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伯爵夫婦、初めてのお出掛け 3

 食器を前にして、エトワールは「どうしましょう?」とか「子供達はミルクティーを飲む?」などと呟いている。目線がクリーマーとシュガーポットなので、遠慮しているのだろう。それにしては声に漏れている。


 フィラントはぼんやりとしていた。エトワールが突然発した言葉が脳内を高速回転している。


——そのうち生まれる子供と私達の3人分が良いと思います


 子供が生まれる。確かに昨夜のようなことを続けたら、一般的にそうなる。


——エトワールは爆発するくらい恥ずかしかったので、次はフィラント様が誘ってください


 今朝、次回も良いと言われた。終わった後、読書をしていたようなのに、爆発するくらい恥ずかしかったらしい。薄明かりの中、中々気持ち良さそうに身をよじっていたのがそれ? いや、気持ち良さそうはフィラントの幻覚。これでは強姦魔の理屈だ。絶対に怖かっただろう。


 甘えるように名前を呼ばれていると、大興奮だったが、あれも止めて欲しいという懇願だったに違いない。手酷い事をしたことから無意識に目を逸らしていたようだ。


 少し、いやかなり気分が悪くなってきた。この世で1番大切にしようと思っているエトワールに、真逆の事をしてしまった……。


「そんな、子供の人数だなんて……。でも、男の子と女の子が両方いたらうんと幸せです。もちろん、どちらだけでも可愛いでしょうけど……。こればっかりは神様からの授かりものです」


 自己嫌悪に陥っていたら、ふとエトワールの弾むような声が耳に入ってきた。フィラントの腕に手を添えるエトワールがニコニコしながら「3つかしら、4つかしら」と食器に向かって話している。


 楽しそうで、頬を赤らめた可愛い笑顔。


 子供、欲しいのか? 俺と? また、ああいう事をするつもりがあるのか?


——次はフィラント様が誘って下さい


 本心?


——昨夜は素敵な夜でした。嫌ではなかったので、きっと恋の第1歩です


 とても恥ずかしそうに、そう口にしてくれたエトワール。今、目の前の楽しそうな笑みも本心のように感じる。 


「お客様方のお子様なら、大変見目麗しいでしょう。当店は子供用の食器も揃えております。ご覧になりますか? 可愛らしいデザインのものがございます」


「いいえ、家族でお揃いが良いです。それで、この星柄が良いのです。なにせ、夫婦で流れ星という意味になる名前ですもの。ねえ、フィラント様」


 エトワールの問いかけに、フィラントは思わず首を縦に振っていた。考える間もなく、自然とそうしていた。


「フィラント……フィラント副隊長様! 昨日、ご成婚されたそうでこの度はおめでとうございます。家族で使用される食器を当店で購入していただけるとは光栄でございます。それに、大変失礼致しました。よろしければ奥のお部屋へどうぞ。お飲物を用意します」


 奥の部屋へ? そんな待遇……されるような立場になったのか。いや、まだ伯爵になっていない。


「いえ、購入したティーポットでお茶をしたいので遠慮させていただきます。お気持ちだけ受け取ります。あの、それで、星をあしらったようなナイフやフォークはありますか?」


「それならこちらに椅子をお持ちします。それから、ナイフやフォークでございますね。少々お待ち下さい」


 そこそこ愛想が良かったが、店主の態度は更に良くなった。この太客を逃がすかというような雰囲気。


 急に、エトワールがフィラントの方へ顔を向けた。困ったように眉尻を下げている。


「すみませんフィラント様。浮かれて、勝手に決めようとして。クリーマーとシュガーポットは私達に必要無いと思いますが、子供用にあっても良いと思います。それで、せっかくならナイフやフォークなども私達だけの特別なものが欲しいです。あの、子供の分とは気が早いと思います?」


 エトワール、真っ赤っかである。広げた扇子で顔を隠して、目を泳がせていて、愛くるしい。天使がフィラントとのことで、可愛くなるとは夢か? いつから夢だ? 昨夜、エトワールが寝巻きを脱いだところからか?


 自分の太腿をこっそり抓ってみた。痛みを感じる。それに、こんなにはっきりとした意識の夢などない。良い夢も見たことが無い。この至高な状況は何だ?


「いや、あの、気が早いというより子供は作ろうとしないと出来ないのでは……。早く欲しいなら、そうしましょうか?」


 俺、とんでもない事を口にした。


 え? とこぼした後、エトワールは更に赤くなった。嫌そうな素振りは一切ない。


「そ、そ、そ、そ、そうでございますね……。子は(かすがい)と申しますし……私、子供がとても好きです……」


 ……。


 これ、理性を保てって無理じゃないか? どうぞどうぞ、食べて下さいというような様子。良いのか? エトワールの気が変わらないうちに、フィラントに歩み寄り恋をしようと思っているうちにしか触れない。


「2人分と予備と思って、4つずつと思ったのでそうしませんか? 大事に使って、割れずに残っていたら子供用になります。クリーマーとシュガーポット、ナイフやフォークなどはまた次回に考えたり探しませんか? またこうして出掛けられます」


 今すぐ帰りたい。それで、抱きたい。エトワールの気が変わらないうちだ。いや、昼間からそんなことをしたら一瞬で嫌われる。夜だって怪しい。昨夜見失った理性と忍耐を総動員しないとならない。


 またこうして出掛けられます、というのはまたエトワールと出掛けたいというフィラントの願望である。こんなにポンッと本音が漏れるとは思わなかった。これは、誤魔化しようがない。


「まあ、フィラント様。2人だけの食器だから予備もと考えてくれたなんて、ありがとうございます。大切に使って、残しておきましょう。ええ、ええ! また出掛けるきっかけを残しておきたいです」


 嬉しいというように笑うエトワールに、胸が締め付けられた。痛くなくて、とてつもなく甘ったるい。生きてきて、このような感情を得た事はない。


 フィラントは店主に、エトワールが選んだ食器類の購入手続きを頼んだ。皿やカップなどは4つずつで、ティーポットだけは1つ。


 エトワールがチラチラと、六芒星型の小さな器を見ていたので、こっそりそれも買った。エトワールはレモンティーを好んでいたと思うので、切ったレモンを乗せるのに使ってくれるかもしれない。いや、屋敷に戻ってお茶をする際に使用してみよう。きっと、喜んでくれる。


 店主に、後日屋敷まで配送してくれると言われたが断った。エトワールがすぐ使いたいと、そう口にしていたから。


 屋敷に戻るまでの道中、エトワールは鼻歌交じりで実に機嫌が良さそうだった。


 フィラントは、エトワールは「子供、買い物、散策、ピクニックが好き」そう胸に刻み込んだ。フィラントとで今の態度なら、家族や友人とはもっと楽しそうにするだろう。それも眺めてみたい。

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