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 アイブリー(じゅう)のインテリ層を敵に回しかねないと、すっかり腰の引けてしまった支局長に、バンデーラはそれ以上の説得を諦めた。


 実はサンデルスの政治力を使おうかと迷いはした。が、その彼に、そのようなコネの使い方をやんわりと拒まれている。この若い同僚は、政治力の使い方について、確かによく心得ていた。


 それでバンデーラは支局長を口説くことは諦めたものの、この決断の前後に彼のオフィスをジーン・ラッピンが頻繁に訪れていたことについては見逃しはしなかった。

 ラッピンを自分のオフィスに呼び付けるとドアを閉めさせ、1対1で対峙したのだ。

 2つ目の事件から、丸一日が過ぎようとしていた頃だった。


「支局長の判断は妥当よ。完全に正しいわ」


 バンデーラに機先を制されるのを嫌ってか、ラッピンの方が先に口を開いた。これはいつものことだ。


「あらそう。完全に?」


 バンデーラはラッピンの言い分に()()()()肯いてみせた。

 ラッピンも肯いてバンデーラを見返した。


「ええそう、完全に」

 ラッピンは仁王立ちに腕を組んで応じた。「――マルレーヌ・デュギーは難敵よ。ここでゴリ押しすれば、必ず話が(こじ)れる」


 この一昼夜で通じかけた二人の気脈が、いまはもう険悪なものへと戻りつつあった。


「そこは問題じゃない。そうでしょ?」 バンデーラは〝姉の表情〟になって捲し立てる。「あなたはオロフ・ヘルムドソンを守ろうとしている。違うかしら? いいえ、違わない。奴はあなたの情報屋よ。あなたのために組織内部の情報を流してる」


 感情の(こう)じるまま、といったふうのバンデーラに、一瞬、ラッピンも素の表情になって応じかけ、止めた。どうやら〝(から)め手〟――マルレーヌ・デュギーの名をチラつかせ、ラウッカ支局長に圧力をかけたこと――を使われたのが気に入らなかったらしい。そう判断したラッピンは、ここは〝一歩を引く〟対応へと改めた。


「サローノ人――とりわけ西部ファテュ辺り出身…――の学識者(インテリ)という立場は、彼らを職業的にも有利にしているのよ」


 声音を整えてラッピンがそう言うのを聞くと、バンデーラも声音を下げた。


「あなたの情報屋と認めるのね?」


 それでどうやら矛を収めてくれるらしいと判断し、ラッピンは肩をすくめてバンデーラを見遣る。


「私だけじゃない。アイブリー、キード、地球(連邦政府)、……誰とでも通じてる。〝この世界(諜報)〟の人間は皆そう」

「……というと、あなたのような美人は、皆と寝まくっていると、そういうわけね」

 バンデーラは〝意趣返し〟の言葉を投げつけてきた。サバサバとした見た目と裏腹に、なかなかに執念深いらしい。


「〝仕事の上〟でね」

 ラッピンは艶然とした笑みを浮かべて応じたのだったが、もうそのときには〝仇を討ち終えた〟バンデーラはラッピンから視線を外していて、自分の〝考えの整理〟に沈み込むようにしていた。


「ヘルムドソンはファテュに繋がっているのね」

 既に判明していることを確認するように呟き、その流れのままにラッピンに質す。

「|あの連中《〝ファテュのインテリ〟》とあなたとの間には、いったいどんな関係がある?」


「それは〝言えない〟。でも――」 ラッピンは慎重に応じた。「オッレ(オロフ)はこれまで何度か重要な仕事で役立ってくれた。……私としか接触しない。〝顔の広い〟貴重な情報源よ」


 それから、頭の中に浮いている幾つもの可能性を〝手札(カード)〟に仕立てている表情のバンデーラに、ラッピンは機先を制するように言った。

「――…オッレを〝泳がせる〟のを承知してくれるかしら?」


 バンデーラはラッピンと視線を絡めると、半瞬ほどで決断した。


「条件が一つ。あなたに監視を付ける」

「いいわ…――」


 ラッピンもここでは〝くどくど〟とした問答はしなかった。そしてバンデーラに自分の希望を伝えたのだった。


「…――ならあの子、ベアタ・ヌヴォラーリが適任ね。サローノ生まれのインテリなところがいい」


 バンデーラはデスクの上の受話器を取ると内線でベアタを呼び出し、ラッピンに部屋を出ていくよう手振りで伝えた。

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