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子爵、贈り物を貰う

 王都、アルタイル城ユース王子私室。フィラントは頑なに飲酒を拒否した。もうすっかり日没間近。エトワールと王都の街並みを散策しようと思っていたのに城に軟禁。


 爵位授与者の代表として挨拶するなんて聞いていなかった。フォンが用意した服を却下され、ユース王子の服を試着。見知らぬ従者に着せ替え人形のような扱いをされた。


 試着の次は挨拶の練習。フォンが考えた文をひたすら読み上げ、頭に叩き込んだ。その後、エトワールを攫っていったユース王子に呼び出されて今に至る。


 疲れた……。


 エトワールはどうした? ユース王子は彼女に何をした? 聞きたいが聞けない。多分、フィラントを使う材料探しをしたのだろう。あと絶対に揶揄うための何かを聞いてきた。エトワールにもあれこれ吹き込まれたかもしれない。下手な事を言うと、何倍にもなって返ってくる。


「ふーん、飲まないとエトワールちゃんを口説き落とすよ。私に落ちない娘はいない。知っているよね?」


 向かいのソファに座るユース王子がフィラントにまた酒瓶を向けた。


「明日、爵位授与者の代表として国王陛下へ挨拶をします。過剰に持ち上げないで下さい。俺は貴方を辱めたり貶めたくありません」


「逆だフィラント。野蛮な騎士なんかに挨拶は出来ない。恥をかけって奴がいるんだよ。だから、逆に突然頼まれたのに素晴らしい挨拶をしたって、鼻を明かしてくれ。相手の実力も見抜けない阿呆な連中。だから別に飲まなくても良いよ。明日、祝勝会の方が良いしね。今軽く飲むのと、明日1日私に拘束されるのどっちがいい?」


 明日1日拘束? 何だって⁈ フィラントはグラスを掴んでユース王子へと差し出した。


「早っ! 傷つくなあ」


 大笑いしながら、ユース王子がフィラントが手に持ったグラスに白ワインを注いだ。


「死ぬまで付き合う貴方と、そう遠くないうちに離れる彼女なら俺は彼女を取ります」


 自然と顔がぶすくれる。


「馬車での様子からして、ユース王子はエトワール令嬢を気に入ったんでしょう?」


「令嬢じゃなくて夫人ね。そりゃあ、可愛いし面白いから気に入ったよ。でも、私は友の妻を奪ったりしない。エトワールちゃんは遊びがいがありそうだけど、我慢した。むしろ今後は君抜きでは近寄らない。君を失うのは怖いから。だから君がエトワールちゃんを気に入っていて、横に置いておきたいなら助けるよ」


 予想外の発言に、フィラントはユース王子を見据えた。

 エトワールが離れるのは、そういう意味ではないと言いたい。今は誤解で友好的みたいなだけ。そのうちまた怖がられたり、怯えられる。そうしたら、手離してやらないといけない。


 しかし、それよりもユース王子からの親愛の方に気が向いた。他の話題に逸れない方が良さそう。ユース王子はたまにしか本音を零さない。続きがあるだろうと、フィラントはユース王子の発言を待った。


「君が私の頭脳(ブレーン)にして優秀な手足だと気がついた者がいる。それに精神的支柱だってこともね。私が君とレグルスを王都から出したのは先回りだ。フィラント、とっとと出世して帰ってきてくれ。この城は敵だらけで中々辛い」


 ソファにゴロンと寝転ぶと、ユース王子はワイングラスに口を付けた。ここまで砕けている時のユース王子は参っている。辛いと言うのも珍しい。


「そういうことですか……。まあ、あの、その信頼やお言葉は有り難いです。励みます」


「まっ! 好色家の阿呆息子で通っているので、全員蹴散らしてやるけどね。私を殺そうとしたり、大事な君をゴルダガ戦線の1番危険な場所へ放り込んだ罪は重い。ビルマ兄上はやり過ぎ。君とレグルスの出世は反撃の狼煙ってやつ。上手く付いてきてね」


「グラフトン公爵派への密偵(スパイ)活動の話ですよね」


「いや、それは何もしなくていい。半年後に仕事を頼む予定。この城の晩餐会でちょっと働くだけ。準備は要らない。むしろ下準備は何もしない方が良い。この1ヶ月みたいにアストライア領地でレグルスの支援をしておいてくれ。最優先はそっち。余計なことはしないように」


