おまけ お誕生日プレゼント【一気読みver.】
かなり長くなったので分割ver.も投稿しました。お好きな方でお読み下さい。
今夜、フィラント様の誕生日をお祝いします。と、言ってもフィラント様の誕生日は偽りでした。
奴隷から騎士爵になった際に勝手に決められた日付、だそうです。これは、近衛騎士のゲオルグ卿に聞きました。
ユース・アルタイルの誕生日は春。つまり、私の知るフィラント様は春生まれ。
そして捨て子のフィラントの誕生日は不明。
今朝、私達の仮住まいの場所、アルタイル城の東塔に、フィラント・シュテルン伯爵邸からいくつかの荷物が届き、誕生日のお祝いとして用意していたプレゼントも手元にきました。
騒動のせいでフィラント・シュテルンの偽誕生日は過ぎてしまい、ユース・アルタイルの誕生日もまだ。
せっかく用意したのに、贈り相手に渡されず、宙ぶらりんのプレゼント。
それで、私は今夜をひとまずお祝いの日にすることにしました。
5日前に思いついて、慌てて荷物に「宙ぶらりんのプレゼント」を追加してもらい、計画を練ったのです。
フィラント様の誕生日を祝う場には、ユース様が必要不可欠。
そういう訳で、私はアルタイル城の応接室の一室にいます。
空いた時間に話がしたい、いつでも良いと城内の客間で待っています。今日で3日目。ユース様は大変多忙で、中々時間が作れないようです。
窓の外が夕焼けになってきました。
諦めずに本を読んで待っていると、念願のユース様が現れました。
ソファへ促して、計画の話をします。
「大事な用だというから時間を作った。あのさ、君の頭の中はお花畑か?」
私の説明を聞いたユース様に、睨まれました。
本気ではなさそうなので、無視することにします。また何か試したいのでしょう。
「私達、特に私は新政権の整備で忙しい。それなのにわざわざ呼び出して、この話か」
「はい。お忙しい中、ありがとうございます。日がな一日、するべき事が無いと嘆いていましたが、私はフィラント様が元気に働けるように、心を休めていただくのが仕事だと気がつきました」
ユース様は目をきょとん、と丸めました。
「ぶわっははは。あはは。言うな。わ、た、く、し、と使え。さもなきゃ王子妃から引きずりおろすぞ」
「そうしたら、ユース様の側近の妻かレグルス様の側近の妻になるので平気です」
大笑いした後、ユース様はもう一度きょとん、と目を大きくしました。
「分かった。今夜、時間を作る。こういう話はもっと早く言え。伝令を使って緊急だと呼び出す内容だぞ」
呆れ声でそう告げると、ユース様は立ち上がりました。
「あの、どちらです?」
「さあ? その判断は君に任せるさ」
えっと、よく分かりません。
「今夜はよろしくお願いします」
「そのうち公務が始まる。で、公務の前にレッスンが始まる。今くらい、ゆっくりしていれば良いのに、毎日毎日、法律書なんかを読んで、やっぱり君は変だな」
ユース様は、ひらひら手を振って、部屋から去りました。
今のは、褒められた気がします。そうでなければ、あれをしろ、これをしろって言われるでしょう。
フィラント様によれば、ユース様は昔からフィラント様にあれこれ命令を出していたそうです。
その内容は、全てフィラント様が王子に戻る時に必要になりそうな事。礼儀作法のレッスンや政務の手伝い。読む本の指定などなど。
なので私は、命令される前に先回り中。
フィラント王子のお妃様は素晴らしい! と褒められたいです。
目的を果たしたので、東塔へ帰宅。
料理は上京してきてくれたオットーに頼みましたし、掃除や飾り付けはサシャとミレー、ナタリアさんがしてくれています。
寂しいことに、生活が落ち着くまで、他の従者とは会えなさそう。
フォンとヴィクトリアは何かで忙しいそうです。
王都にはいるので、3日前に手紙を送りました。一昨日返事があり、間も無く来てくれる予定。
ルミエルとロクサスはフィラント様の代理でレグルス様の補佐官代理をしてくれているそうです。なので、会えません。
アンナは実家へ一旦帰宅。ダニエル、ドナナ、セドリックはレグルス様のお屋敷に一時預かり。
カシムと子供達は、ロクサスと私達のお家で暮らしています。理由はお屋敷管理。
カシムはロクサスの小間使いをして、役に立っている、らしいです。
今夜のお祝いは第一回目として、次回はプレゼントはもうなくなりますけれど、アストライヤ街で全員参加の食事会が良いな、と考えています。
フィラント様、この東塔は静かですね、と呟いていましたから。
住み込み従者達は交代で食事、交代でお風呂でしたし、子供達もいたので賑やかだった。それを気に入っていたのでしょう。
たまに男使用人達と晩酌もしていましたし。
