33 「それって罰かな」「私にとっては罰より重いよ」
「さて、なんとか地上に戻ってきたわけだけど」
「...」
「折角オフロに入ったのに、少し汗をかいてしまったわね」
地下4階のお風呂を堪能した僕達は、普通に戻ってきたので、そのまま会長室まで直行している最中である僕達。
降りているときはそんなに気にならなかったのだが、階段というものはいかんせん上る方がつらい。
降りる方がつらいという人もいるだろうが、それは肉体的な問題を抱えている人の場合だ。
僕達はそんなものへでもないので、別に膝が痛くなったりしないが、未だに寝ているヒジリを背負いながら4階分上ってくるのは汗をかく。
少し気持ち悪い。
背中で寝ているヒジリをちらりと見る。
「...もう食べられないよ...」
なんとも呑気なものである。
寝言でよく言うであろうセリフ第1位のセリフだそれは。
しかし、このまま会長室に行くと、僕達は間違いなく怒られる。
まあ、怒られるのは仕方がないことなのだが、お仕置きとやらが痛くない方向では無いとは限らない。
痛いのは勘弁なのだ。
「さ、入って」
そんなことを考えていたら、いつの間にか会長室についてしまった。
もう、なるようになれって感じだろうか。
「さて、あなたたちに対する罰なのだけど」
「その前に」
「?」
「ヒジリを起していいかな」
「...ええ、もちろんよ」
後ろに背負っていたヒジリを、突然手を離し、地面に落とす。
すると、その衝撃で目が覚めたようだ。
「な、何!?」
「おはよう、ヒジリ」
「...アイラ、少し雑じゃないかしら」
これぐらいしないと、ヒジリは起きないんですよ、会長。
さて、これでヒジリも起きたことだし、連帯責任で罰を受けようじゃないか。
まあ、主犯格はヒジリだし、最悪僕はそれを理由に出して僕だけは刑罰を軽くしてもらうけど。
最悪だから。出来れば使いたくない。
「さて、まず、ヒジリの罰から」
「え、私から?」
「私闘を禁止します」
バタッ。会長を見ている視界の隅で何かが倒れたと思ったら、ヒジリが顔面から地面に倒れ伏していた。
「ヒジリ!?」
すぐに体を起こすが、既に意識は無く、しばらく回復しそうにはなかった。
まさか、こんなに的確な急所をえぐってくるなんて...ルノウ会長の罰は恐ろしい。
きっと、『浄化の儀』に遅刻した人も、こうやって失神させられたに違いない。
「さて、アイラの罰は」
「出来れば、軽めにお願いします」
「...これから毎日、私のお風呂の手伝いをしなさい」
「...はっ?」
今この人は、ルノウ・ヴァイオレットはなんと言ったのだろうか。
アズリレウス学院の生徒会長ともあろうものが、お風呂に入る手伝いをしろと言ったのか。
「...毎日、ですか?」
「ええ、そうよ。これから卒業するまでの3年間、私も卒業するまで3年間あるから、それまでずっとよ」
これは...女王様のメイドになっているのとそんなに変わらないような気がする。
会長はこの学院の女王様だった...?
まあ、教師もルノウ会長に従っている時点で、それに似たような状況なのだろうけど。
「というか、敬語」
「あ...ごめん」
そして、敬語をやめるという話もすっかり忘れていた。
ルノウは、顔を赤らめて、恥ずかしそうに言う。
「と、友達なんだから、いいでしょ...?」
「...」
この人にとっての友達とは、一体何なのだろう。
もしかして、今まで友達が1人も出来なかったのだろうか。
だから、僕が風呂場で言ったことを本気にしているのだろうか。
『女友達では普通ですよ』を。
だとすれば、自分でまいた種だ。自分で回収し、本当の友達とは何たるかを教えなくては。
「わかった、風呂の話、受けるよ」
「そ、そう。わかったわ」
これで2人の罰の話は終わりね、と会長は椅子から立ちあがり、自室に入ろうとする。
だがまだ、わかっていないことがある。
「ね、ルノウ」
「な、何?」
僕に呼びとめられたルノウは、またもや赤い顔で振りかえる。
自分でそう呼べと言ったのに、恥ずかしいんだろうか。
「学校は、いつになったら再開されるの?」
「...そうね、もうすぐよ」
ルノウは、それだけ言うと、自室に入ってしまった。
「ふぅ、疲れた」
せめて会長室から部屋までは自分で歩いてもらおうと思っていたのだが、会長のおかげで気絶してしまったヒジリはあれからまったく起きるそぶりを見せず、僕が背負って戻るはめになったのだ。
まったく、最悪である。
「でもまあ、楽しかったからいいか」
そう、楽しかった。
これまでの学院生活も、今日のことも。
前までの、日本人の僕としての____。
「__あれ、僕の名前、なんだっけ」
この世界での僕の名前は、アイラ・トールである。
だが、世間的にはアイラで通しているし、別に名字が必要だなんて思わない。
しかし、所謂前世の記憶というものの中で、名前だけがすっぽり抜け落ちているのだ。
これは、なんなのだろうか。
「...まあ、いいか。忘れてしまうということは、そんなに大切じゃないってことだって聞いたことがあるし」
結局、自分の名前が何なのか、気にしなくなったら、さっきまで思い出せなかったことすら、忘れてしまった。
「んあ...」
「やっとお目覚め?」
時刻は既に朝日が昇る頃。
5時を回っている。
なんとなく眠れなくて、ただボーっとしていたら、ヒジリが起きたのだ。
ヒジリは、とにかくマイペースだなあ。
「...なんだ、さっきのは夢か」
「さっきのはって?」
「戦うことを禁止された夢」
ヒジリよ、残念ながらそれは夢じゃない、現実だ。
まるでVRゲームのしすぎで現実と仮想現実がごっちゃになってしまっているかのようだ。
「ヒジリ、夢じゃないよ」
「...ホントなの?」
「うん」
僕が間違いを訂正すると、ヒジリはその場で泣き出した。
「じゃあ私は、何を目的に生きていけばいいの...?」
「...それは僕にもわからないなあ」
さすがに、他人の生きがいまで僕が世話をしてあげることなんてできない。
まあ、僕が他人に出来ることなんて、お風呂の世話が限界だ。
これでも十分尽くしているような気がするのだが。
「じゃあ、メイドにでもなれば?」
「アイラはなるの?」
「いや」
「じゃあいや」
「...」
そうだった、前回女王様に誘われたときに断った理由が、ヒジリは僕がやらないからだった。
そういえば、僕達が自室待機なのって、女王様からの強引な誘いを回避するためのものなのだろうか。
...まさかね。
「まあ、ゆっくり見つけていけばいいさ。それに、もうすぐ学院の授業も再開するらしいし」
「あ、そうなの」
ヒジリは、だったらいいわ、とそれまでの悲観的なオーラを一瞬で消し去り、ベッドに身を投げた。
切り替え早いなあ。
「まあ、アイラの言うとおり、そのうち見つかるわよね。それに、見つからなかったらアイラのパーティーメンバーにしてもらうし」
「...え?」
それは初耳なのだが。
僕が驚いた顔をしていると、ヒジリはさらに追い打ちをかけてきた。
「それに、多分だけど、会長もそうする気がするんだよねえ」
「...」
僕としては、絶句するしかないのであった。
アイラのパーティーメンバーは何人まで膨れ上がるんでしょうね。
でも、お願いされたら断れないのも想像できます。
ですが、2人が加入するかどうかは、その時の僕の気分次第です。
さて、これから少し時がたつのが早くなります。




