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成り上がり騎士と貧乏子爵令嬢の新婚生活  作者: 彩ぺん
本編

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伯爵夫婦、2人で初めての食事 1

 本日、昼間にフィラント様と初デートです! 結婚、初夜、デート、実に順風満帆。フィラント様、私のことを嫌ではなかったそうです。仏頂面でも、険しい顔でも、無表情でもなく、微かにですが笑っていました。


 なのに今は無表情。


 食堂にて、フィラント様と初めて食事を共にしています。私の向かい側の席で、フィラント様はスープとパンを嫌いなものを口にするみたいに、気怠そうに口に運んでいます。フィラント様、基本的にはスープとパンしか食べない。レグルス様にそう聞いていました。そのくらいスープとパンが好きだと思っていたのに、妙です。


 オットーが作った焼きたてのふわふわなミルクパンに、野菜たっぷりの鶏肉入りトマトスープは大変美味しいです。頬っぺたが落ちそう。なのに、フィラント様は嫌い?


 初めて主であるフィラント様を前にして、食事を提供した料理長のオットーが、食堂と厨房を繋ぐ扉脇で青ざめています。ここはオットーの為に、私が尋ねるべきです。


「フィラント様、塩加減とか味などがお気に召しませんか? どうしたら嬉しいのか教えて欲しいです。オットーは大変腕が良いのですぐに変更してくれますよ」


「いえ、エトワールはこの味が好きです?」


「私の事ではなくて、フィラント様の好みの話です。フィラント様の好みの食事をしてみたら、それも好きかもしれません。私、割と何でも好きです。苦手なのはピーマンくらいです」


 フィラント様、大きなため息をつきました。不機嫌そうです。私、そんなに間違った言葉選びはしなかったと思います。幸せは吹き飛んで、急に胸の奥が締め付けられました。このフィラント様の様子は、中々苦しいです。


「え? ああ、いえ、すみ……ありがとうございます。何を食べても味がそんなにしないので……。ああ、あの、生まれつき味覚音痴でして。それで兄が店を継ぐ料理人になりました」


 愛想笑いというか、嘘っぽい笑顔です。しかし、嫌そうにスープを飲む姿は、本当そう。


「食事、お嫌いなんですね。父の知人にもいます。生きるための作業らしいです。それで、スープとパンばかり食べるのですね。てっきり、スープとパンをこよなく愛しているのだと思っていました」


 私の発言に、フィラント様は眉間の皺を消しました。


「そういう方、他にもいるのですか?」


 安心した。フィラント様、そういう様子です。不機嫌ではなく、怖かったみたい。サンドイッチは好きですか? の答えが「食べられます」だった理由も判明しました。嫌いです、と言わなかったのはサンドイッチを差し入れした私への思い遣り。しかし、好きですと取り繕うことも出来なかった。そんな所でしょう。


「ええ。世の中には色々な方がいますもの。以前、苦手な食事に誘うなどしてすみませんでした。私に歩み寄ろうとしてくれて、ありがとうございます」


 フィラント様はやはり思い遣りのある方です。仕事に追われて、疲れ切った顔だったのに私に会いに来て、嫌いな夕食を私と摂るという約束を守ろうとしてくれました。サンドイッチの件もそう。忙しいのに毎日だった手土産に花。私のために整えられた生活環境。怯えられているだろうから距離を保つ。サシャから聞く、街でのフィラント様の仕事振りや呼吸をするようにしているという慈善活動。


 自分より相手を慮るとは、真心に溢れています。あの晩、並んで座れないくらいで怒るべきではありませんでした。反省して見習いましょう。


「いえ、こちらこそありがとうございます。言うか言わないか迷ったのですが、すぐ分かる事だと思いまして」


 オットーが顔色を良くして、フィラント様の傍へと移動しました。


「今後の食事は栄養配分と食べやすさ重視で用意します。是非、苦痛ではないものを教えて下さい。残しても使い回せる物を作るようにもします」


 フィラント様、申し訳なさそうに、私を見ました。


「エトワール様には今まで通りの食事を用意致します」


 私はオットーに拍手を送りたいと思いました。心の中で拍手喝采です。相手の機微を見抜いて気を遣う。こういう言動は手本にしましょう。オットーは腕が良いし、逃げられないようにしないといけません。


「いつもありがとうオットー。フィラント様、家は寛ぐ場所です。主が遠慮すると、妻も従者も意見しにくいのでどんどんご自分が住みやすいようにして下さい」


 フィラント様の長所は優しさで、欠点も同じようです。遠慮や相手の様子うかがいで、自分自身を蔑ろにしてしまうようです。


 ふわり、とフィラント様が微笑みました。すみませんと言いかけて、ありがとうという感謝の言葉に変わる。


 ありがとうは、やはり魔法の言葉だと思います。これはとても嬉しいです。重苦しい空気が、一気に軽くなりました。美味しいものの感想を共有出来ないのは悲しいですが、他の事を探しましょう。


 オットーがあれこれフィラント様から話を聞き出します。


 私は食事の続きをしながら、耳を(そばだ)てました。再来月のフィラント様の誕生日祝いにおける、食事の価値は一気に下がりました。


 味覚音痴は、無味に近いということのようです。赤い色の食べ物は苦手。肉も苦手。魚は大丈夫。野菜は全般的に問題無し。体力が持たないので、苦手でも3食摂っている。


 1日3回も苦痛があるなんて大変です。オットーが、今後はフィラント様にお弁当を作るそうです。こっそり、手伝いましょう。オットーや他の料理人が全員熱を出した、なんてことがあった時の為にです。


 赤い色の食べ物は苦手……赤い服なども捨ててしまいましょう。捨てるのはもったいないので、寄付です。幸いにも私は青色系が好きですから赤色系の物は殆ど持っていません。桃色は好ましそうにしていたので、大丈夫でしょう。寝室の調度品、問題無し!


 そういえば、屋敷の赤い絨毯が撤去予定。フォンがカビ臭いから変える、そう言っていました。カビ臭くなんてないのに勿体ない。そう言っても、取りつく島がありませんでした。


 理由はカビではなく、フィラント様の為。私が赤いのは落ち着かないので嫌だと言ったことにされたのも、フィラント様の為ですね。フォンはフィラント様を昔から知っているので、好みや性格を把握しているのでしょう。


 これからは隠さないで下さいと、そう頼みましょう。


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