フィラント様は、日没後すぐに帰られます。
食堂でフィラント様の帰宅待機中。フィラント様は荷物が届いた事と、従者が上京した事は知っています。
オットーはソワソワして、食堂内をうろうろ中。
私、ナタリアさん、サシャ、ミレーは椅子に腰かけて、読書中。
「奥様、楽しみですねえ」
「ええ、ナタリアさん。お花の仕入れ、ありがとうございます」
「いえいえ。ナタリアの仕事は、奥様のお世話ですから」
ナタリアさんは徘徊癖と、記憶が過去に戻っている以外は、とても気の良い方です。今日はサシャとミレー、それから護衛の騎士と買い物に行ってくれました。
徘徊は夜で、鍵をかけて部屋に閉じ込めてしまえば、多少の粗相はありますが、大丈夫。とはオットー談。
息子のオットーは大変そうですが、見捨てないとはとても親思い。
フィラント様にはオットーの料理が必要なので、ナタリアさんの面倒を見る条件を付けて、頼み込んで上京してもらいました。
「オットー、落ち着いて下さい。フィラント様、とても喜びますよ。ここで生活を始めてから痩せてしまわれて、私はずっと貴方を待っていました」
「お、奥様。い、いえ、お妃様。はい」
んー、返事の意味がよく分かりません。
「そのように緊張しなくても、二週間で、何も変わっていませんよ」
オットーはブンブンと顔を縦に振りました。それで、またウロウロ。
「変わっていませんって、エトワール様。私とミレーは呼んでくれたのに、どうしてアンナはダメなのですか?」
斜め向かいに座っているサシャが、パタン、と本を閉じて私を見据えました。
「貴族侍女だから、だそうです。フィラント様や私の生活に関する事について決まるのは、まだまだ先になるそうなの。手紙にも書いたわよね?」
「書いてありました。読みました」
「今はまだ、色々と自由にはいかない状況でして。今日は四人が来てくれたお礼も兼ねているのよ」
不満そうだったサシャは、微笑みました。
「直接聞けて良かったです。それは、ありがとうございます」
「ありがとうございますエトワール様。一時雇用とはいえ、城に呼ばれるなんて夢のようですし、お祝いだなんて有り難いです」
「一時雇用。その話もしようと思っていたのよ。フィラント様、私が暮らしやすいように努めるって言ってくださっているから、二人が嫌でなけれ……」
ガランガランガラン、と響く鐘の音。東塔は内側から閂をかける造りですが、フィラント様の帰宅まで、閂は開けてあります。
少々大きめの呼び出し用の鐘の音は、結構びっくりします。この二週間、三回しか鳴っていません。
ユース様か、フォンかヴィクトリアでしょう。
迎えに行くと、フォンとヴィクトリアでした。従者を連れてきています。困りました。これだと席が足りない。
「エトワール様。今夜はお招きいただきありがとうございます」
「光栄でございますます」
二人が会釈をすると、従者がフォンに白い紙袋を渡しました。
「二人とも、忙しいのに時間を作ってくれて、ありがとうございます」
「当然です」
三人を食堂に招きました。フォンはオットーと何やら話し始め、従者も連れて外へ出ました。
ヴィクトリアは私の隣に着席。いつの間にか、手に紙袋を持っています。
「サシャ、ミレー。お久しぶりです。こちらをどうぞ」
ヴィクトリアは紙袋から小包を出しました。掌サイズの四角い小包には、ピンクのリボンがかけられています。
「ヴィクトリア様、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「明日、面談があります。使いなさい。それで、サシャ。貴女は明日、はい、以外の発言を禁止します。エトワール様の近くで働きたければ大人しくするのですよ」
ビリビリと包装紙を開けはじめたサシャに、ヴィクトリアは険しい表情を投げました。
「ミレー、常識的な開け方を見せてあげなさい」
「は、はい。サシャ。こう、丁寧に……」
「エトワール様! 星の髪飾りです! ヴィクトリア様、ありがとうございます!」
サシャが手に持つ箱から出てきたのは、星が並べられた銀色の髪飾り。
サシャは目を輝かして、歯を見せて笑いました。ヴィクトリアがええ、と口にすると、サシャはミレーにきゃぁきゃあ話かけました。
この賑やかな感じ、私が求めていたものです。きっとフィラント様もです。
ほどなくして、フィラント様が帰宅されたした。
「エトワール、帰りました」
玄関で告げられるのは日課になりつつあります。よし、と気合を入れて、従者を食堂に残してお出迎え。
フィラント様は毎日、私が玄関に降りるまで待っていてくれています。
「エトワールちゃん。きちゃった」
「帰れ」
