13 お買い物 そして次の国へ
闘技場でリナが相手を殺してしまったことは、特にお咎め無しだった。
それどころか、観客は更にヒートアップ。
『あの子を出せ』コールが凄かったらしい。
あの子ってのは、言わずもがなリナの事なので、僕は含まれていない。
その事について、別に悲しくは思ったりしない。
……しない。
そして、報酬についてだが。
「こちら、報酬となります」
「あ、どうも」
出てきた道に再び戻ると、同じ男が立っていた。
その男から手渡されたのは、かなり重たい袋。
袋を覗くと、ミルが大量に入っていた。
ちなみに。
ミルも円と同じ仕組みをしているため、それぞれで価値が違ったりする。
順番は、銅、銀、金。
銅は1ミル、銀は100ミル、金は10000ミルだ。
こうなると、金貨1枚で、銅貨1万枚の価値ということになる。
さて、話を戻す。
袋の中には、銀貨が、推定50枚入っていた。
50×100で……5000?
結構貰えるな。
これ1回勝つだけでこんなに貰えるなら、僕にとっては楽に稼げるな。
だが、僕はここに住み込むつもりは無い。
色んな国に行きたい、というのもあるが、それ以外にも目的はある。
当初の目的、そう、ハーレムだ。
とはいえ、今の僕の見た目はただの女の子。
いくら中身が男だとしても、それを理解出来る人はいないだろうし、そもそも話すことも無いだろう。
「……帰るか」
「はい、ご主人様」
帰宅……と言っても、仮住まいの宿に帰ってきた僕達。
以前、僕とサリナで住んでいた狭い部屋とは違い、普通に過ごせる部屋だが、そこで、サリナとユサはベッドで寝転んでいた。
……確かに、サリナは僕が何も言わなければ、ただ寝てたりするが、ユサまで寝てるのか……なんだか珍しいな。
「ご主人様が何も言わなければ、私たちは基本その場から動きません」
そういうのはリナ。
まぁ、置いておいたご飯は食べたみたいだし、それなら1日ぐらいはだらだらしても構わないだろう。
「2人とも、起きて」
とはいえ、まだ昼過ぎ。
高校でいえば、これから5時間目だ。
この国の観光ぐらいは出来る。
それに、僕自身がしたい。まだ闘技場しか見てないし。
この国に米があったら、可及的速やかに買い占める。
お金が無くなったら?
闘技場で荒稼ぎしてやる。
「ん……」
「……あ、ごしゅじんさま……」
「うん、2人ともおは」
「ユサ、早く起きなさい」
リナは厳しいなぁ……。
もうちょっとゆるい感じが好きなんだけども……。
「リナ、もうちょっと優しくても……」
「いけません、ご主人様に仕えるものがいい加減な態度というのは、外から見られた時に舐められます。そんなのは私が耐えられません」
「あ、そう……」
もうこれ、何言っても無駄みたい。
ムダムダムダァ!と突きつけられてるみたいだ。
何言ってんだ僕。
「あ、そうだ。これから出かけようと思うんだけど、みんなはどう?」
「……いく」
「ご主人様が行くところが、私たちの行くところです」
「まだねむ」
「ユサ」
「……行かせてくださいご主人様」
リナ怖いんだけど……。
普段は元気なユサが、寝起きということもあいまってからかすっごい静かに……。
何か、買ってあげよう。
「んーと……それじゃあ、準備したら行こうか」
「時間を下さり、ありがとうございます。
ユサ、早く準備しなさい。私も手伝います」
「んー……ユサ、なんか今日は怖い?
