った結果が今の状態です。


 同情だけなら、フィラント様は私を抱きません。そういう方です。なので、私はそこそこ気に入られています。そう、都合の良い解釈をする私の脳みそ。好かれてるかもって錯覚する方が幸せってものです。


 今夜もどうぞお好きにして下さい。むしろどんどん好きにして下さい。そして甘くて幸福な時間を下さい。それにしてもぼーってします。お酒ってどうしてこのような効果を有しているのでしょう? 不思議。


 不意にキスが終わってしまいました。


「おやすみエトワール」


 えええええええ……。もしや「嫌なら回数を減らしていきましょう」が今日から? そ、そんな……。


 やはり、人生とは無情。山あり谷あり。私は長年山を登り続けていたので、ついに谷が現れたようです。


 最悪。


 いえ、最悪とは真冬に井戸に突き落とされるような事をいいます。今は最悪からはとても遠い状況です。でも、泣きたい。


 寝ましょう。これはもう寝るしかありません。城に泊まっています。お風呂がある部屋です。石鹸には良い香り。ふわふわタオル。好きな人と同じ寝台で眠れる。


 そうやって、良いところ探しをするとうんと出てきます。でも足りない。私はフィラント様に恋をしてもらいたいです。愛する妻ですと思われ、言われたい。なんて欲張り強欲人間。



 ☆★



 不意に目が覚めました。明け方? カーテンから透ける明かりの量から推測するにそうです。


 私、フィラント様に見つめられています。かなり近い。フィラント様の片腕は私の腰です。恥ずかしくて身を捩りました。


「おは、おはよう、おはようございます……」


「おはようエトワール。頭が痛いとか無いですか? 随分、飲まされたようですけど」


 耳元で囁かれて、背筋がぞぞぞってしました。


「いえ、頭痛なんてないです。元気……んん……」


 耳にキスされて悶絶です。これは、どういうことでしょう?


「ええ、昨夜と違って顔色が良さそうです」


 えっと……。何で起きたらいきなりキス? それにフィラント様の手は私の胸。も、揉まれっ⁈ 朝ですよ! キスが、キスが情熱的です! 昨日の夜よりも熱烈!


 待って、待って下さい! この行為って夜にする事ですよね⁈ 今は朝です! 明るいです! どういうことですか⁈

 

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