「何で何で? いちゃいちゃしたいから?」
「そういう態度だからだ」
階段を降りていたら、ユース様も一緒だと分かりました。
フィラント様はユース様のコートを脱がしながら暴言を吐いています。とっても不機嫌そう。
「混ざるんだから、帰らないんだもん」
「混ざるな。エトワールに触ったらぶん殴る」
「三人も楽しそうじゃない?」
「他でしろ」
ユース様がフィラント様のコートを脱がそうとして、フィラント様に驚かれ、髪をぐちゃぐちゃに撫でられ、怒られました。
仲良しです。とっても仲良し。微笑ましい。こんな二人、初めて見ました。
「やあ、エトワールちゃん。きちゃった。お酒買ってきたからお酌して」
そう言うとユース様は手に持つ紙袋を軽く上げて、ウインクしました。
「ありがとうございますユース様」
「酒? 重いだろう。だから持つって……」
「嫌だ嫌だ。まだ従者気取り? これはやっぱり練習が必要だ。ほら、言えよ。お、に、い、さ、ま♡ ほら一緒に、お、に、い……無視するな!」
「ただいま帰りました。何も無かったですか?」
私に近寄ってきたフィラント様の向こうで、ユース様が「無視するな」と憤慨しています。
「はい。予定通り荷物や従者が到着しました。長旅だったのに、オットーが夕食を用意してくれました。もう食べられますのでどうぞ。ユース様、良かったら一緒にいかがですか? 多めに作ったそうなのでユース様の分もご用意します」
「ありがとう。そうする」
私、演技下手ですが……フィラント様はユース様に口撃されています。
お兄様と呼べ、ほらほらと背中を突っつくユース様と、うんざりした様子のフィラント様。何だか微笑ましいです。
ドキドキドキドキ。
ドキドキドキドキ。
緊張しながら食堂の扉をそっと開けました。
「フィラント様、お世話になっております」
扉を開けて、フィラント様が入室されたら、おめでとうございますの筈。
花びらを撒くのは予定通り。フィラント様は無表情。食堂の入り口で止まったまま、動きません。
「旦那様! 王子即位、おめでとうございます! それからお誕生日もおめでとうございます! お誕生日のパーティーが無くなってしまったので、小さなお祝いのお席を準備しました!」
はい、とサシャが花束を差し出しました。頼んだ台詞と少し違いますが、まあ良いでしょう。
「あ、ありがとう……」
花束を受け取りながら、フィラント様は私を見ました。
「私としては、この場の全員で食事をしたいと思いますが、どうでしょうか?」
フィラント様、しかめっ面で頷きました。照れたみたい。
「ありがとうございます」
「わああああ、おめでとうございます! って場面なのにしんみりさせるな。相変わらず怖い照れ顔」
にしし、と笑いながら、ユース様がフィラント様の頬を突っつきました。やめろ、とフィラント様は仏頂面です。
「ユース様、お席へどうぞ」
フォンがフィラント様から花束を取って、ユース様を席へ案内していきます。
ヴィクトリアがユース様から紙袋を受け取りました。二人とも、それ、私の役目。
一番上座は、フィラント様の席。フォンはそこにユース様をエスコート。席順も決めて伝えてあったのに。
ユース様にウインクされました。ユース様に頼んでみたけど、不敬だったのかも。怒って無さそうだったけど、内心怒っていた? でもユース様を案内したのはフォンです。
「主役はフィラントみたいだが、どうせ君は遠慮するし、そもそもエトワールちゃんの向かい側が良いだろう?」
フィラント様はユース様の問いかけに返事をしませんでした。
無言で私の手を取り、ユース様の左側、一番近い席の隣に私をエスコート。それで、ご自分は私の隣に着席。ユース様と私に挟まれる場所。
「……。俺はここにする」
衝撃的事態です。フィラント様、テーブルクロスの下で、私の手を握り締めました。
「ふーん。可愛い娘に私の酌を……。ヴィクトリア、君の魅力も素敵だが、流石に夫の目の前では口説けない」
ヴィクトリアがフォンにエスコートされて、フィラント様の向かい側に着席。
「はい、宜しくお願いします」
「おい、私との会話を拒否するな。君はいつもそうだな」
「光栄です」
「おい」
なんか、ユース様とヴィクトリアって確執がある?
フォンがヴィクトリアの隣を空けてオットーとナタリアさん、それから私の隣にミレー、サシャを座らせました。オットーがかなり挙動不審です。
はて、何故フォンが取り仕切っているのでしょう?
「バレット、では頼む」
「はい」
存在をすっかり忘れていたフォンの従者が、厨房から現れました。えっ、彼が配膳係? スープを運んでくれています。
私とオットーの予定だったのに、どういうこと?
