0-7 これから
「えっと……よろしくね」
「……ん」
あの後なんとかブラッドウルフ10匹の退治に成功し、今はそのなけなしのお金を使い宿を取り、部屋でのんびり……はしていないかもしれないが、一先ずはここで1日を終える。
結局あの後のサリナはと言うと、ジェームズさんたちが説明すると駄々をこねはじめ、私も2人と一緒がいいと終いには泣き出した。
しかし、カルラさんがそれを宥め、ジェームズさんが何度も謝りながら説得すると、サリナは最終的には了承してくれた。
……僕と一緒に行くのがそんなに嫌だったのだろうか。
いや、単純に2人と別れるのが嫌だったのだろう。
……そう信じたい。
「えっと……明日の朝、隣の街に移動するので、早めに寝てくださいね」
「……ん」
一応、ベッドの上で正座して説明しているのだが、サリナも正座をするし、ずっと見つめてくるし、なんだか気まずい。
いや、こんな美少女に見つめられるのなんて人生初体験だから、僕の息子が反応……いや、今はもうなかった。
なんだ、この虚しさは。
「えっと、僕、水浴びしてくるね」
「……ん」
いやほんと、なんか別のこと喋ってくれないとやりづらい。
水浴び、というか、お風呂に入るような場所は基本的にこの世界の宿にはない。
なので、それ用の店に行かなければならない。
……なんだかんだあったけど、まだ初日なんだもんなぁ……。
「こ、ここかな」
見た目は普通の一軒家だが……大丈夫なのだろうか?
少し軽い扉を開き、中に入る。
すると、若い男の人が奥から出てきた。
緑の髪で、耳が長い。
目元は柔らかく、高身長。
確か日本のゲームではエルフがこんな感じだったはずだ。
……エルフか?
「ようこそ。『まち荘』へ。本日のご用件はどういったものでしょう」
「あ、日帰りで」
「かしこまりました、ではこちらへ」
日本での日帰りがどうだったのかはよくわからないが、この店、まち荘では日帰りと1食付きの風呂らしい。
いや、風呂は無いらしいのだが、そう聞いた。
男はそう言うと、出てきた奥へと戻っていく。
まずは風呂への案内か?
「ではこちらにお名前をお書き下さい」
「はい」
だよね、まずは名前からだよね。
べ、別に、知ってたし?
都会暮らししてて1回もホテルに泊まったことがないなんてあるんけないし?
とはいえ、文字なんぞ書けないのだが。
と思ったが、そこは神様のアフターケアもばっちりのようで、頭で自分の名前を浮かべるとペンを持った手がスラスラと書き出した。
「……はい、アイラ様ですね」
よかった、通じた。
ちなみに、姓は書いていない。
アイラと書いた時点で手が止まってしまったのだ。
男は名前を書いた札をそのまま持っていき、部屋だと思われる扉の前で立ち止まる。
「では、こちらが本日のアイラ様のお部屋でございます」
「あれ、部屋、ですか?」
「はい、こちらでお食事を取っていただきます」
……ふむ、手厚い歓迎。
というか、単純に泊まる人が少ないのだろうか。
多ければただ体を流して飯食って帰るだけのやつに部屋を出さないだろう。
掃除する人件費とかもかかるだろうし。
と、言うことは高いのか?
「念の為お金を全部預かっておいてよかった……」
ブラッドウルフの依頼達成による報酬は、本来ならば分割するべきものだが、どうせ同じパーティーに入るのだし、お金も必要だろうというのとでジェームズとカルラさんから受け取っていたのである。
サリナさんはお金に興味無いようなので、そこでは特に揉めることは無かった。
いや、僕が後ろめたいというかなんというか、そこで一悶着心の中であったのだが、そこはまた別の機会に。
さて、ではまずは体を清めてこよう。
なにせサリナさんとの初夜だ。
ここはしっかりと洗い流さなくては。
……いや、違うけどね?
そもそも女同士で何するんだって。
ナニするんだよって?
