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 その夕刻――。

 事件現場を検証チームに引き継ぐと、いったんは仮の支部オフィスに戻ったジェンマ・バンデーラ監督特別捜査官(SSA)は、ひとりアビレー医療センターへと車を回した。『シティプラザビル爆破事件』で重傷を負い入院しているアズレト・シーロフ支部長を見舞うためだった。



「なるほど…――」

 個室の病室のベッドの上で首から上をコルセットで固定されたシーロフが、顔を向けることが出来ずに目だけを向けて擦れ擦れの声で言う。

「いよいよ若い頃の君に似てきたな。どうだ、肝が冷えたろう」 その目は可笑しそうに笑っていた。ベアタ・ヌヴォラーリの件だ。

 バンデーラは、そんな上司の痛々しい姿に同情したのかしなかったのか、肩をすくめて返すのだった。

「それには同意できませんね。当時の私には、あんな度胸はなかったですよ」

「さて……、どうだったかな」

 シーロフは(むせ)込むように応えた。どうやら笑ったようだ。


 その姿を見て、バンデーラは本題…――〝トアイトン行きの人選の交代〟について切り出すのを止めた。


 明日、トアイトンで〈全州安全保障会議〉が召集される。爆弾テロの続発するアビレーの対処が主旨で、渦中のアビレー支部から状況の説明のためにPSI捜査官が拡大関係者(オブザーバー)として出席を求められ、バンデーラがセシリアとともに出向くことになっていた。

 そういう場の席に着くのは遠慮したいと常々願う彼女は、この役柄を突き返そうと訪ねて来たのだった。

 『シティプラザビル爆破事件』では支局長のアンテロ・ラウッカを始め、幹部職員の多くに殉職者が出た。シーロフは生き残った幹部の中で最上位にあり、本来なら彼が会議の席に着くべきだったが、身体が自由に動かないのであれば致し方のないことだった。

 シーロフは直接の上司であり、生き残った幹部を見渡せば、監督特別捜査官(SSA)の肩書を持つ者は彼女とセシリアを含めて3名で、バンデーラが〝最先任〟なのであった。だからシーロフに代わって残った捜査官を束ねてもいる。部下の手前、さすがに逃げ回ることはできない。


 結局、仮の支部オフィスの状況を報告し、一連のテロ事件の捜査状況を伝えただけで病室を辞することになった。


「ジェンマ――」

 ベッド脇のスツールから立ち上がるタイミングを見計らうバンデーラに、シーロフが先に口を開いた。

「君には〝求められる地位と立場〟に十分に見合う能力がある。これも給料分の仕事のうちだと諦め、腹を括ってくれ」


 バンデーラは上司の顔を覗き込んだ。どうやらなぜここに来たのか、先刻承知だったらしい。


「これが給料分ですかね?」


 バンデーラは精一杯の皮肉をユーモアに包んで言い返す。実際、中部都市圏は立て続けのテロ事件に混乱の極みと言ってよく、捜査官の半減した支部の手に余るのは明らかなように思えた。十分な()()()組織力を発揮できないとなれば、せめて関係部局間の協同効率の最適化に注力せねばならないわけだが、生憎そちらは苦手分野だ。


 そんなバンデーラの心中を見透かすように、シーロフはニヤリと笑って返した。


「足りない分は〝スペシャリスト〟としての矜持で埋め合わせだ。昔からそうだったろ?」


 バンデーラは口の端をくいと吊り上げて頷いて返した。〝(ケツ)を叩かれた〟のだ。

 そうして〝腹を括った〟バンデーラは、元の〝対番(先輩相方)〟に退室の挨拶をすると病室を後にした。





 翌日、トアイトンに在る準州代表府官邸に入ったバンデーラとセシリアは、官邸の廊下で軍人と行き会いとなった。

 バンデーラに面識はなかったが、先方はセシリアに気付くと近づいてきて『シティプラザビル爆破事件』の件で哀悼の意を示してきた。デュフィ上級大佐だった。


 そうして会議室に入ったのだったが、いきなり肩透かしを食らうこととなる。


 この日の〈全州安全保障会議〉は、冒頭の1時間ほどを準州代表が出席しないという異例の展開を見せた。「地球連邦統監府が急に差遣してきた使者への対応を優先せざるを得なかった」との説明を受けたのだが、お陰でこの(くに)の安全保障体制の一端を垣間見ることができたのだった。

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