くんくん……なんか変な匂いもするし」
変な匂いというのは、多分血生臭さかな。
派手に返り血浴びてたし。
……それに比べ、僕は任せきりだった。
宝の持ち腐れ、というのはまさしく僕のことを言うのだろう。
お着替えも完了し、いざ出店へ。
今の時期は、比較的暑いらしく、それ用の服などが売られている。
まぁ、僕の創造スキルで造られた服は、暑さ対策も寒さ対策もバッチリだけど。
というか、だった。確認したのはついさっき。
とはいえ、この世界の平均がどのくらいかはわからないが、全ての服に魔法の加護でもあるのか、なかなか優れたものも多いようだ。
薄い見た目なのに、暖かいとか、袖ないのに、風を感じない、とか。
現代だと、どう足掻いても達することの出来ない境地だが……この世界では常識なのだろうか。
店の人に聞いてみた。
「はっはっは!んなわきゃねーだろーが!」
笑い飛ばされた。
いろんな人に聞いた結果、この技術は数少ない国しか持っていないようだ。
技術、と言うには少し違うような気がするが。
「……ん? これは……」
「ご主人様、それは?」
「いや、ちょっと気になって」
いろんな店が並び、それぞれを冷やかしみたいに物色していると、気になるものを見つけた。
主に、2つ。
1つは、将棋盤だ。
日本では1度も指したことはないが、指しているのを見たことはある。
ああいった、未来を考えるのは、僕はムラがある。
出来たり、出来なかったりの差が激しいのだ。
未来視みたいなスキルがあったらどーするんですかね。ズルし放題なんですかね。
(ルールが)足らんかったァ。
……別に、どこかの閣下になったつもりはありませんよ。
そして2つ目。
これはイマイチ、よくわからない代物だ。
ネクロノミコン、と言うものだ。
簡単に言ってしまえば本なのだが、これは元の世界でのラヴクラフトっていう作者の作品群に登場するものだったはず。
これを読んだ人は例外なく狂気に陥るだとか……。
あまりその手のことには詳しくないため、これ以上は思い出せない。
とはいえ、気になるには気になる。
「……買うか」
結局、将棋盤は10ミル。ネクロノミコンは3ミルだった。
ここで忘れてはいけないのが、ミルを円に簡単に換算すると、100倍になるということ。
つまり、3ミルは300円ということになる。
ネクロノミコン……お前はガチャガチャと大差ない価値なのか……。
まぁ、なんでもいい。
中に書いてあることが、僕の知っていることのままなら、これは少なからず悪影響を及ぼす。
それなりの対応策を作らなくちゃいけない。
危険というのは、案外こういったどうでもよさげなところから出てくるからな。
「ご主人様!ご主人様!」
「?」
ネクロノミコンのことについて考えていると、ユサに服を引っ張られた。
意外と力が強くて、服が伸びた。
あぁ……また作るか。
振り向くと、ユサは1冊の本を手にしていた。
内容は、星の王子さま……。
「……これ、欲しいの?」
ユサが手にしていた本を受け取る。
パラパラとめくるが……内容そのまんまだな。
ただ、1つだけ。内容が全部英語で書かれている。
僕としては、海外に何度も行っていたから、英語は懐かしい。
ただ、何故なのか、というのが気になる。
ユサに買うということにして、少し研究したいところだ。
「ううん、この絵がキレイだなーって」
「……うん、そうだね」
違うんかい。
まぁいいや。これは自分で買おう。
5ミルでした。
なんだよ、僕の世界の言語で書かれているものは、全部安くなっちまうってか。
まぁ、星の王子さまは英語で書かれてるけど、ネクロノミコンはギリシャ語っぽいしな……。
まぁ、ギリシャ語なんてあんま知らないけどね。
「ネクロノミコンも、大学の授業でチラッとやった程度だし……」
そのチラッとも、講師の趣味から繋がったものだ。
ほんの一瞬の話だったが、案外覚えているものだ。
さて、僕の買い物はもういいだろう。
あとは、サリナに、リナ、そしてユサの買い物だ。
「それで、ユサは何か欲しいものは見つかった?」
「? 欲しいもの?」
「うん。なんでも1つ、買ってあげる」
「わあい!」