「フィラント様、こちらは私と妻からのささやかな祝いの品です」
フォンが持ってきた紙袋をフィラント様に見せました。彼の腕には、他に紙袋が三つも下がっています。
「えっ?」
フィラント様、固まってしまいました。私の手を掴む手に、少々力が入ります。
フォンはフィラント様の背後にあるテーブルに紙袋を置きました。あれ、いつの間にテーブルが。
「こちらはロクサス卿一家とカシムとダフィ、こちらは料理人とセドリックからで、こちらは侍女達からです。後で部屋へお運び致します。アストライア領主様ご夫妻からの手紙と祝いの品は、既に部屋に運びました」
フォンは順番に紙袋を見せ、会釈をして、厨房へ消えました。
フィラント様、かなり驚いたようで、口を半開きにしています。
「ユース……。酒を買ってきてくれたって……。振る舞っても良いか?」
「ダメ。そこのミレーちゃん、よろしく。さっきヴィクトリアに渡されていた紙袋の、細長い方の包だ。子供がいるからジュースにした。フィラント、桃は好きだよな」
「は、はい! かしこまりました」
ユース様の指示でミレーが働き始めました。桃好き? フィラント様って桃好きなんですか⁈
ユース様は私に向かって、ウインクをしてきました。今のウインクの意味って何?
「ユース……。ありがとう……。別にこんな……。静かだって話しただけなのに……」
俯いて、中々怖い赤らんだ顔のフィラント様は……これは絶対に感激しています。
「少し話したら、誰も彼もが協力してくれた。君は自分で思っているよりも、ずっと慕われているんだな。まあ、私としては君だからと言いたいが……良かったな」
「ああ……。皆、ありがとうございます……」
う、う、奪われた!
ユース様に私の企画を乗っ取られています! しかもユース様の手配の方がかなり良いです! というか私、色々と杜撰過ぎたようです! 細かい事を何にも考えていませんでした!
素晴らしい采配ですが、フィラント様に優しく微笑む乗っ取り犯のユース様は、私には小悪魔に見えます。
フィラント様が俯いた時に、ニヤニヤ笑いを私にしてきたから絶対に、確信的な乗っ取りです。今日聞いてこれって凄すぎ。
「食事が終わったら一緒に飲もう。酒も買ってきたんだ」
「ああ、ありがとうユース」
こうして、食事会が始まりました。主催者は完全にユース様です。何せ、ユース様は従者達に満遍なく会話を振り、フィラント様も混ぜています。
私は除け者。相槌は求められますが、何も質問されません。
食事の最後に、小さなホールケーキを出す予定なのに、ユース様はその前にフィラント様を連れて、食堂を後にしました。
おまけに、ユース様は「フィラント、エトワールちゃんにチョコを買ってきたんだ。侍女達とつのる話もあるだろう」と、言葉巧みにフィラント様を誘導し、私を食堂へ置いていきました。
……。
……。
まあ、フィラント様が感激していたので良しとします。
チョコレートと紅茶を待ちながら、テーブルを見つめます。いえ、多分睨んでいるかも。
エトワール愛してる、と言われる筈が、ユース様に乗っ取られた!
でも何で?
「ではミレー、サシャ、頼みましたよ」
「はい。エトワール様、失礼します」
ヴィクトリアの声掛けで、ミレーとサシャに立たされ、食堂から連れ出されました。廊下にユース様がいます。
談話室で、フィラント様と晩酌では?
ユース様、物凄く楽しそうな表情。
「私は君が嫌いだ。大嫌いだ。私からフィラントを簒奪しやがって」
ペチン、とおでこを指ではじかれました。
結構痛い。私、嫌われているのか。それで、計画を乗っ取られた。
「頼んだよ君達。エトワール、ユースお兄様と呼べ。呼ばないとずっと嫌いだ」
ニコニコ笑いながら、ユース様は私の頭を撫でました。とっても優しい手つき。
ユースお兄様と呼んだら好きになるって事? 変な話です。嘘? 嘘っぽい響きでは無かったです。
じゃあね、とひらひら手を振ると、ユース様は去っていきました。上の階へ移動なので、談話室でしょう。
「エトワール様、従わないと二度とエトワール様と会わせないと言われていますので、失礼します!」
「エトワール様、あとで感想というか、どうなったか話して下さい」
「何? どういう事?」
ミレーとサシャは私の腕を掴み、上の階の空き部屋に連れていきました。
「まあ、衣装部屋」
広さは幾分狭いですが、屋敷の衣装部屋そっくり。使っていた鏡台やクローゼット、アクセサリー入れ用の小さな棚などが置かれています。
鏡台の上は、お化粧道具や櫛に髪飾りなど、お屋敷で使っていた配置。
帰宅してから今まで、荷物確認を出来ていなかったので、もう荷物が配置されていることに、少し驚きました。
「ユース様指定の着替えをしていただきます。ユース様からのプレゼントです」
「従わないと私達即クビなので、失礼します」
するするドレスを脱がされました。
「フィラント様のお祝いなのに、私にプレゼント?」
「まあ、あの、分かります」
「旦那様を知っていると、考えることは皆似たり寄ったりみたいです」
「どういう意味?」
ミレーとサシャは私の問いかけに返事をしませんでした。
あれよあれよという間にすっぽんぽん。されるがままに着せられたのは、真っ赤な下着と肌着。
肌着は結婚祝いに貰ったものと、どことなく似ています。丈が短くて、生地が薄くて、透けていて、胸ぐりが深い。
下着は衝撃的な事に三角形で、隠せるところが少な過ぎ。フリルが沢山なのは救い。
こんなの破廉恥極まり無いです!
