伯爵夫婦、初めてのお出掛け 2
ステラ湖の近くを散策し、丘の上で持参した野菜と海老のサンドイッチを食べました。話題は夕方に行う、カンタベリ公爵夫婦への挙式手配へのお礼挨拶についてです。談笑というより、打ち合わせ。しかし、大切な事です。真剣にフィラント様からの指示を聞きました。ヴィクトリアから言われていることと、相違ありません。
打ち合わせが済むと、フィラント様は「挨拶に行く時間まで余裕がありますし、食器を買いに行きますか?」と提案してくれました。私はもちろんです、と比較的冷静に答えました。心の中はスキップです。
馬で屋敷へと戻り、私とフィラント様はお買い物へと向かいました。
場所は街1番の大通り、星乙女通り。挙式をしたサン=ガリル聖堂を中心にして、南の砦門へ伸びる大通りが星乙女通り。高級店が多い場所です。この乙女通りから東の区画に、私達のお屋敷があります。
高い物を欲しいとは思いません。フィラント様も同じでした。けれども、フィラント様は治安の良い場所で買い物をしたいとのこと。それから、口を付けるものなので良い品を買おう。そういう話になりました。
フィラント様の腕にそっと手を添えて並んで歩けている。それで、買い物内容はお揃いの食器探し。私達、新婚夫婦です! と大通りで叫びたい気分です。今の姿、絶対に夫婦に見えます。私の片思いになんてみえないでしょう。
一先ず、あまり堅苦しくなさそうなお店に入ることになりました。ガラス越しに見た食器が、白と青を基調にした私達好みのものに思えたお店です。
私達好み。素敵な響きです。店内には、優しい曲調の音楽が流れています。お客さんはチラホラいて、店主が近寄って来ることもなく、緊張しません。
「ああ、エトワール。ちょうど星柄のものがありますよ」
フィラント様が手に取ったのは、白いお皿で、天の川のように星が描かれているものでした。帯状の大小の青い星。一筋、流れ星のような線があります。お皿だけではなく、ティーセットからマグカップまで一揃いあります。しかもこれ、高くありません! 私の価値観からしたら、クラクラする程高価ですが、向こうにチラリと見える銀食器などとは雲泥の差。
発見したフィラント様は、不安そうな悲しそうな表情です。先程までは割と無表情でした。楽しかった気分が萎れて、不安になってきます。
「あの……私は素敵だと思いますが、フィラント様は気に入らないですか? そもそも、私はフィラント様とお揃いの物が欲しくて、あとはフィラント様が目で見て楽しい物が良いです。これは値段も手頃ですし、候補にしたいです」
フィラント様、食器から私へ視線を移しました。驚いているみたいです。何に?
「こんな安物で良いのですか?」
今朝の朝食、トマトスープを口に運んだ時のような苦そうな顔のフィラント様。
「手頃と言いましたが、私から見たら目眩がする程高いです。あの、高くないとみっともないですか?」
伯爵になるので、買い物内容にも気を遣わないといけなかったのかもしれません。とても好ましい柄で、落ち着くデザインです。しかし、フィラント様も気に入ってくれないなら無意味。
「いいえ、高くても安くても好きなものを好きなだけ……予算というか流石に城が欲しいとかは無理ですけれど、エトワールが望んで買えるものは買いますよ」
ふっと微笑んでくれたフィラント様。胸が、きゅうううっとします。これは、息苦しいです。幸せで息の根が止まります。
皆様、私達夫婦ですよ! とやっぱり叫びたいです。夫婦の真似事から始めましょう作戦は、効果覿面過ぎて私はフィラント様に好かれていると錯覚してしまいそう。
私は以前からフィラント様に伝えたかった事を、ついに口にしました。というか、勝手に飛び出しました。
「エトワールとフィラントで流れ星です。古語でそう言います。私、流れ星がとても好きなので最初にお名前を聞いた時から良い印象でした。この食器にも流れ星があるので……。私とフィラント様の為に作られた物みたいに思えませんか?」
ステラ湖へのお出掛けから、ずっとドキドキしていますが、余計に心臓が速く脈打つようになりました。絶対に私の顔は赤いです。帽子の影で隠れていることを願いましょう。扇子でも隠します。
好き好き大好きだと、伝わり過ぎて嫌がられたら困ります。
なのに、私の口は勝手にフィラント様への想いを語りました。どうしましょう。返事、ありません……。怖くてフィラント様の顔が見れ……見ます。様子を見ながら、必要そうなら言い訳とか誤魔化しを言いましょう。
フィラント様は無表情です。深い紫色の瞳に私が映っていて、ゆらゆら揺れています。
「古語、覚えないと恥をかきますが中々覚えられません。1つ賢くなりました。ありがとう。これにしましょう」
さささっと店主を呼んで、購入手続きに入ったフィラント様。あれ、耳が少し赤いような気がします。首に手を当てたのも、照れではないですか?