ユサは無邪気に喜ぶと、店へと駆けていった。
……眩しいなぁ。
いや、僕もまだ若い。
もしかしたら、いけるかもしれない。
「わ、わあい」
「何をなさっているんですか、ご主人様?」
「……いや、特に何も」
後ろにリナがいた。
心臓が止まるかと思った。
「あ、そうだ。リナも、何か好きな物1つ買ってあげるから、探してきてね」
「い、いえ、私はご主人様のお側にお仕えするだけで十分幸せです!」
「そ、そう言わずに」
「……ならば、これからも私をお側に置いてください」
「……あぁ、うん、わかった」
予想しているものと大分変わってしまった……。
本来の予定なら、ある程度2人の力をつけたら、奴隷身分をなんとかして自由に生活してもらうつもりだったんだけど。
まぁ、リナがそれでいいならいいか。
後でぬいぐるみでも買っておこう。
「ご主人様、これ!」
店から出てきたユサが持ってきたのは、綺麗な銀色をしたリボンだった。
……うん、それにしたのはわかったから、とりあえず店の中に戻ろうか。
「おい、待て!」
ほら、店の人も慌てて出てきちゃったし。
「ご主人様、これ!」
「どうしてこれを?」
好きなものを、と言っておいて理由を聞くのか、と思うが、気になるものはしょうがない。聞いておこう。
そう思い聞くと、ユサは、んー、と唸った。
「よくわかんない」
「よくわかんない?」
「うん。でも、これがいいって思ったの」
……なるほど、直感って奴ね。
ユサは感覚タイプだし、その方がいいかもしれない。
「わかった、ユサに似合うと思うよ」
「やったー!」
代金を支払い、ユサの胸に付けてあげる。
首にかけているわけではないので、首が締まってしまうなんて危険性は無く、また、外れる心配もない。
僕が衣装をちょいちょいっと加工したからだ。
まぁ、さすがに斬られたら落ちるけど。
「……あの、ご主人様。サリナ様は……」
「あぁ、サリナは迷子だよ」
「探しに行かなくてよろしいのですか?」
「うん、ほっとけばそのうち戻ってくるから」
「……」
これは最初の2ヶ月でわかったことだが、サリナがいなくなっても、無闇に探しに行ったりしてはいけない。
ミイラ取りがミイラになる、訳では無いが、僕も迷子になってしまう。
……いや、そういう訳だな。
とにかく、サリナがいなくなってもほっておいて問題は無い。
特に面倒事を持ち帰ってくるわけでもなく、何をしていたのか聞いても、ただ歩いていたしか言わないし。
……まぁ、嘘をついているなんて可能性もあるんだけどさ。
「それじゃ、帰ろうか」
「はい」
「がってん!」
そのがってん、どこで覚えたんだろう?
すごい気になる……。
「ねえ、ユサ、そのがってんって」
「がってん!」
「……そのがってんって、どこで」
「がってん!」
「……うん、がってん」
これはダメだ。何回聞いてもこれしか返ってこないだろう。
まあ、小さなことだ。
そのうちゆっくり聞いていこう。
さて、サリナのプレゼントだが。
「2人は、貰ったら嬉しいものとかある?」
「ご主人様のお側にいられる権利、でしょうか」
「ご主人様!」
「おぉ……」
ダメだ、参考になりそうにない。
僕には残念ながら女の子の考えはわからない。
こんなことを他の人が聞いたら、何言ってんだみたいな顔で見られるだろう。
だが、中身は男だということを忘れてはならない。
僕が考えられるのは、厨二な技を思いつくぐらいだ。
例えば?
例えば……漆黒の……なんちゃら、とか。
なんだそれ。
「ご主人様、どうかしましたか?」
「……え?」
「いえ、難しい顔をしていらしたので」
「あー……ま、気にしないで」
気を取り直して、3人でお土産を選ぶ。
サリナは普段寝てばかりだから、良く眠れるような道具がいいのか、それとも体を動かすような道具がいいのか……。
どっちも買うか?
「ご主人様、こちらはどうでしょうか」
「どれどれ」
そう言ったリナが持ってきたのは、櫛だった。
なるほど、サリナは髪が長いとも、短いとも言えない髪型だが、短くないのならば多少は必要だろう。
まぁ、ボサボサな髪は見た事がないが。
……いつも寝てるのになぁ。
僕の髪?