いくらあの結婚祝いをちょこちょこ使っているとはいえ……真紅とは……でも薄明かりなら、似たようなもの?
上に淡い水色の寝巻きを着せられました。
こちらはどちらかというと子供っぽいデザインで、腰に大きめのリボンが付いています。垂れが長くて動くと揺れるのが可愛い。
ミレーが化粧、サシャが髪型を直してくれました。サシャは私の髪に、寝巻きと同じ色のリボンを巻きました。頭の上にリボンって、子供みたい。
「ユース様から旦那様へのプレゼントは、この姿のエトワール様だそうです」
「ええ、支度中にそんな気はしました」
「こちらをお預かりしています」
ミレーに封筒を渡されました。封筒を開けると、メッセージカードが入っていました。
【プレゼントは、わ、た、しって言え。もちろん、脱いでだ。破廉恥過ぎるって怒られたりして。箱の中身を見ずに持ってこい】
箱? ミレーに四角い白い紙箱を渡されたので、受け取ります。
箱ってこれ。そんなに重くは無いです。振ってみたけど音はしません。
……。
……。
わ、罠に嵌められました!
脱がされた時に、破廉恥だってフィラント様に思われるって事です!
フィラント様が嫌いそうな……。嫌いなんですかね?
私が恥ずかしくてならなくても、フィラント様はユース様やレグルス様からの結婚祝いがお好きなよう。
明かりを消すから着てくれとか、明るいのが恥ずかしいなら着ます? とか意地悪です。
ユース様、私に嫌がらせはしても、フィラント様が嫌がることはしなそう。
結婚祝いは使ってないと言っている。君も言わなくて良いと言われています。でも、ユース様なら嘘だって見抜いていそう。
ということは……どういうこと?
ユース様の考えを想像しながら、ミレーとサシャに連れられて、部屋を出ました。
廊下にヴィクトリアがいて、ホールケーキを持っています。
「エトワール様、こちらをどうぞ」
ケーキを渡され、右手にケーキ、左手に小箱になりました。プレゼントは私というか、プレゼント運び係みたいです。
この状態で連れて行かれたのは談話室。
フィラント様とユース様は窓辺でチェス中。
私を見たユース様が、立ち上がりました。とても楽しげ。
手招きされて部屋に入ると、ミレーが扉を閉めました。
「フィラント、実はあの桃ジュースは子供達からで、そのワインは君の部下達からだ。私からの本当のプレゼントはこれ」
ユース様は私の横に並び、パチンと指を鳴らしました。
「プレゼントは、エ、ト、ワール♫ ほら、この寝巻きとリボン。可愛いだろう? プレゼントにはリボンだ。いやあ、エトワールちゃんが気負ってる君を癒したいって、誕生日に出来なかったお祝いをするって言ってきたんだけど、君にはこれだと思って」
私の髪に巻かれたリボンの垂れを、ユース様がツンツン引っ張ります。ほどきはしないようです。
ユース様は更に私の周りをニヤニヤ顔でぐるぐる周り、またリボンの垂れを引っ張りました。
「ケーキごと、遠慮せず、た、べ、て♡ フィラント、感激し過ぎた?」
けたけた笑うユース様に対し、フィラント様は恐ろしい形相です。
「おい止めろユース。そういう顔をするな。エトワールから離れろ。……。まあ、気持ちは受け取る。ありがとう」
「フィラントの誕生日祝いが騒動の中で過ぎてしまった。まあ、君の本当の誕生日は春だけどな。で、私の誕生日は不明。覚えてない。君が少し疲れ気味だから、元気にしたくて、エトワールが今回の誕生祝いを計画した」
フィラント様が私を見たので、私はコクコク頷きました。ユース様、私の企画だって、主催者の座を返してくれるようです。
「エトワールが?」
「そっ。君が勘違いして、居心地悪かった。全部エトワールちゃんだ」
「エトワール、ありがとう……」
お礼は嬉しいけれど、複雑。
「フィラント・セルウスの誕生日は、ユース王子が私に誓いを立てた日だ。ユース王子が忘れても、私は覚えている。何も知らないエトワールが、その大切な日のお祝いの代わりをすると話してくれて、とても嬉しかった。後は二人でのんびりどうぞ」
そう言って、ユース様は私の両肩に手を乗せ、おでこにキスしました。娘や妹分と思っているよ、という証?
