表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
47/49

47


 非番のその日、ラファエル(ラフ)・サンデルスはアビレーでの一族の住まいである、富裕層街区トリックディストリクトでも指折りの高級集合住宅(テラスハウス)に祖父を訪ねていた。

 ベアタの妹エンマの件で彼なりに手を尽くしてみたものの、結局、サンデルスは祖父の政治力を頼るしかなかったのだ。――あの日以来ベアタはオフィスにも姿を見せず、会えないでいる。


 玄関の重たい樫の扉が開くと、面識のない執事に迎えられ、少し気まずく感じることとなった。ここを出てからもう4年が経つ。祖父・父の2代に仕えてくれた先代――よく可愛がってくれた…――は、もう引退したのだろう。仕方がない。

 ラフの来訪は予め伝えられていて、新しい執事は完璧な対応でラフを迎え入れてくれた。

 玄関(エントランス)を兼ねた吹き抜けの階段ホールの右手脇から、居間(パーラー)へと案内される。


 掃除の行き届いた邸内は、少しも変っていなかった。

 19世紀欧州のタウンハウスを模した古いスタイルの、両隣と外装を持たない構造壁で接続され1棟に連なる〝連続建て住居(ロウハウス)〟は、ラフの生家であり、大学を卒業するまで…――地球へ留学した1年間を除き――()()で育った。

 ミューズハウス(離れ小屋)の壁の裏に在る〝秘密の抜け道〟――自分が生まれる前の改築で造り出され、その後に忘れ去られた…――も知っている。恐らく、これの存在を知っているのは自分と姉のルイ-ズ(ルゥ)だけだ。


「ラファエル――」

 座卓の上に置かれた小さな花瓶――それは子供時分に、彼が床に落として欠けさせてしまったものだ…――に手を伸ばしたりしてひとり待っていると、祖父ではなく祖母クリステル・マルチェが、満面に親愛の笑みを湛えて現れた。

「ようやく帰ってきた。さぁ、よく顔を見せてちょうだい」

 両腕を伸ばすようにして近付いてきた祖母に、ラフは花瓶を元の位置に戻し、苦笑の浮いた顔を向けた。


「大袈裟だな、おばあちゃん。同じアビレーに生きていますよ」

「だってあなた、この4年間、1度も顔を見せにこなかったでしょ。〝あなたの父さま(アルベール)〟も似たようなものだけれど、あなたは唯の一度()、よ……。ずいぶんと悪い子になりましたね」

 そう言って、祖母は聞き分けのない子供を諭すように小首を傾げて見せる。

「ごめんなさい。ほんとに忙しかったんです」

 (ラフ)の方はとりあえず畏まってみせつつも、笑みを浮かべて弁明を試みた。「……特別捜査官なんですよ、これでも」

 だがそれは祖母の持論を誘っただけだった。

「それです。あなたには〝犯罪者と向き合う仕事〟は向きません。そんなお仕事、今すぐ辞めるべきです…――」

 ――これを〝藪蛇〟という……。


 4年前、大学卒業を前に「公安調査部(PSI)捜査官になろうと思う」と打ち明けたとき、さんざん話し合ったことが()()返されそうな気配に、ラフは、慌てて今日の来訪の趣旨に戻るよう、話題を転じた。

「……あの、それでおじいちゃんは?」


 ありがたいことに祖母は、極まり悪そうな孫の表情に小さく溜息は吐いたものの、それ以上我を通すというようなことはしなかった。

「おじいさまは客間に居ます。でもこの後すぐに来客があるから、あなたはその後」

 客間は〝ハウスの共有庭園コミューナル・ガーデン〟の見える2階にある。現在(いま)はもう政界から身を引いているが、相変わらず来客が絶えぬ身らしい。

「……待ちます」

 ラフは肯いて応じてた。


 と、そのとき来客の気配があって、階段ホールの方に視線をやると、先の執事に2階へと案内される客人の姿を見た。

 おや、と、ラフの眉根が寄った。

 ブルーグレーのスーツを着こなす、小麦色の肌の美貌の女性(おんな)の横顔には見覚えがある。


「――お知り合いかしら?」

 孫の表情の変化にそっとそう訊いた祖母に、ラフは曖昧に応える。

「ええ。……職場で何度か」


 吹き抜け空間に伸びる階段を、執事に付いて上がって行くのは、ジーン・ラッピンだった。……いや、今日、前アイブリー準州代表トマ・サンデルスを訪ねてきたのは、シャノン・モーズリーだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