第七話
初めてミミがFOR SEASONSを訪れたのは、お店がオープンして確か一週間ほど経ったころだったと思います。あのころはまだ花町にあるカフェにはどこにも足を運んでおらず、散歩を終えてなんとなしに町内をフラフラしていたところ、偶々路地裏にミミはその看板を発見したのです。木の形をそのまま活かした一枚板にFOR SEASONSと彫られた黒い文字を。それは遠目に見るとまるで象形的な入れ墨のようにも見えましたが、だんだんと近づいていくとそれは確かな意味が込められた文字へと姿を変え、同時にミミの脳内でその英単語は日本語に置き換えられると、 なぜだか微かな違和感をおぼえたのです。いくら長く日本にいるとはいえ、自分の英語能力が極端に衰えるわけはないし、だからといって置き換えられた日本語が間違っているとも思えない。では、一体この違和感はなんなのだろうと。お店から少し距離を置いたところで、ミミはしばらく看板を見上げ、その違和感について考えてみました。隠居の身であるミミにはそういう時間が一日のうちにいたるところにあるので、 焦る必要は特にありませんでした。
時間にして一分ほどでしょうか。ふとミミの頭の中で点と点が繋がったように、その違和感の正体が理解できたのです。「FOUR」ではなく「FOR」であることがその正体であり、そして「FOUR」に置き換えたとき日本語に訳すとそれは四季となり、それは即ちミミの中で春夏 冬と繋がったわけです。そうわかった途端、ミミの足は躊躇なくそのお店に向かっていきました。これを縁といわずして何というのだと、 一人意気込んで。
あの日からミミは定休日の水曜日以外は毎日お店に通い、そのことを柳瀬くんと話すタイミングを窺っていました。さきほどお話した通り、一度だけタイミングを踏み違えそうになったこともありましたが、あれ以降はより慎重に、尚且つ関係性を築きながらそのときが訪れるのをミミは待ち続け、そしてついにその日はやってきました。




