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伯爵夫婦、初の夜 7

 私のお気に入りの猫足の寝台。フィラント様が私をそっと布団の上に寝かせました。フィラント様的には、明るいままソファでの方が良かったのかもしれません。1つ失敗。


 夫婦になりたい、好かれたい、そのようにずっと自分優先ばかりなのでフィラント様の望みを叶えないといけません。


 なのに、そんな余裕がありません。質問は思いついても、言葉の代わりに変な声が漏れます。それに邪魔されて、問いかけなんて無理です。照れの極みで、逃げ出したいです。布団を被って、隠れたい。それをしたら誤解を与えそうなので禁止です。逃亡はダメよエトワール!


 フィラント様はというと、逆に余裕綽々。それに色々同時並行。聞いて教わったことと、現実には乖離がありすぎです。ちょっとあちこち触られて? とんでもないです。


 世の中の男女は皆揃ってこういうことをしているのですか?


 しかし、まあ、気分が良いです。何せフィラント様の顔がずっと目の前で、眉間に皺があっても微笑んでいます。笑っているなら、楽しいか嬉しいのですね。キスがいっぱい。私、キス大好き人間だったようです。でも、フィラント様限定です。


 背中に回した手で、ギュッと抱きついても怒られません。


 たまーに、自分からキスしても、問題なし。触ってみたかった短めの黒髪は、柔らかい猫っ毛でした。


 そんなところに何で触るの? どうして、そんなことをするの? ということをどんどんされますが、理由はフィラント様が気分が良いからでしょう。そして、私も気持ち良い……。


 これはとっても素晴らしい夜です。


 身を任せていたら、途中で「本当に良いのですか?」と切なそうな声で聞かれました。


 頭をなでなでされています。大きくて骨ばっている手が、実に優しく私の頭を撫でています。どんどん、そうしてください。是非続けて下さい。


 もちろん、私は首を縦に振りました。ついでにしたかったのでフィラント様にキスしました。


 キスや触られる次の段階がやってきたようです。こんなこと、今からすることを、10歳の時にされなくて心底安堵。でも、世の中には、そういう目に合う子がいるということです。最低、最悪。


 私は幸運だっただけ。世の中の悪しき面を新しく知ったので、今までとは違う奉仕活動をしようと思います。治安維持向上を掲げるフィラント様やレグルス様の為にもなります。



  ☆★



 すう、すう、と寝息を立てて私の方を向いて眠っているフィラント様。子供みたいな表情で安眠中。つい、少し前までとはまるで別人です。髪を撫でても、ちょっとキスしてみても、ちっとも起きません。


 私はというと、全然眠たくありません。


 痛いと言われたのに、痛くならないで終わったのですが、今が痛いです。興奮しているのと、胸がいっぱいなのと、痛みのせいで眠気なんてまるでありません。少しヒリヒリするのと鈍痛。

 

 胸に擦り寄ってみても、フィラント様は起きません。


 暇です。


 実に暇。


 フィラント様が起きたら、何て話しかけるか考えましょう。酷いことをしたとか思われたら困るので、目一杯の勇気を振り絞り、羞恥心を捨てて、素敵な夜でしたって言いましょう。


 今夜は冷えますが、1つの布団の中で実に温かい。人の体温というのは、とても良いです。落ち着きます。それも伝えましょう。この寝台で一緒に寝るのも義務化してもらいます。歩み寄る夫婦は、一緒に寝るものですと主張しましょう。


 目を閉じて、羊の数を数えたら眠れるでしょうか?


 瞼を閉じたら、裏側にフィラント様の顔が浮かびました。色っぽく私にキスをする顔です。私は慌てて目を開きました。


 どうしましょう、やっぱり全然眠れません。とりあえず、思い出してしまったので、こっそりフィラント様にキスをします。私、悪女街道爆走中です。


 私だけ裸なのはちょっと、とフィラント様のシャツのボタンを外しました。悪女なので悪戯しようと思います。自分だけ恥ずかしいからと服を脱がなかった罰ですよフィラント様。起きた時、私のように照れなさい。


 そうしたら、薄明かりでも分かる大きな古傷が飛び込んできました。胸に斜めに過ぎる、大きな切り傷の跡。


 鍛え上げられた体には、他にも傷跡があります。照れではなくて、これを隠していたようです。全部、戦争での怪我? 切り傷以外に火傷跡のようなところも見つけました。


 それから、左肩に小さな刺青があります。頭が2つで体が1つの蛇です。フィラント様、蛇が好きなんでしょうか? 今度、こっそり聞いてみましょう。


 伯爵になったら、フィラント様はもう戦場には行かないでしょうか? 騎士団副隊長なので、そんなことはないでしょう。


 野戦病院で亡くなった多くの兵士達の姿を思い出しました。フィラント様も、いつかああなるかもしれない……。


 私はフィラント様の上着のボタンを戻しながら、声を押し殺して泣きました。恋に浮かれて、そればっかりで頭がいっぱいで、フィラント様の立場や仕事について考えていませんでした。


 うんと出世してもらって、騎士団副隊長から別の役職についてもらいましょう。その為には、社交場でフィラント様を全面支援。苦手なチェスだって得意になります。ヴィクトリアのレッスンを増やしてもらいましょう。


 フィラント様に好きになってもらうのは2の次にして、フィラント様の出世手助けが先! いいえ、やっぱり同時並行にします。両立します。


 私は泣くのをやめて、寝台から起きて、隣室へ行きました。寒い! 寒いです! 床に放置された下着と寝巻きを身に付けました。それでも寒いです。眠れないから勉強しようと思ったのに、こんなに寒くては……フィラント様の隣で本を読みましょう。


 ランプが1つついているから、薄明かり。文字が読めますし温かいです。フィラント様の寝顔でやる気も出ますし、たまに秘密のキスをしましょう。


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