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子爵令嬢、堂々とアプローチして怒る

 特別礼拝室は厳かな雰囲気で、床は虹色の光で溢れています。美しいステンドグラス。立派な正円十字架に祭壇。来週、私とフィラント様はついに結婚式を挙げます。


 そんな風に、話題はうんとあります。しかし、それは後回し。新発見をしたので、フィラント様に伝え直しをしたいです。


「あの、フィラント様。お願いがございます。可能な限り、望む暮らしを提供してくださるのですよね?」


 精悍な顔つきで、とても真摯な眼差しで私を見据えたフィラント様。はい、と頷いてくれました。


「嫌なら嫌と言って下さい。あの、その、色々と思惑があれど私と結婚するのでしたら、私を妻として受け入れて欲しいと思っています。先週、話したように食事や礼拝に寝室などの件です。私、フィラント様ときちんと夫婦になりたいです。フィラント様となら大丈夫だと思っているからです」


 ここまで言ったら、私の気持ちは伝わるでしょうか? 恥ずかしくてなりませんが、はっきり言わないと伝わらない。誤解の元です。


 あー、伝わっていなさそうです。


 フィラント様、悲しそう。それから戸惑っているように見えます。返事もありません。


 フローラやレグルス様は違うと言ってくれていますが、嫌われている可能性も捨てきれません。しかし、嫌悪対象にあれこれ気遣いなんてしないでしょう。先程の笑顔も嘘には思えません。


「私のこと、苦手です? 具体的にどこがというのがあれば、直します。生理的嫌悪だと困ってしまいますが……」


「いえ、まさか」


 目を大きく見開いたフィラント様。これは、どういう意味でしょう? 言葉通りに受け止めましょう。でないと、勇気が萎れてしまいます。


 初恋について相談したら、お母様に女は愛嬌と笑顔だと言われました。なので、笑います。


「なら、来週から今よりうんとお話し出来ますね。お父様、お母様、フィラント様と会ってとても安心していました。良い方との縁組みだったからです。私もそう思っています。フィラント様にもそう思ってもらえるように、頑張りますね」


 フィラント様、益々渋い顔になりました。これは凹みます。つい、俯いてしまいました。楽観的に考えても、不正解は不正解から変わらない。私の考察は間違いで、フィラント様は私と距離を保ちたいというか、親しくする気はないみたい。レグルス様やフローラは私を慮ってくれただけのようです。


「無理をせず、好きに暮らしてくれれば良いですよ」


 静かな優しい声。顔を上げると、フィラント様はまた困り笑いをしています。


「そう言って、何も、全部、嫌だと却下されるではないですか……。無理をせず? どういう意味です? 私、この街に来て無理をした覚えはありません」


 つい、溢れていました。本来なら、分かりましたと言うべきです。私の立場はうんと下。反抗とかしてはいけません。しかし、フィラント様は怒ったり、私に酷いことをしません。絶対しない。確信があります。


 先週のように分かりました、と言いたくありません。適切な距離というより、離れろというのを簡単に受け入れたくないです。


 自制したいのに、モヤモヤ、ムカムカして、それに悲しくて止まりません。黙りなさい私! と思ったのに言葉が口から飛び出しました。


「好きに暮らして良いのなら、毎日私と会話をして欲しいです。フォン執事やルミエル執事から何か聞くのなら、私から聞いてください。侍女には昔語りをするのに……。フィラント様のこと、分かるようで分かりません……。権力振りかざしてある程度自由に結婚出来るなら、想い人を選べば良かったではないですか」


 これは、どうしましょう? こんなことを言ってしまって、どうしたら良いのでしょう? 権力振りかざして? この婚姻に、フィラント様の意思なんて関係ないです。だから、私への負い目が強くてとても良くしてもらっています。でも、違うのではないか? 心の底でそう思っていたみたいです。


 ある程度融通がきいて、私の何かしらを気に入ってくれた。レグルス様が調査したと言っていたからです。調査報告をされていた筈ですもの。私、選ばれたかもなんて自惚れていたみたい。


「今のは言い過ぎました。フィラント様が嫌々、渋々私と結婚をするのは理解しています。それで、私を慮ってくれているのもです。私、そんなにお気遣いいただかなくても元気で幸せですし、毎日楽しいです。辛かったり悲しいのはフィラント様とのことだけです……」


 これぞ、あとは野となれ山となれというやつです。


 それにしても、フィラント様から何の反応もありません。私はフィラント様の靴を睨むのを止めて、そろそろと顔を上げました。


「あの、すみません。俺との件ばかりとは、気をつけているのですが……」


 色々話したのに、フィラント様の中に引っかかったのはそこだけ。


——自分が人から好かれる事に鈍感


 レグルス様の台詞は、まさにその通りのようです。鈍感ではなく、耳を塞いでいるみたい。


「フィラント様、人の話を聞いていました? もう良いです! フィラント様に歩み寄ってもらわなくて結構です。私が勝手に近寄ります!」


 ここまで言っても、フィラント様は怒りません。戸惑っていて、悲しそうで、辛そうなしかめっ面。


 エトワールはこうなったら、フィラント様の淡い想い人なんて蹴散らして、ど真ん中に君臨しようと思います。とりあえずの目標は「無理矢理結婚させられた可哀想な貧乏子爵令嬢」から「エトワール令嬢個人」として認識されることです。多分、そういうことなんだと思います。嫌われていると思うと頑張れないので、そう思い込むことにします。


 結婚してしまえばこっちのもの。


 離縁されたら困ります、と脅迫すればフィラント様は私を捨てられません。そういう、優しさを持っている方です。そこに付け入るのは悪女ですが、私はフィラント様が「嫌いだ」とか「別れてくれ」と言うまで付きまとうことにします。


 こんな人面倒臭いと思えないのは、本当にどうしようもなくフィラント様を好きだからです。何故でしょう? 恋とは摩訶不思議。突然現れて、心の中を大嵐にしました。


 根性と諦めの悪さは私の欠点にして長所。フィラント様の卑屈さにはめげませんし、負けませんよ!

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