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アビレーの中心街から少し離れた、一見して何の変哲もない住宅街区の中に、その家はあった。
バンデーラはサングラスとウインドシールド越しに、下階がベースメントになっている2階建ての住宅を見て、外からドアを開けて助手席に滑り込んできたマニャーニに質した。
「あれが彼女の家?」
シートに落ち着いたマニャーニは、頷いて応じると、状況を説明し出した。
「外の車に2人、家の中には少なくとも3人。それに…――」
家の前の道を大型犬種のリードを引いて横切って行った〝マッチョな男〟を目で追いながら続ける。
「――あの犬を連れた男、1時間前から周囲を回り続けてます」
「じゃあ、こちらの動きは察知されてるわね……」
「……でしょうね」
バンデーラの懸念にマニャーニは慎重に肯いて返した。
が、それで決断が見送られるということはなかった。
「いいわ、やりましょう」
腹を括ると、バンデーラは無線で各配置に確認を飛ばしていく。
「1組、準備はいい?」 ――1組はトゥイガーの率いる3人。『……1組、準備よし』
「2組?」 ――2組はフランセンが率いている。『……よし』
「3組は?」 ――サンデルスとベアタ、そしてパウラ。『……3組、よし』
マニャーニの監視組とバンデーラの直率する組を含め、全部で5組――合計13名が、〝突入〟の合図待ちとなった。
「よし。かかれ――」
バンデーラの号令一下、待機していた各組の車両は急発進して住宅を囲んだ。
チームは一匹の獣となって、正確に迅速に、適切な行動をしてみせた。
2組が犬を牽く〝マッチョな男〟のすぐ脇に車を付け、ドアを開けしな、銃を突きつけて叫ぶ。「PSIだ! 両手を上げろ!」 抵抗はなかった。
1組と3組の各車は、玄関正面の車道に置かれていた車を挟み込むように停車、素早く車外に出たサンデルスが暴動鎮圧銃を向けて動きを封じる。「――手は頭の後ろ! 手を頭の後ろに組め!」
1組の車から暴動鎮圧銃を手にしたトゥイガーと打撃衝角を抱えたもう一人が、玄関への階段を駆け上がっていく。
暴動鎮圧銃を車窓に向けたサンデルスが、ベアタにチラと視線を遣り、トゥイガーらの方へ顎をしゃくって〝支援〟に行けと合図する。ベアタは階段へと駆けた。
打撃衝角が玄関ドアに叩きつけられる。住宅用のちゃちな錠前は基部ごと吹き飛び、ドアは内開きに大きく弾け飛んだ。
トゥイガーが暴動鎮圧銃を胸元に引き上げつつドアへと滑り込んでいき、ベアタとパウラがそのすぐ後ろに続く。
生活感の感じられないリビングのソファには、青いドレスシャツの脇の下にホルスターを吊るした男が2人いた。
「やあ、諸君――」 トゥイガーが二人に銃口を向けてニヤリと笑う。「おたくらもよくやるよな?」
2人は、ドアが蹴破られた瞬間には、もう両の手のひらを正面に向けて動きを止めていた。
ベアタとパウラが、2人から銃を取り上げる。
混乱なくリビングの無力化がなされたので、バンデーラはベースメントへと下る階段があると思しきドアを開け、一人で降りていった。この期に及んで抵抗……ましてや発砲沙汰はないと踏んでいるのだろう。
パウラに顎をしゃくられ、パウラは奪った銃を〝元の持ち主〟から遠い位置の床に置いて後を追った。
雑多に物の置かれた下階は、明かり採りの窓こそあるものの、控えめに言って物置のような状態だった。
奥に明かりが灯っていて、バンデーラは真っ直ぐそちらへと向かっている。
「そこで止まれ」
声がして人影が動いたので、ベアタは銃を構えるべく、バンデーラの脇から前へと出た。
銃口の先にはダイニングセットの置かれた空間があって人影が3人ある。
1人は男で、テーブルの脇に立ち、構えた銃口をゆっくりと下ろし始めている。
テーブルには2人。一人はルカ・レーリオで、その斜向かいに座る暗い肌色の美女は、ジーン・ラッピンだった。




