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子爵令嬢、喜ぶ

 アストライア領地シュテルン子爵邸。それが、フィラント様と私が、来月から暮らす屋敷。購入したのはレグルス様とフローラで、雇う従者の選定はレグルス様の叔父、ヘンリ・カンタベリ公爵様だそうです。ヘンリ様は副領主、レグルス様の補佐役——という名のお目付役——で、レグルス様やフィラント様の後ろ盾なんだとか。


 従者の方々は明日の昼近くに集まるそう。レグルス様とフィラント様の2人で、従者へ仕事や屋敷の話をするそう。その打ち合わせが始まりました。私はフローラに屋敷内を案内してもらえることになりました。ビルという騎士が護衛についてくれて、少し離れた場所にいます。このお屋敷は、レグルス様とフローラが暮らす領主邸よりは小さいですが、かなり広いです。1階は玄関ホール、晩餐会を開ける大ホールと小ホール、談話室、食堂、浴室が複数、そして従者の部屋。この1階の従者の部屋は狭すぎ。住み込み従者の部屋割りを、フィラント様と相談した方が良さそう。2階は客間、図書室、応接室、書斎、会議室などでした。


 3階はなんと、私とフィラント様の生活空間だそうです。部屋がうんとあるのに全部。特別なお客様を泊める際は3階を使うと良さそう。なにせ、床がピカピカに磨かれた大理石です。1階と2階は赤い絨毯でした。それにしても、昨日の朝にこの屋敷内を歩いた時も思いましたが、カーテンは赤いし、シャンデリアは大きいし、彫刻や調度品なども豪華で煌びやか。目がチカチカします。まったくもって落ち着きません。


 お父様、お母様、私はお姫様になるみたいです。しかし、心休まる気がしません。フローラが「この屋敷はレグルス様がフィラント様になるべく合う物件を用意した。別区画の一回り大きな屋敷にしたかったのよ」と言っていましたが、この屋敷で十分過ぎる程大きいです。フィラント様は、レグルス様によれば質素な倹約家。私と気が合いそう。伯爵なのにケチられると困ると、レグルス様はフィラント様に、この屋敷を半ば強制的に購入させたそうです。


 あちこち派手な内装ですが、寝室は大変地味でした。白いレースの天蓋付き寝台、アイボリー色のカーテン、薄い灰色のソファ、木の素材を生かした机に椅子。これは、これはとても落ち着きます! ここだけ別空間みたい!


「猫足……」


 3人は寝れそうな大きな寝台の脚が猫の足の形です。布団カバーはカーテンと同じアイボリーで青い小さな花柄模様。絨毯も赤ではなく、白を基調にした青くて小さい薔薇模様を端にあしらったもの。


「レグルス様が調べたエトワール令嬢の好みを聞いて、私が揃えたのよ。気に入った? 中古の屋敷で他は全部以前の主の使っていたものだけど、寝る場所くらい落ち着ける方が良いと思って私達夫婦からの結婚祝いなの」


 フローラは少し自慢げです。


「屋敷の内装は、フィラント様と相談して徐々に変えていくと良いわ。気に入らなかったら客間に移動させるか返して。ちょっと自分の趣味も入っているの」


「気に入らない? 私の好みど真ん中ですフローラ。ありがとうございます! とても落ち着く、可愛らしい部屋です。返せと言われても返したくありません。もちろん、返せと言われれば返しますけど。レグルス様にも御礼をしないとなりません」


 良かったと笑ったフローラに手招きされて、扉1枚で続く隣室へ移動しました。寝室と似たような調度品です。箪笥、クローゼット、本棚、それに姿見の脚がやはり猫足。白塗りなのも、デザインも似ているので、揃いの家具なのでしょう。子供っぽくない絶妙なデザインな気がします。隣室と同じ形に色のソファがありますが、ふた回り程大きいです。ソファ前のテーブル台はガラスで、やはり脚が猫足。


「私は嬉しいですけれど……フィラント様、この部屋で落ち着くでしょうか? 私は嬉しくて胸が一杯ですけど……ああ、寝室は別々なんですね……」


 結婚式が終わったら、一緒に寝るのかとドキドキする妄想をした後に、寝室は別々かも……と考えたら切なくなりました。


「そんな顔して、可愛いわね。夫婦なんだから一緒の寝室よ。もし別々にって話が出ても、レグルス様が言う通り、誘惑っていうか甘えて一緒の部屋で寝ましょうって頼んでみると良いわ」


「恥ずかしくてとても言えないわ。フィラント様が落ち着かない、お気に召さないのなら、ここは私だけの寝室にします。大変な仕事をするようなので、フィラント様が安らげる空間を用意しないとなりません」


「そう? 心配しなくても、大丈夫だと思うけど」


 レグルス様が「毎晩抱く」なんて言っていましたが、寝室が別々疑惑。私、妻として手を出してもらえるのでしょうか? 夜のことは少し教わっています。寝る前に服を脱がされるから、旦那様の言う通りにしなさい。らしいです。どうやら、裸で抱きしめられるみたいです。毎晩? キスもされるかもしれないし、恥ずかしい事この上ないです。恥ずかしいし、男性に抱きしめられるなんて怖いのですが、フィラント様は慈悲深くて優しいのできっと大丈夫。問題は、私の心臓が持つかです。世の中、夫婦で溢れているので心破裂はしないのでしょう。


「レグルス様が、フィラント様に趣味などないし相手の方の趣味に合わせるだろうから先回りって……エトワール、顔が真っ赤だわ」

「へっ?」


 ちょうど鏡台があったので、自分の顔を確認しました。レグルス様が「茹でタコ」と言っていた通り、真っ赤な顔。私、こんなに赤くなったことなんて、今までありません。


「そ、その、一緒に寝てもらえるのかなとか、キスをしてもらえるのかな、なんて少々破廉恥な妄想をしていた……ら……? あれっ?」

「まあ、エトワール。風邪かしら?」


 くしゅん! 昨日は何度か出ていて、今朝から出ていなかったくしゃみが出ました。それに、フラフラします。フローラが私の額に、手の甲を当ててくれました。


「羞恥ではなくて、熱みたいね」


 あれ、熱? 色々な事——主に嬉しい事——が多くて浮かれていたようです。自分の熱に気がつかないなんて……。私はしゃがみ込んで、コンコンと出てきた咳を抑えようと、口を手で覆いました。心配してくれているフローラに、返事が出来ません。ぼーっとしてきて、コンコン、コンコンと咳が出てきます。

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