うるさいよ。
……いや、しかし欲求が溜まった時、この女の体はどうしたら良いのだろうか……。
例え自分の体としても、目に毒だ。
「いやぁ、広いなぁ」
水浴びとは名ばかりで、生前の日本での銭湯を彷彿とさせるところだった。
ただの銭湯である。
いや、水浴びじゃないやん。
あったかいやん?
「ま、なんでもいいけどね」
まずは桶で体を流し……いや桶もあんのかい!
「いやぁ、いい湯だった」
外はもう既に日は落ちており、空には星が。
……都会に住んでいたままだったら、こんな景色見ることができなかったかもしれない。
「感謝はしないと、罰当たりだよね」
密かに、しかし、しっかり届くように、空に向かって思う。
本当に、ありがとうございます、と。
「いや、別に日本で不幸な暮らしをしていたわけじゃないんだけどさ」
少し冷える夜道を通り、サリナの元へと帰っていくのであった。
「ただいま〜」
「……」
「あれ、まだ起きてた……って、もしかして起こしちゃった?」
宿に戻り、ドアを開けると、そこにはベッドのシーツを足にかけ、ベッドの上に座ったままのサリナがこちらを見つめていた。
はて、起こしちゃったか、とは聞いたが、今の今まで寝ていた様子でもない。
では、なぜ。
「あの」
「んっ、な、なにかな?」
とか考えてたら、話しかけられた。
扉の前で立ってたから、不審がられただろうか。
話を促し、ベッドの横へ移動し、腰を下ろす。
うーん、布団派。
いや、日本での僕はお金が無くて、ベッドが買えなくてずっと布団だったからかもしれないけど。
話が大幅に逸れた。
「あの、どうして私を連れていくことを了承したんですか? 傍から見れば、もう私の面倒を見きれないから、押し付けられたようなものなのに。」
「えっと、それは……」
「……断っていただければ、もう少し、あの2人と旅が出来たのかもしれない」
「それは、無いと思うけど……」
「結局のところ」
サリナは足を抱えて丸まる。
まるで、自身の世界の全ては、あの2人であると言わんばかりに。
「私は、どうするのが正解なのかわかりません……」
「……」
正解。
この場合の正解なんてものは、誰にもわからないものなのだ。
けれども、これだけは言えるだろう。
「でも、2人と一生会えなくなるわけじゃない、そうだよね?」
「……」
「会おうと思えば、会うことが出来る。 それぐらいの距離にいるんだよ、私たちとあの2人とは」
「……わかってるもん」
サリナはそう言うと、シーツを被って背中を見せた。
素直じゃないなぁ。
そんなとこもいいね!
確か、18だったか。ジェームズにさんによると。
「まだ高校を卒業するかしないか、ってところなのか」
義務教育を終え、そのまま浪人せずに高校に入ることが出来たのなら、そうなるはず。
ちなみに僕は勉強せずに合格できる高校が地元にあったので、そのままエスカレーター式のように。
……いや、バカだったわけじゃないよ?
寧ろ、少し勉強したら東大行けたレベルだったよ?
……こっちの学校ってやっぱり学力じゃなくて武力で勝負なのかな。
だとすると、身分証明書なら余裕で合格、ギルドカードなら危ないかも、ってところかな。
どれくらいなのか情報を集めておかないと……。
「それじゃ、おやすみ」
「……ん」
明日のことは明日のこと。
今日はもう疲れた、色々あった。
ブラッドウルフに関してはほぼ狩ったのはサリナだし、僕は何もしていないに等しい。
これからも同じパーティで行動を共にするのだ、恩返しをする機会ならいくらでもある、そう信じて今日は寝よう。
僕とサリナのベッドの間にある机の上。
そこには辺りを暖かく照らす灯りがある。
その下についてるつまみを回すと、この宿からの魔力の供給が無くなり、光らなくなる。
まぁ、ホテルとかにあるものとさほど変わらないようだ。
明日は、何をしようかな……。
「異世界はどうですか、透さん」
「はい?」
ふと気づけば、最初に女神様に出会った場所に僕は浮いていた。
最初に、と言っても可愛くない方だ。
せめて会う時ぐらい可愛い方にしてほしい。
そして、浮いている、というのも、周りは何も見えず、足元にも何も無いため、浮いているような気がするのだ。
「それで、どうです?」
「あぁ……まぁいいですけど……もしかして、初日でメンバー増えたのって女神様のせいで?」
「ええ」
ほーん。
つまりあれか、異世界に移してチート能力付けて、それでもまだ罪意識を持ってるってことなのか?