魔法でちょいちょいっとね。
まぁその魔法も普通にあるような魔法だから、誰でも出来るんだけど。
それでも、櫛はオシャレだと思う。
リナは女子力高いなぁ。
「いいね、これ」
「ありがとうございます」
リナの頭を撫でる。
「……」
顔を真っ赤にして俯いてしまった。
恥ずかしかったか。部屋に戻ったらいっぱい撫でよう。
「ところで、ユサは?」
「サリナ様の様子を見に行きました」
「あ、なるほど」
まぁ、部屋にいるんだろうけどさ。
というわけで、櫛を購入。
よし、帰ろうか。
あ、忘れるところだった。
「リナ、これを持って部屋まで戻ってて。僕は少しやることがある」
「はい、わかりました」
リナに先程の櫛を渡し、部屋へと戻らせる。
僕はといえば、ぬいぐるみを探し出す旅に出るのだ。
こういう時こそ、僕の能力を生かす時。
「帰ったよー」
「おかえりなさいませ」
「おかえりー!」
「……ん、おかえり」
部屋に戻ると、リナがぺこりとお辞儀をし、ユサが元気にベッドで跳ね、リナが櫛を手に取ったまま椅子に座っていた。
櫛、気に入ってくれたかな?
「……アイラ、ありがとう」
「……! うん!」
なんか、すっごい嬉しくて、年甲斐もなく喜んで……いや、まだ15歳だった。
喜んでおこう。
「そして、リナ、はい」
「? これは……」
「ぬいぐるみ。リナへのプレゼントだよ」
「あ、ありがとうございます!
私は幸せ者です……!」
リナは泣いて喜んでくれた。
……そんなに?
まぁ、僕も嬉しいけどさ。
「さて、買い物ついでにわかったことがあるんだ」
「……っ、はい」
「なになにー?」
「……?」
リナは慌てて涙をふいてこちらを見る。
……ごめんね、ハンカチ渡せばよかったね。
「この国の観光名所みたいなものなんだけど」
「かんこーめいしょ?」
「んっと、その国の、行ったら楽しい場所、かな」
楽しいは人それぞれだろうけど。
ちなみに僕は、水族館は楽しいけど、動物園は楽しくない。
何故だろう。室内と室外の違いかな。
「なるほど!」
「申し訳ありません、ご主人様。私がしっかりと教育を」
「あ、いや、そのことに関してが、次なんだ」
「?」
その前に、観光名所について。
「この国の観光名所、闘技場みたいなんだよね」
「朝ご主人様が行かれたところですね」
「うん、そう」
「楽しかった?」
「うーん……まぁ、有意義っちゃ有意義だったけど、楽しかったかどうかと言われると……」
「……」
あぁ、うん、サリナは寝てるね。いつも通りだね。
「そこで、次の国についての情報を仕入れてきました」
「次の国。なるほど、ご主人様はどこかに永住するつもりは無いんですね」
「あー……うん、まぁ今のところはね」
拠点は作るんだろうけども。
「次の国について、少し教えるね」
次の国は、サイという国。
その国は、ここからは少し、というかかなり遠いが、聞けば聞くほど、日本によく似ている国だ。
このご時世なのに、治安はすこぶる良く、また、1人の王が君臨するでなく、三権分立で成り立っている。
僕の目的は、その国にあるアズリレウス学院。
ようは、学校だ。
いくら創造スキルのおかげで、不自由はないと言っても、それは僕だけに限ればの話だ。
今は、仲間がいる。
世間体もある。
ある程度の常識は知っておかなければならない。
あと、青春したい。
「そんなわけで、次の国はサイです」
「……アイラが行くなら」
「ご主人様が行くところが、私たちの行くところです」
「です」
言わずもがな、です、はユサである。
何はともあれ、異論はないみたいだし、明日にでも出発しよう。
今回は、移動スキル無しで。
別に朝出発しようが、夜出発しようが、僕からしたらあんまり関係ないので、明日の昼までに準備を終えて、出発することにしよう。
「わかりました。お手伝いいたします」
「うん、ありがとう。サリナには、ユサを任せていいかな?」
「……ん」
「任された!」
うん、ユサのリードを保つ役は任されたね、サリナに。
まぁ、それはともかく。
次の目的地は決まった。
それまでの道のりで、少しやりたいこともある。
忙しくなりそうだ。
「ご主人様、サイにはどのくらいで到着するのでしょうか」
「……馬で……1ヶ月かな……」
案外のんびりした旅路になるかもしれない。
ようやく、この世界の常識について主人公は学べそうです
というか、勉強する気あったんですね




