96.踏破者、広範囲殲滅魔法を発動する。
心地の良い朝日で目を覚ます。
ゆっくりと体を起こし、隣を見る。
そこにはシファが静かな寝息を立てて寝ていた。
最初こそ混乱したが、こう頻繁に侵入されると慣れてくるもんだな。
洗面台へ向かい、顔を洗う。
今日は魔境へ攻撃を仕掛ける当日だ。
ギルドへは人的被害が出ないように依頼もしたし、ティアの王族専属騎士が仕掛けるという話も広がっているだろう。
後は実行するだけだな。
「目覚めたんなら私も起こしてよ。」
歯を磨いていると後ろからシファの声がした。
振り返るとあられもない姿のシファが寝ぼけ眼をこすりながら立っていた。
「まだ起きなけりゃならん時間でもないだろ。あと、ちゃんと服直しとけよ。」
シファはそこで初めて自分の姿に気付いたようだ。
顔を赤くして寝室へ戻っていった。
そう言う仕草は本当に可愛いんだよな。
向こうがウェルカムなのになんで俺は手を出していないんだろう…。
なんか改めて考えると不思議だ。
いや。本当のところは分かってるんだよな。
それは俺の気持ちがどうなのかってことに向き合っていないからだ。
と、それは今は置いておかないと。
今日は一仕事あるからな。
シファと朝食を取った後に町を出る。
ある程度離れた所でバハムートを召喚する。
『主よ、いよいよか?』
「ああ、これから仕掛ける。魔境まで連れて行ってくれるか?」
『無論だ。しかし、シファ嬢の体調がすぐれぬようだが?』
俺が振り返ると、確かにシファが若干表情を曇らせていた。
だが、体調が悪いというよりかは、不安そうな感じだ。
朝は定常運転だったのに?
「いや、いざ行くとなると急に不安が出て来て…。ジークのやる事だから予定通りなんてないんだろうなと思うとちょっとね。」
「信頼ねぇなあ。」
「今までのことから信頼できる要素がないわよ。」
だが、今更作戦行動自体を翻す気はないようで特に文句を言わずにバハムートの背には乗ってくれる。
「バハムート、行ってくれ。」
『御意に。』
バハムートは翼をはためかせると空に飛び立つ。
そしてそのまま高速で飛行を開始する。
「シファ、一応【探索】はしといてくれ。人が近くに居ない事だけは確認しておきたい。」
「もうやってるわ。今のところ人は引っ掛からないわ。」
そして魔境上空に到着する。
結局その間、【探索】に人が引っ掛かることはなかった。
ギルド側が上手く周知してくれたのだろう。
眼下には広大な森が広がり、森の中にある拠点には米粒のような魔族の姿も見える。
あわただしく動いているところを見るに上空にドラゴンが現れたことにはもう気付いているようだ。
「よし、さくっと終わらせよう。」
「うぅ、全くさくっと終わる気がしないわ。」
「失礼な。行くぞ。」
俺は魔法発動の為の魔力を練りこむ。
それはパズズやバハムートを呼び出した召喚につぎ込んだ量の比ではない。
そして練りこんだ魔力を上空にかざした手から放つ。
「【厄災招来】」
魔力検知が得意な奴がいれば、凄まじい魔力波が空へと消えていったのが分かるだろう。
後は、それが来るのを待つだけだ。
「聞いたことはないんだけど、本当に隕石を人工的に誘発することが出来るの?」
今回俺が提案した方法は隕石を使った魔境の破壊だ。
俺もこの魔法が使えることは分かっていたが、これまで使用する機会がなかった。
使用できるようになった順から重力魔法の最高峰と思われるが、なにせ制約が多いことが容易に理解できる。
まず屋外でないと使えない。
隕石を呼び寄せるだけの魔法なので、細かい狙いが出来るかも不明。
魔法発動から実際に隕石が落ちるまでタイムラグがある。
そして今、魔法発動から状況を観察するにその予想していた制約は概ね予想通りだと思う。
まだ何も起こっていない。
ん?
「来たな。あれか?」
俺の視線の先、俺たちのはるか上空に黒い点が現れる。
「うわ、本当に呼べちゃうんだ…。ってあれ?」
シファが何かに気付いたようだ。
いや、俺も実は気付いている。
段々と大きくなる黒い点を眺めながら…。
「ねぇ、ジーク。あれって…。」
「言うな。分かっている。」
そういえばもう一つ制約があると考えていたのを忘れていた。
それは呼び寄せる隕石の大きさを選べないという点だ。
俺はだんだんとその全容を確認できるようになった隕石を見やる。
直径は1kmくらいだろうか。
「なぁ、あれが落ちたらどうなるかって予想できるか?」
「…そうね…。私の知識だと、魔境は跡形もなく消し飛んでクレーターが残るだけになるわね。そして隕石落下の余波であなたの生まれた街もスリアドも壊滅するでしょうね。ライラックにも被害が出ると思うわ。」
「う~ん。…ヤバいな。」
【厄災招来】は制約が多い反面、他の魔法にはないメリットもある。
その一つがあくまで隕石を呼び寄せるという魔法であるという点だ。
つまり、落ちてくる隕石自体は魔法ではないという事。
魔法防御の障壁や魔法解除などの影響を受けない物理攻撃なのだ。
多大な質量を伴う攻撃は防ぐのが極端に難しい。
今はそのメリットが悪い方に出ているが…。
「さて、どうしたもんかね…。」
俺は腕組みをして考える。
隕石は赤く燃えながら確実に迫ってきていた。
天災を引き起こす魔法ってのもロマンですよね。
しかし1km四方の隕石って実際どんな大きさだろう…想像できないのに書いちゃっているのでごめんなさい。
隕石の大きさは落下した時の被害の大きさを調べて書いているのでこのサイズになりました。
そのあたりは皆さんの想像力でカバーしていただけると幸いです。
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