私はフィラント様の表情を確認せずに、ユース様の前に立ちはだかりました。
ユース様は柔らかく微笑んでいます。何を考えているのか、さっぱり不明。
「嘘はお止め下さい。ユースお兄様がフィラント様はお疲れだと教えてくれて、それで二人で相談して、賑やかな食事とか、お祝いの事とか、二人で決めましたよね?」
二人の手柄にします。だって私、フィラント様が食堂に入ってから、ずっと何もしていません。でも企画発案者です。
この方は本当に私を嫌いなのでしょうか? そうは思えない状況です。
ユース様はにこやかに笑っていますが、どことなく顔が強張っています。何故でしょう?
「家族水入らずでケーキを食べませんか?」
問いかけた時に、コンコンとノック音がして、扉が開きました。
ヴィクトリアとミレーが食器やティーセットを、簡易暖炉前のテーブルへ運んでいきます。
家族の食器の数は、二人分。
「ミレー、もう一セットお願い……」
「エトワール様、もう一セット要りませんか? エトワール様的には要りますよね?」
ひょこりと顔を出したのはサシャでした。手に持つお盆にもう一人分、家族の食器が乗っています。
「ええ、サシャ。ありがとう。ユースお兄様、フィラント様、いただきましょう」
二人に並んで座ってもらい、私は向かい側のソファに腰掛けました。
「初めて三人で家族の食器を使えますね。嬉しいです」
素晴らしい! と思ったのに、フィラント様とユース様は少し離れて、似たようなぶすくれ顔をしています。
特にフィラント様。私がケーキに蝋燭をさして、火をつけて、誕生日祝いの歌を歌ったら後から照れまくっています。怖い表情です。
願いを込めて吹き消すって教えて、フィラント様が火を消した後からは、両手で顔を覆っています。
こんなに喜んでもらえるなんて幸せ♡
ケーキを三人分用意し、残りを食堂に持っていって、帰ってきたら、二人は何やら言い合っていました。
というより、ユース様がフィラント様を揶揄っている様子。
「ユースお兄様は本当にフィラント様がお好きですね」
「エトワール、もっと想いを込めて。はい、お、に、い、さ、ま♡」
「ユース、気持ち悪い。エトワール、俺が兄だ。俺が本当はユースということは、年上なのは俺だ。お兄様なんて呼ばなくて良い」
「気持ち悪くないと、完璧人間になるじゃないか。私がユースになったから、私が年上設定だ。エトワールが呼ぶんだから、君もお兄様と呼べよ」
「「俺が兄だ」」
ほぼ同時の発言。
睨み合うと、二人はクスリと肩を揺らして笑いました。
フィラント様は微笑で、ユース様は破顔。
「エトワール、俺はなるべく今までの従者を雇って、この塔で暮らして行きたい。また一から慣れるのは、気を遣うし、トラブルがあるかもしれないし、疲れそう」
唐突な話題です。フィラント様は俯いています。
「こちらの勝手で急に放り出すの……。城内はこれまでの事もあるし苦手です。ここが良い。あとユース、宰相になるのは嫌だ。連日の会議で既に食欲が落ちてきていて、無理だと思う」
突然の発言に、私とユース様は顔を見合わせました。
フィラント様は俯き続けています。
王都に来て「エトワールはどうしたいです?」以外の台詞は初めて。
「同じ気持ちで、嬉しいです。良かった」
「そっ。もっと早く言えよ。先回りって神経を使うから結構疲れるんだぞ。君の事は大抵分かるが、分からない事もある。本人じゃないからな。付き合いの浅い妹の事は、さっぱり分からない。三人きりだし、色々話し合うか」
こうして、私達は家族三人で初めて色々と話をしました。一家団欒。
ユース様は照れ屋かもしれません。私へのサポートを隠そうとしたり、大嫌いだとか、お兄様と呼んだら好きになるとか、ふざけた言い回しをするところとか、そういうのは多分照れ。
勘ですけれど、私は勘が良い方です。
★★☆
ケーキを食べ終え、ワインボトルも空になると、ユース様は帰りました。
それで、フィラント様と二人でお祝いの品の確認を開始。
私からのプレゼントは最後にしたかったですが、ユース様が自分の箱が最後というので、譲る事にします。
「これはフォンとヴィクトリア……ルミエルの名も書いてあるな……」
箱から出てきたのは蝶ネクタイと香水。香水は、瓶が桃色で、ハート型で、どう見ても女性物。
「これは料理人とセドリックから……」
料理本と季節の花の育て方というタイトルの、手書きの本と「ご夫婦でお使い下さい」のメッセージ。
「これはロクサス卿一家とカシムとダフィから……」
驚いた事に、私の肖像画。顔ぐらいのサイズで、テーブルとかに立てられるような額に入っています。
