9皿目 呪術師の集落と日記
「本当に人気がない。あるのはボロボロの家と墓だけ…」
「主様、ここには呪術に関するアイテムが多く置かれています。触れたりしたら何が起こるか分かりませんのでご注意を」
精霊なだけあって集落のあちこちに置かれた宝石や人形などから何かを感じたイースが忠告する。
イエローは言われたとおりにアイテムに触れないよう注意しながら探索する。集落で一番大きい木々で組み立てられた家に入る際も棒きれや石を使い入り口の布を動かし、テントの中から毒弓が飛んでイースの頭の上を通りすぎた。
「ひぃ!? あ、主様ぁ!! やっぱりここ危険ですぅ!! 早く逃げましょう!!」
「厳重すぎる…となるとよほどヤバイ呪術でも使おうとしてたのかな?」
「あぁ、主様聞いてないのですね..あれ、この本…主様。集落の長が書いたと思われる日記がありました。」
イースが古く分厚い本を見せた。本の傍には紫色をした石があり石に触れないように本の数ページめくり重要そうな箇所を読み上げる。
「…13年前、海にて赤子を拾う。どうやら、呪術中に起きてしまった嵐に近くを通った船が巻き込まれたようだった。我々の中にもう子供はいない。この子を我らの跡継ぎとして育てることが話し合いで決まった…」
「主様…13年前の、その赤子ってもしかして…」
「ムラサキの事だね…。多分、ムラサキが言っていたバァバって人がここの長でこの日記を書いた人ね…」
始まりの方から徐々にページをめくる。
「呪術を教えていく中で紫色の髪をした子供の名前をムラサキにしたって書いてるから…しかも、ムラサキには呪術を扱える素質はないから、大人達から嫌われていたとか書いてるし…」
イースの表情が歪んだ。イエローも胸糞悪い感じに顔を歪めながらも日記を読む。
「我ら民は「呪術」を受け継がなければならない。先祖がこの島に住み着き十数年の間に蓄えた術と知識。我ら民が滅びればこれまで命を落とした同胞や生贄たちに申し訳がない…」
さらにぺージを開く。新しい呪術の開発過程やその結果。時折、島に流れついた者を生贄として、呪術開発に執着した様子が書かれていた。
やがてページが最後に近づくにつれ、島の人口が10人にも満たなくなり呪術を受け継ぐ才能や器がないムラサキに術を受け継ぐ方法を摸索する記録が書かれていた。
例えそれが、ムラサキを殺すことになってもだ。
「狂ってます…これが、人間ですか…」
「イース…確かに、人間は自分の欲を抑えきれずこんな馬鹿なことをするけど…全員がそうじゃないってことは…」
「い、いえ!! そんな、主様は違います!! っ!? 」
背後に人気を感じ振り向くとムラサキが殺気立ちナイフを構えていた。
「おまえら、勝手にアタシとバァバの家に入った!! ゆるさない!!」
「ムラサキ…ごめんんさい、勝手に入ったりして…」
日記を静かに戻し謝るイエロー。ムラサキはひたすら「出ていけ」「さもないと、殺すぞ!!」と怒る。今にもナイフで襲いかかりそうなムラサキに向けイースが一歩前に出た。
「あの…あなた、これからどうするのですか?」
イースがつらそうな顔でムラサキに聞く。孤独を知るイースはムラサキを心配して見つめた。何百年も暗いランプの中で孤独にいたイース。それに対して、呪術を受け継ぐ才能がなく島の人間に嫌われていたムラサキとでは孤独の深さは異なる。
「うるさぃ!! アタシにはバァバが残してくれた石がある!! あの石があれば、アタシ一人でもあの屍どもを倒すことができるんだぁ!!」
ムラサキは目に涙を浮かべながら家から飛び出した。