違くても良いのです。本当だったら、嬉しくてなりませんので、そうだと思っておきましょう。
うふふ、えへへ、と気持ちが悪い声が漏れないように唇に力を入れます。ハッとしたら、フィラント様は食器一揃いを買おうとしていました。止めないとなりません。フィラント様と私の2人が使う分なので、コース料理分は不必要です!
「あの、フィラント様。使う種類の物だけ買いましょう」
声を出してから、しまった! と気がつきました。ポンッと食器を購入してくれる太客だと思っていたであろう店主が「え?」と残念そうな顔になっています。残念ならまだしも、噂の成り上がり騎士はみみみっちいと思われたら困ります。フィラント様に恥をかかせてはいけません。なのに、かかせたかも……。
「2人とも少食ですし……。あの、せっかく気に入った物が割れたら悲しいので予備を……」
上手いフォローを言いなさいエトワール! とグルグル考えても、出てきません。これでは社交場で役立たずになってしまいます。
「全部は使わないのですか? ああ、確かにエトワールは少食だと聞いています。あの、どれが必要です? 4つずつ買いましょう」
4つ⁉︎ 2つずつではなくて? まあ、店主の表情は艶々です。ここで私はふと気がつきました。昨夜のような事をしていると、子供が出来るそうです。フィラント様と私と、可愛い子供。皆でお揃い。
「2つずつで十分だと思いますが、そのうち生まれる子供と私達の3人分が良いと思います」
またしても、言葉が先に出ていました。思慮が浅いのは私の欠点です。それにしても、フィラント様相手だとより酷い。私、お母様以外にここまでポンポン、ポンポン思ったことを喋ったことはないです。
恥ずかしいのと、フィラント様の反応が怖いので、私はフィラント様の反応を見ないようにして、必要そうなのはこれでしょうと掌で示していきます。
平皿、パン皿、スープ用深皿、サラダ用深皿、カップとソーサー、ティーポット。このくらいで良いでしょう。
クリーマーとシュガーポットは悩みます。私、紅茶にしろコーヒーにしろミルクも砂糖も使いません。フィラント様も味覚があまり無いそうなので、不要そう。
私、レモンティーは好きです。なので、切ったレモンを置くお皿は欲しいです。フィラント様も柑橘の匂いは楽しめるかもしれません。
子供がミルクティー好きになるかもしれません。苦いコーヒーに挑戦したくて、ミルクと砂糖たっぷりにするかも。私、飲み始めはそうでした。お父様を真似してコーヒーに挑んで惨敗し、ミルクと砂糖をうんと入れてもらいました。
ティースプーンやスープ用スプーンにナイフやフォークも家族だけの特別な物が欲しくなってきます。
「奥様、何にお悩みですか? お子さんの人数でしょうか?」
店主に声を掛けられました。奥様? 今、奥様と呼んでくれました?
是非、もう1度言って下さい。




