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子爵令嬢、発見する

 サン=ガリル聖堂内の特別礼拝室。この美しい場所で、来週結婚式をします。嬉しいけれど、苦しいです。夕食を一緒に出来なくて1週間、今日までフィラント様に会えていません。


 数日前から、私の両親が来ていて食事会もあったのに、フィラント様は顔を出されませんでした。正確には、忙殺されて顔を出せなかった、です。両親に謝罪と挨拶をしてくれたそうです。フィラント様は働き過ぎだと思います。


 私と両親は、フィラント様のお屋敷で仲良く楽しく過ごしています。フィラント様は、ちっとも顔を出してくれません。


 怒らせたのかと思いきや、屋敷に彩り豊かな花が飾られました。玄関ホールに用意された一輪挿しには、毎日一本ずつ花が増えています。毎日の手土産お菓子が無くなって、残念がっているのは侍女のサシャ。私としては、お菓子や花は嬉しいですが、フィラント様に会える方が良いです。


 フィラント様は、私の留守を狙って屋敷に来ているらしいです。フィラント様って、何を考えているのかサッパリ。


 しかし、苦しいのは終わりかもしれません。フィラント様が私を見て微笑み、手を振ってくれています。私も満面の笑みを浮かべ、手を振り返しました。


「フローラ、お母様、私は最近中々熱心に自分磨きをしていたのでそれがフィラント様に伝わったようです」


 朝から晩まで伯爵夫人として恥ずかしくないように励んでいます。病院で働いていた女性に惹かれたと聞いたから、私も慈善活動場所を増やして病院へ顔を出し始めました。以前、志願看護師として戦地へ行ったので看護業務はそこそこ得意。


 今日はミレーが魔法の化粧をしてくれたし、レグルス様に護衛騎士やサシャ、それにフォンにも聞いてフィラント様好みの色の衣装を選択しています。嬉しいことに、フィラント様は青色系を好んでいて私も同じ。しかも、私は青が中々似合います。


 コルセットは少しキツめ、胸元に少し布を入れるという卑怯技も追加しました。


 フィラント様の笑顔は、私へのお褒めの言葉のような気がします。幸せな気分になれるので、そう思っておきましょう。


「良かったわねエトワール。フィオール様、あのようにフィラント様は穏やかで優しい方です。仕事になると人が変わりますけれど」


 フローラの発言に、お母様がニコリと笑いました。


「ええ、先程神父様からも聞きました。とても慈悲深い方だと。ねえ、ジャン様」


 腕を組むお母様とお父様は揃ってフィラント様を見た。


「そうだな。それに、あれこれ文をいただいている。持参金なし、おまけに私と妻が住む屋敷の修繕をしますとまで言ってくださっている。娘の暮らし振りを聞いてより安心しました」


 うんうん、と私は両親に向かって相槌を打ちました。その時、フィラント様に手招きされました。自然と頬が緩みます。


 1回、手を振ったのにプイッと顔を背けられたので悲しかったです。けれどもあれは、何か違ったよう。


 何せその後、笑顔で手を振ってくれました。おまけに呼ばれています。


「フローラ、お母様、お父様、フィラント様が呼んでいますので少々失礼致します」


 走ってはいけないのだけれども、つい小走りしてしまった。少しでも早く近くに行きたい、そう思ってしまうせい。何故かレグルス様が私に近づいてきます。私は「走るなと叱責かもしれない」と慌てて小走りを止めて、歩きました。ヴィクトリアの教え通りの歩き方をします。


「エトワールちゃん。君は犬みたいだな。フィラントをよろしく。あいつは阿呆で、少々頭がおかしい。自分が人から好かれる事に鈍感。是非、フィラントを誘惑してくれ」


 突然どういうことでしょう? 向かい合ったレグルス様に爽やか笑顔でそう告げられました。


「おかしい? 人から好かれる事に鈍感? どういうことです?」


「さあ? 喋れば喋るほど気がつくものさ。フローラや君の両親と式の打ち合わせをしないとならない。フィラントと2人でのんびりしていてくれ」


 私の脇をすり抜けて、レグルス様はフローラや両親がいる場所へと向かっていきました。


——是非、フィラントを誘惑してくれ


 そうです。自分磨きをするだけでは、フィラント様と仲良くなることは出来ません。先週の談話室での件をフローラに話したら「そんなにあれこれ聞かないで、お隣よろしいですか? と言えば良かったのに」と指摘されました。


 まったくもってその通り。隣に座って良いですか? 私が言うべきだった台詞はそれです。


 いきなり、あれこれ要求なんてしてはいけません。今日はその反省を踏まえて、隣に並んで世間話をしましょう。幸いにも、フィラント様が呼んでくれました。


 努力の成果みたいで嬉しいです。きっと、私が伯爵夫人になるべく頑張っていることをフォンやルミエルから報告されていて、良い印象を与えているのです。ミレーの化粧に、海色のドレス、それから少々の詐欺体型。相乗効果でしょう。


 早く早くと心が急かすので、また駆け足になりました。フィラント様の前へと到着します。笑顔で手を振って、手招きしてくれたのに、フィラント様はしかめっ面になっていました。


「フィラント様、お呼びでしょうか? あ、あの、はしたなく走ってしまってすみません」


「はしたなく? いえ、転ばないか心配でした」


 なんと、まあ、聞きました? と自分に問いかけます。聞きました、と答えます。フィラント様、私を心配してくれただけでした。


「ありがとうございます。転ばないように、いえ心配されないように気をつけます。あ、あの、こちらの特別礼拝室はとても綺麗ですね」


 顔を見ていると、見られていると恥ずかしいです。私はさり気なくフィラント様の隣に移動しました。目標、一つ達成です!


「ええ。王都のアルタイル大聖堂を思い出します。ステンドグラスなど、大聖堂を模しているようです」


「そうなんでございますか。アルタイル大聖堂は1度は訪れて、祈りたい場所です。私、王都に行ったことがありません」


 宗教画のステンドグラスを見ながら、チラリとフィラント様を盗み見。やはり、渋い顔。目線はステンドグラスで、私ではありません。


「それならレグルスが王都へ行く際に、フローラ様と観光出来るように手配しますよ」


 私は返事に困りました。フィラント様は? この質問は保留です。王都へ行きたくない、そういう事な気がします。


「あの、フィラント様はステンドグラスはお嫌いですか?」


「いえ、何故です?」


 フィラント様が私を見てくれました。困り笑いをしています。


「眉間に皺が寄っていたからです。あの、もしや、目を細めるのは癖です? 目があまり良くないとかですか?」


「え? ああ、すみません。そんなに目つきが悪かったですか? すみません。視力はとても良いです」


 すみませんが2回も出てきました。私への負い目が強いのは、こういう性格が原因のようです。


——自分が人から好かれる事に鈍感


 レグルス様の発言はこうではないでしょうか? フィラント様、自分は他人に好かれない人種だと思っている。それだと、色々納得出来ます。


 私、フィラント様がとても好きです。伝わってしまったと思いましたが、逆のようです。


 私の感謝や喜び、幸せ、それにフィラント様への想いは何1つ伝わっていない。多分、そうです。

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