いや、まぁ僕としては嬉しいんだけど、自分の力で増やしたかったとかも思ったり。
「では、それだけですか?」
「いえ、まだあります」
あるんかい。
魔王を倒してとかだったら面倒だなぁ。
いや、勇者っぽくていいけどさ。
「あなたのいる世界に蔓延る悪を滅してください」
「……?」
悪。
それは、どの規模でのことを指しているのだろうか。
前の世界で言うポイ捨てとかは紛れもなく悪だと思うのだが、そんなことしていたらキリがない。
異世界では……なんだろう。人身売買とかかな。
「人々の生活を脅かすものを悪、と、我々は称しています」
「我々」
「ええ」
なるほど、複数人、というよりかなり大きな規模でのグループがあるのか、女神様のところには。
……日本には馬鹿みたいに神様がいたし、枠を作らないと大変なのかな。
閑話休題。
「人々の生活を脅かす……って、ある意味魔物もそう捉えられるんですけど」
「ええ……今回のブラッドウルフ、特異種と言いましたね。概ね正解です」
「まぁ、カードにそう書いてありましたし」
僕個人としては記念すべき初めて出会った魔物だ。
だが、その魔物があちらではワケワカランティウスでは困る。
「いえ、そんなちゃらんぽらんではありませんけど」
「また思考読みました?」
「思考に関してはなぜか読めなくなりましたけど、今のは普通に声に出てましたよ」
「えっ」
思ったことが知らないうちに口に出ている……向こうでもあるかもしれない。
用心しよう。
……とはいえ、読めなくなったのか。
ならば頭の中で女神様をあんなことやこんなことしてもバレないと。
なるほど。
「とりあえず、指標はこちらで出します」
「女神様からのミッション発令……」
「まぁそのようなものです。まずは北に向かってください」
北ね……北には何があったかな。
いや、そもそも今僕がいるところもなんて国なのか教えてもらった覚えがない。
いや、忘れてるだけかも。
「北には、スヴェールという国があります。そこは治安が良く、戦争もしない平和な国です」
「平和な国なら行く必要なんて無いんじゃ……」
「いいえ、その国は自分の領土では何もしていないものの、他国の領土で秘密裏に人体実験を行い、バレそうになると事前に行っていた情報操作でその国とがやっていたと言うことにし、その国の民衆の信頼を落とします」
「落ちるのは信頼だけでは済まない気が……」
「もちろんです」
女神様は神妙な顔で頷いた。
左手で髪をいじりながら……ん?
女神様の髪の毛って何色なんだ?
それを意識した途端、気になって仕方がないが……認識出来ないのかなんなのか、それが『何色』なのかは理解できない。
「その他もろもろのことも、解決してください。報酬は弾みますので」
「なるほど」
完璧に女神様側からの依頼、ってことか……。
だけども。
「僕1人では、国の諍いなんて解決できる気がしませんが……」
「もちろん、その国での見方もご用意致します。はーれむ……とやらを作るには、可愛い女の子が必要と聞いたので、そんな感じの子を」
そんな感じて。
どうしたものか……。
あと2人ぐらい集めて、4人で仲良く、っていうのが理想なんだけど。
ま、いいか。
「わかりました。その依頼、引き受けましょう」
「本当ですか!ありがとうございます!」
それ以前に、女の人を泣かせたくないしね!
キリッ!
……いや、いいとこ見せたくてさ……。
あわよくば女神様もメンバー入りしてくれないかなぁ、なんて。
「それでは、よろしくお願いしますね!」
最後のセリフがぐわんぐわんと響いたと思ったら、気づけば視界には天井があった。
「……知らない天井だ……」
いやぁ、現実が忙しくて(言い訳)
頑張って毎週土日のどちらかに更新しますぞ!!()




