表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/141

伯爵、噛みしめる

 お酒を飲んだ事がないというエトワール。それで、ユース王子とフィラントだけが白ワインを飲み、時間がある時に3人で飲もうという話になった。ユース王子とエトワールが2人で決めていた。


 フィラントは置いてきぼり。実に親しそうな2人。昨日、殆ど話していないとは大嘘ではないか。


「いやあ、新婚なのに実にフィラントの事を良く知っている。妻の鏡だエトワールちゃん。しかも、フィラントを心配して信頼出来る私にお願い事など偉い偉い。おまけに自分を理由にするなんて健気。気に入ったからご褒美をあげよう。何が欲しい?」


 向かい合うソファに座るエトワールとユース王子。チェスの指南ではなくて、定石を並べて説明しているユース王子と、それを真剣な顔で聞くエトワール。


 エトワールは少々緊張気味に見えるが、ユース王子はとてつもなく機嫌が良さそう。


「まあ、そんなに褒めていただいて嬉しいです。欲しい物……またユース王子様がいらした時用に、食器を増やしましょう。お気に入りの物があると気が休まると思います」


「例の星柄の食器、私の分も買い足してくれるのかい?」


「そうでした。家族でお揃いですので、予備の分をユース王子様の物にしましょう。それでしたら、ユース王子様は何が欲しいですか?」


 エトワール、話がすり替わっている。それで、ユース王子がクスクス笑っているが、笑われている本人は気がついていない。


「予備?」


「大切に使いますが割れたら悲しいので……。あと……その……今後家族が増えるかもしれませんし……一石二鳥ということで……」


 エトワールが照れ笑いした瞬間、ユース王子がフィラントを見てニンマリと笑った。


「へえ……。ふーん。思っていたより仲良しなんだねえ。エトワールちゃんから少し話を聞いた時も思ったけど。そうか、そうか。それで、その家族に私も入れてくれるのか」


「兄弟のようだとおっしゃていましたから当然です。食器はもうありますし、何が良いでしょうか……。フィラント様、ユース王子様は何がお好きですか?」


 今、何て言った⁈


 フィラントとユース王子が兄弟のよう⁈


「フィラント様、聞いてます? フィラント様はちょこちょこ上の空ですよね。それか、そんなに悩む程、ユース王子様には好きなものが沢山あるのですか?」


 小首を傾げて、チェスの駒からフィラントへと視線を移動させたエトワール。確かに指摘通り、違うことを考えていた。


 ユース王子様の好きなもの。酒と女。そんなこと即答出来ない。何を言うべきなんだ?


 こうやって、沈黙を増やしてしまう。短所だと思っているのだが、中々改善出来ない。


「私が好きなのは、可愛らしい女性とお酒だ」


「でしたら今も飲んでいるのでワインでしょうか。アストライアは交易の街ですから、他国のお酒もありそうです。ねえ、フィラント様」


 チェス盤の上の駒に目を戻したエトワール。愉快そうに笑いながら、どんどん酒を注げというようなユース王子。


 本当に何だこの状況。


「え、ああ……。ワインを仕入れておきますユース王子」


 フィラントはワインボトルを手にして、ユース王子のワイングラスへと傾けた。


「エトワールちゃん、ありがとう。君は何が欲しいんだい?」


「私ですか? とりたてて……」


 不意にエトワールがフィラントを見た。すぐに顔を背けて、チェス盤に視線を戻したエトワール。その次は背筋を伸ばしてユース王子を見据えた。


「明日、ヘンリ・カンタベリ公爵様と奥様へのお土産を買いに行きます。フィラント様、あまり城下街がお好きでないようで……。流行りのお店と、葉巻と香水が有名なお店を知りたいです。サッと買い物をして、直ぐに帰ってきたいのです」


 よろしくお願いしますと、エトワールが頭を下げる。フィラントも慌てて同じようにユース王子へ会釈した。今のタイミングで頼むとは思わなかった。


「それなら明日、3人で行こう。昼過ぎなら時間を作れる。私と共にいる君達にとやかく言う者はいないだろう。フィラント、君の懸念や不安はそれだろう?」


「え? ユース王子? あの、そうですが……一緒に?」


「フィラント、君は私と共倒れしてくれるだろう? なので、堂々と私の傘の下に居れば良い。護衛も気にならない者を選んでおく。あとは君の部下も使おう。君自体が護衛みたいなものだから、大人数でなくて良い」


 飲めというように、フィラントが手に持つワイングラスへ白ワインが注がれた。ユース王子からワインボトルを受け取ったエトワールが、今度はユース王子に酌をする。


「忙しいのに、俺にそんなに気を遣って……」


 昨夜に続いて、胸が熱すぎる。ここまでユース王子の懐にいるとは思ってもいなかった。


「まあね。私は忙しい。時間を作れるのは小1時間くらい。エトワールちゃん。街の郊外にも観光場所がある。2人で散策とかなら、フィラントも落ち着くだろう。紙とペンある?」