「これは侍女達……」
紺色のエプロン二枚と口紅。エプロンには流星が刺繍されています。
「レグルスとフローラ様……」
アストライアジャスミンの香りのするボディークリーム。陶器の入れ物の柄が青い小花で、どう見ても女物です。
「どうしてでしょう。フィラント様へのお祝いの品なのに、私への品が混じっているというか、私への贈り物みたいな物ばかりですね」
「……。うん、ああ……」
「肖像画なんて私です」
「うん……いや、これはこれで合ってる」
「これで合ってる?」
「あー……いや……」
フィラント様、歯切れの悪い返事。
次は私です。腕時計と、私が編んだ雪の結晶柄のマフラー。
腕時計は西の地からきた行商が売っていた貴重品。なにせ、時計がうんと小さくなって、皮製の腕輪にくっついているのです。
市場で発見し、驚愕し、値段に驚きつつも買いたくて、私のほぼ全財産と、イヤリングを売って買いました。全財産と言っても、ほぼフィラント様からのお小遣いです。
ユース様が私のイヤリングを高く売って、腕時計の値切りもしてくれました。
値段の事は抜きにして、腕時計発見の話や、マフラーを編むのにアンナがうんと協力してくれた話をすると、フィラント様は私に笑いかけてくれました。
「凄いな、これ……」
フィラント様、腕時計ではなくて、マフラーに興味津々。
「編んだのか……エトワールが……」
嬉しいですけれど、あのー、腕時計は?
「俺の為に……」
とっても嬉しそうで、私は幸せですけれど、腕時計は?
「それにしても腕時計なんて、世の中は広いのですね。どういう仕組みだ? 貴重な懐中時計よりも小さいなんて……。エトワール、高かったんじゃ……」
マフラーは大感激みたいなのに、腕時計はそんなに嬉しくなさそう。マフラーはおまけでしたのに。それに、何だか申し訳なさそうなお顔です。高級品だと、遠慮されるという発想が、頭からすっぽりと抜けていました。反省。
「懐中時計と同じくらいです。最初は懐中時計を探していたんです。この腕時計、ユース様がうんと値切ってくれました。時間を見て、帰ろうかなと思ったら、私の事も一緒に思い出すと思って」
えいっ、と遠慮なく腕に抱きつきます。
もう両想いですもの。いえ、最初から両想いでしたもの。
フィラント様は私にそっと優しいキスしてくれました。微笑み付きで。
「思い出すも何も、いつも考えているよ。両方とても嬉しい。ありがとう」
胸がきゅうううう、と締め付けられます。はあ、両想いって素晴らしい。
もう一回キス、それから抱きつこうと思ったけれど、まだユース様からの小箱があります。
「フィラント様、ユース様からの本当の贈り物はこちらの小箱らしいです」
「ん? いい。明日見る。エトワール……」
情熱的な目で見つめられ、顔が迫ってきたのでキス——……ダメです。
キスもいちゃいちゃも、湯浴みしてからです。寝巻きの下の肌着と下着を脱いで、隠さないと。
この明るい談話室で、というのも却下。ランプを消した寝室でです。
「あ、あの、寝る準備をしてからで」
フィラント様の胸を押し返し、身を捩り、ついでにユース様の小箱を手にしました。
「ユース様からは何でしょうね?」
不服そうなフィラント様に向けて、箱を開きました。ふわりと香ってきたのは、アストライアジャスミンの匂い。
小箱の中身は、乳白色の四角い物体。
「蓋の裏に何か書いてある。えーっと……。これで洗ってあげたら……贈り物は完成……」
私が手に持つ蓋の内側を見つめていたフィラント様が私を見たので、目が合いました。
少しして、視線が私の頭の上に移動。
「プレゼントはエトワールって……」
つんつん、つんつん、とフィラント様は私の髪に結ばれたリボンの垂れを引っ張りました。
ユース様の意図が分かり、全身が火のついたように熱い。
「大事なユースからのプレゼントは、受け取らないとならないな。うん」
「な、なっ……」
うん、て……可愛い。フィラント様、ウキウキして見える。
私、絶対にこの石鹸で洗われる。この顔のフィラント様は、私が嫌だって恥ずかしがっても「嫌じゃなくて恥ずかしいだけだよな?」って意地悪してくる。逃してくれない。
つまり、寝巻きの下の状態もバレる。
「い、いや……」
「嫌って俺が?」
始まった。悪戯っぽい微笑は、少しユース様に似ているかも。
両想いになったら、フィラント様は意地悪かつ強引になった。
「いえ、フィラント様は嫌ではないです……」
「うん」
熱烈な目で見つめられ、顔が迫ってきたのでキス——……ダメです。ダメ、ダメ、ダメ!