 フィラントは大きく頷いた。何を頼まれても引き受ける覚悟をしている。勧められたので、手に持つグラスのワインを飲み干して、次を注いでもらった。


「で、フィラント。エトワールちゃんとは仲良くしているの? 君の天使、私に怯えていてロクに話せなかった。まっ、田舎の貧乏令嬢に王子様は眩しすぎるのだろう」


 探るような目のユース王子から、フィラントは目を逸らした。


「自分なりに大事にしてます。彼女も歩み寄ってくれています。伯爵夫人教育に熱心に取り組んで、慈善事業や屋敷管理もしっかりしてくれています」


 嫌な予感。仕事の話は終わりで、ユース王子に揶揄われる時間が始まったらしい。口も滑った。


 大事にしているって何をしているの? 歩み寄ってくれているってどういうこと? ユース王子は絶対にそう言い出す。


「そっ。良かった。レグルスやフォン、それにヴィクトリアからもそう聞いている。教育も要らなそうだったから、ちょっと雑談しかしなかったよ。猫に睨まれた鼠みたい、いや鼠だと可愛くないな。ハムスター? まあ、そんなだった。役立たずって言ったことは誤解だったから謝っておいた」


 ハムスター? 聞いたことのない名称。まあ、知らなくても問題ないだろう。


 フィラントは胸を撫で下ろした。もっと根掘り葉掘り突っ込まれると思っていた。これは、もう黙っていよう。というか、逃げよう。


「きちんと謝罪してくれて、ありがとうございます。仕事の話は終わったみたいなので、失礼します」


「そうだね。お互い明日は朝早い。私はここに人も呼びたい。お休みフィラント。ああ、久々に帰ってきてくれたから贈り物を部屋に用意した。楽しんでくれ」


 立ち上がったフィラントを、ユース王子は止めなかった。朝まで飲もうとか、街にこそっそり行こうなどと言い出すと思っていた。面白おかしく、フィラントを揶揄うつもりは無いらしい。今ののんびりした言い方で「人を呼びたい」は十中八九女性だろう。いや、それなら出掛けるの方か。


 贈り物とは何だろう? 楽しむ?


「贈り物とは何ですか?」


「服だよ。寝巻き。ぐっすり眠れるようにと思って」


 寝っ転がるのを止めたユース王子に手を振られた。


「ありがとうございます。お休みなさいユース王子」


 フィラントは会釈をして、ユース王子の私室を後にした。ふと、疑問に思う。寝巻きで楽しめ?


 用意された部屋に戻った。ソファに座っていたエトワールが、リボンのかかった箱を持って駆け寄ってきた。エトワールは2人きりだとちょくちょくタタタタタッと走って来る。


「お帰りなさいませフィラント様。ユース王子様より預かった結婚祝いです。2人で開けないさいと言われました。何でしょうね」


 ワクワクしたような無邪気な笑顔。早く中身が知りたくて駆け寄ってきたのか。


 フィラントは箱をエトワールから受け取ってテーブルの上に置いた。結婚祝いか。これは素直に嬉しい。それにユース王子にとても好かれていて、友とまで言われる自分は誇らしい。


「寝巻きらしいです。後でお礼を告げ……」


 リボンをほどき、箱を開いたら、中身は純白でレースのあしらわれた布だった。これが寝巻きならどうみても女性物。上に封筒が乗っている。


 フィラントは封筒を手に取って、中身を確認した。


【生真面目君は何もしていないような気がするので、せめて目で楽しめ。勿論、全身で楽しんでも良いと思うぞ?】


 ユース王子様、妙に大人しいと思ったらこれか!


「まあ、素敵ですね。私にでしょうか? それともお揃い?」


 待て、出すな。見ない方が良い。フィラントは箱の蓋を閉めようと手を伸ばした。エトワールの方が早かった。


 取り出した寝巻きを広げたエトワールが固まった。ぽぽぽぽぽっとエトワールの頬が桃色に染まっていく。


 エトワールが手に持つ寝巻きは、丈が短くて、生地が薄くて、透けていて、胸ぐりが深い。


 楽しめってこういう事か!


 ユース王子!


 フィラントは部屋を飛び出して文句を言いに行こうとした。しかし、と足を止める。取り乱した姿を見せたらユース王子の思う壺。苛立ちで鍵をかけ忘れていたことにも気がつく。


 フィラントはくるりと方向を変えて、部屋に戻った。


 エトワールにはユース王子の恋人への贈り物と間違えたらしいとでも言おう。


 部屋に入り、鍵をかける。


 フィラントが部屋を見渡すとエトワールはいなくなっていた。

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