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『連絡船ペンキ爆弾事件』から始まった一連の連続テロ事件は、『アビレーシティプラザビル爆破事件』の後も猛威を振るうこととなる。
4日後の夕刻、トニー賞作家マコト・カイの新作のフェルタ初演で賑わう劇場が爆破された。アビレー社交界を代表する人々――皮肉にもフライ市長の呼びかけに応じ、敢えてこの不穏な時宜にアビレーの繁華街に集った人々――が犠牲となる。死傷者のリストはまるでアビレーの著名文化人名簿と言ってもいい様相を呈し、グレッグ・フライ市長その人もリストに載ることとなった。
ラフ・サンデルスの姉も劇場に居合わせていた。幸い、彼女は最初の幕間でホールを後にしていて惨禍を避けていたのだったが、彼女を送り出した母はすっかり動顛し、PSIに勤める弟に連絡をした。事件発生の一報で現場に駆け付けた弟は、唯々姉の安否を気遣うばかりの母の声を受話器越しに聞いてから現場に降り立ち、直後に姉自身からの着信で無事を知るのだったが、姉の安否が確かめられるまでの間中、その顔を青ざめさせることとなったのである。
『ピカデリー劇場爆破事件』では61名が死亡し、355名の重軽傷者が出たが、その2日後には更なる恐怖が市民を襲う。富裕層の街区〈トリックディストリクト〉にある名門私立小学校に男が押し入り、13人の児童を人質に教室に立て籠ったのだ。やはり犯人は爆弾を持ち込んでいた――。
その危険極まりない男は対テロ対策群によって排除、射殺されることとなる。撃ったのはベアタだった。
市警のSWATとともにビデオスコープで室内の様子を窺っていたEチームの面々は、警察無線を傍受した報道ヘリが学校敷地の上空に集まり始めたとき、脳裏を過る〝最悪の結果〟を互いの瞳の奥に見ることとなった。
トゥイガーが〝航空局にすぐさまヘリを退かすよう〟指示する傍らで、ラッピンもまた自らの〝繋がり〟を使うべく携帯を開いた。
その時、スコープ先端の小型撮像素子は、教室内の、恐怖に震え声を殺して泣いている女児の姿を……そしてその先の窓際の犯人の顔が室内の児童たちへと向く様を映していた。
ベアタは、現場に築かれた即席の阻塞を超えて駆けだしていた。周囲は制止したようだったが、その声は聞こえなかった。
両開きの開き扉に肩口から身体ごと体当たりし、押し開けた扉の先の床の上でくるり回転して身を起こす。床に座らされていた児童の向こうに居た犯人に向け、9ミリ拳銃弾を正面から4発、胸と肩と腹とに叩き込んだ。犯人は、手の中の起爆装置を操作することもできず、サンデルスとバンデーラが遅れて教室内に飛び込んだときには、頽れたまま〝動かぬ存在〟となっていた。
そうして事が終わると、ベアタは先ずラッピンに〝組織のあり様〟を説かれ、次いで検証チームへ現場の引き渡しを済ませた上司からも〝問題のある行動〟について猛省を促された。……それはもう厳しく。
誰に言われるまでもなく、自身の〝暴走〟――控えめに言ってその表現が妥当だろう…――を自覚していたベアタが、消沈した表情で自分の机のあるパーティションに戻ってくると、ラフ・サンデルスが高級ブランドのアイスのカップを手に現れた。
「――…お疲れ」
言って、ヘーゼルナッツ&ミルクのカップを差し出す。ベアタの好きなフレーバーだ。
ベアタは素直にそれに手を伸ばした。
「……怒られました。独断専行だって」
「あたりまえだ――」
サンデルスは肩をすくめると、硬い声にならないよう気を使っている感じに応じた。
声音は気を使ったものだったが、やはり微かに怒気を感じた。
それは仕方がない。
一歩間違えれば、13人の児童らを巻き込んで大惨事を引き起こしていたかもしれない行いだった。今回は班長の計らいで訓告で済んだが、本来は停職になっていてもおかしくない。
いまは只、人質となっていた児童に死傷者が出なかったことに感謝するばかりだった。
「――…次に〝動く〟ときには、対番にはサインをくれ」
サンデルスはそれだけ言うと、今日はこれまでとばかりに離れていったのだった。