「あの、寝る準備をして……」
「うん、する。その石鹸、持ってて」
フィラント様の胸を押し返したけれど、無駄でした。力を入れられたら、逆らえない。全力で拒否しない、それどころか受け入れると見抜かれてる。
キスされて、抱き上げられました。暖炉とかランプの消灯は?
聞きたくても、キスの雨。少し見つめられてから軽いキス。それが何度も何度も続く。
こんなの、甘くて、幸せで、流されちゃう。
上の寝室のある階へ連れて行かれる。これは、浴室へ運ばれるんじゃ……。
予想的中。
浴室内の天井近くの棚にランプが置かれていて明るい。浴槽にお湯が張ってあります。
脱衣所に入った時点で寝室より暖かく、湿度が高かったです。
もう準備されている。ユース様だ! 絶対にユース様の指示だ!
「ここまで根回ししてあるのか……」
そう言うと、フィラント様は私を床に下ろしました。
よし、逃げよう。
「準備万端ですね。では、フィラント様がお先にどう……」
手を繋がれて、軽く引っ張られました。無視して背中を向けておきます。でも、手……離したくないな。
「あはは、エトワール。真っ赤」
……。そんな無邪気な笑い声を出さないで下さい。
こんなの、どんな顔をしているか見たくなります。見ますとも。ええ、見ますとも! 貴重です!
振り向いたら、フィラント様は機嫌良さそうなニコニコ顔。珍しい。
心底嬉しい、というような本当に珍しい満面の笑顔。私の胸にブスッと矢が刺さります。
はうっ。
私……この表情……大好き♡
ぼけっとしていたら、フィラント様の手が、しゅるり、と私の髪のリボンをほどきました。
「ユースの奴、何がプレゼントはエトワールだ。煩いだろうけど、絶対に教えてやらない」
ああ、無邪気で素敵な笑顔♡
ぼけっとしていたので、寝巻きを脱がされました。
「き、きゃああああ」
「えっ……」
体は腕では隠せません。フィラント様、目を見開いて固まっています。
驚きではなく、食い入るような目付き。
「こ、これ、これは違います!」
「違うって、着たのに?」
逃げようとしたら、捕まりました。抱き竦められて、熱烈なキス。
その指摘はその通り。着させられのだけど、着てますね、私。脅されたけど、徹底抗戦はしてません。
フィラント様の意地悪。
可愛いは嬉しいですが、耳元で色っぽい声は反則です。
いつの間にか、私の手から石鹸の入った箱は消えていて、どんどん浴室へ追いやられていきます。
「フィ、フィラ……トさ……まあ……」
大変な事になりました。浴室の壁のタオル掛けに、リボンで拘束です。
それで、浴槽に座ったフィラント様が、熱心な目で私を観察。
恥ずかし過ぎて、小さな声しか出てこない。
嫌です。恥ずかしいです。見ないで下さい。全部無駄。
「い、いやあ……」
「恥ずかしいだけだよな?」
「いじ、いじわる……しないで……」
「ん? 悪さなんてしてない。プレゼントを堪能してるだけだ」
ここのところ、いちゃいちゃが始まると、遠慮しまくっていたフィラント様は行方不明。
少し帰ってきて! お願い、帰ってきて!
「こんなの……はずかしい……」
無言で近寄ってきたフィラント様は、私の下着に手を伸ばしました。
下着を脱がされ、肌着も脱がされる。この肌着、肩紐がボタンになってました。着るときは上から被ったから気づかなかった。なのにフィラント様は目敏い。
「もう一回着たら、もしかしたら慣れるかもしれませんよ」
ええええええ。それって浴室を出たらもう一回着させられるって事です。で、またジロジロ見られる。
私の肌着と下着が脱衣所へ運ばれていき、フィラント様は石鹸を片手に戻ってきました。
洗われる。この体勢のまま、フィラント様に洗われる。
凄く楽しそうな、キラキラした目をしているから、絶対にそうだ。
「ぬ、濡れますよ……。服……」
「ん? どこが濡れるって?」
フィラント様、完全にスイッチが入ったようです。目が蕩けてる。服は後で脱ぐつもりなのでしょう。この顔、とにかく私の反応を楽しむ気です。
私の体、触られまくりの泡だらけ。
「最高の……唯一の……プレゼントだ……」
「ですから……いやあ……」
私の体、泡だらけで触られまくり。
初めてお互いの気持ちを伝え合った日と、似たような状況。多分、明日、謝ってきます。それでまたしばらくぎこちない二人になるでしょう。
この日の夜のフィラント様は、始終意地悪で、色々と驚くことを要求してくるし、おまけに初めて何回も求められました。
ユース様のバカ! バカバカバカ!
後半はご想像にお任せします。詳細に書いたら15禁ではなく18禁。