「は、はい! お持ちします」


 サッと立ち上がったエトワールは、とてもワクワクした顔。エトワールは寝室へと消えた。


「欲しい物無いみたいだねえ、エトワールちゃん。遠慮しているのだろう。聞いておいてフィラント。それにしても、どうやって着せたの? どう楽しんだの?」


「エトワールに欲しい物を聞いておきます」


「はいはい。フィラントは反応悪いよね。その点、エトワールちゃんは楽しかった。実に可愛い反応。睨むなよフィラント」


 エトワールに何を聞いたんだ? 可愛い反応とは、確かにエトワールは感情が表情に出過ぎである。


「俺に恋人がいることになっていましたけど、何故です?」


「さあ? フィラントがだんまりだから私も喋らない。ああ、ありがとうエトワールちゃん」


 戻ってきたエトワールの手に羽ペンとインク、それに羊皮紙があった。ユース王子が何かをサラサラと書いていく。地図だ。城下街周辺の簡易的な地図。


「ここがセウス小道とメダの泉。王家の儀式で使ったりもするけど、通行手形出してあげる。で、こっちは鷲降りの丘。で、ここは鍾乳洞。そんなところかな」


 ユース王子の発言で、大きな瞳を爛々と輝かせたエトワール。


「ありがとうございますユース王子様」


「いえいえ。ねえ、エトワールちゃん。試しにユースお兄様って呼んでくれる? うわあ、不機嫌。酷いフィラント。あっ、そうだ。そろそろ晩餐会だから行くぞ。何事も逃げるが勝ち」


 この人は何を言っているんだと呆れていたら、ユース王子に不機嫌だと指摘された。立ち上がって、フィラントにウインクを飛ばしてきたユース王子。思わず仰け反る。この人は何を考えて生きているんだ?


「あの、フィラント様。明日、気分が乗らなければ散策には行かないで部屋でお休みくださいませ。今夜や明日など1人が良ければ、私はヴィクトリアやアンナの部屋に下がります」


 丁寧に羊皮紙を畳み、机の上に置いたエトワールの声はしょぼくれている。


 え? 散策には行かない? 下がります?


「エトワールちゃん、フィラントの不機嫌は君と散策に行きたくないからではないと思うよ。まっ、本人しか知らないけど」


 ユース王子がエトワールに腕を差し出すと、エトワールがおずおずと少し震えながらユース王子の腕に手を添えた。


 何やらエトワールに誤解された。ユース王子の発言の後にエトワールがフィラントを見上げた。不安そうに見える。エトワールはふいっとフィラントから顔を背けた。


「いえ、私がお願いをするとフィラント様は良くしてくれます。フィラント様はお疲れなのです。顔にそう描いてあります。負担をかけたり嫌な事をさせてはいけません」


 ()()()⁈ 誤解が誤解を生んだのか? 顔に描いてあります……。ユース王子がフィラントの耳元に顔を寄せた。


「言葉足らずだし、君は気難しい顔ばかりしているからこうなる。フィラントが1番、いや唯一楽しみにしていたのは王都での買い物や散策でルンルン浮かれるエトワールちゃんだろう? それを言わないからだ。恋人がいるという嘘も、大嘘なんだから話せば直ぐに解ける誤解だ。まっ、君には難題かもね」


 何もかも見透かされている。口は災いの元というが、口下手も災いの元らしい。恋人がいると引っ掻き回したのは、それを教えるためか。しかし、フィラントに恋人がいて……エトワールは嫌だと言った。


 フィラントが思っているよりも、エトワールに慕われている? まさか。いや、そうかもしれない。それにユース王子の自分への気遣いや優しさには感激しかない。自分で思っていたよりも、ユース王子は自分を大切に思ってくれているようだ。


 ユース王子とエトワールが歩き出した。後ろに続くフィラント。部屋の鍵を閉め、2人が通る扉を開き、従者みたいに動いたらユース王子に怒られた。


 晩餐会のコース料理には、肉と赤ワインに赤い食材が排除されていた。フィラントの席は末席で周りにはユース王子派とカンタベリ公爵派。爵位授与式に参加した貴族以外も呼ばれていたのか。上座でユース王子がにこやかに笑う。時折、フィラントの様子を確かめているように感じた。


 エトワールは近くの貴族夫婦と和やかに話してくれていた。相手の趣味や王都での流行など「その情報、どこで仕入れた?」ということまで知っている。


 デザートに出てきた、シフォンケーキという菓子に柑橘の味がして驚いた。この間といい、味覚が少し戻っている? フィラントはケーキを噛み締めた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