93.踏破者、ギルドに頼みごとをする。
「全く、君には驚かされてばかりだな…。」
アセットはため息交じりに俺をジト目で睨んでくる。
そう言うのは可愛い女の子にされたいものであって、いい年したおっさんにされても…。
アセットには簡単に事情を説明した。
訓練場でバハムートを召喚した時には腰を抜かしていたが、今はすべて俺のせいだと分かってどこか安心したように見える。
「ここで登録したハンターが王族専属騎士にまでなっているとはな。俺も鼻が高いよ。」
そういってアセットは笑う。
が、その笑いは少し無理をしているように見える。
「ま、名義貸し状態だがな。今回の件も金は貰ってるし。…そんなに状況は悪いのか?」
「…芳しくないのは事実だな。魔族の動きも当初は本当に偵察だけだったんだが、最近は町を出た商人やハンターが襲われることが増えている。こちらから討伐隊を組んでも魔境へ逃げられると追撃も出来ない。」
なるほど、少し状況が変わっているようだ。
攻撃行動まで取ってきているというのは情報にはなかったな。
「それで、何かこの状況を打破する方法があるのかい?」
「ああ、ティアとの約束で3日後に魔境に対して攻撃に出る。」
「やはり拠点を叩かない事には状況は変わらなんよな…。よし、ギルドの方でも出来るだけ人を集めよう。」
「いや、ギルドには人払いをお願いしたい。巻き添えにならないようにな。」
「…は?」
「3日後、魔境ごと消滅させる。」
「はああ!? そ、そんなことができるのか!?いや、あの赤黒い光線、【終焉の息吹】があれば不可能じゃないのか…??」
「いや、あれとは違う方法だな。俺オリジナルの広範囲殲滅魔法があるんだ。それを使う。」
「こ、広範囲殲滅魔法…?」
あれ?
さっきまで希望が出てきた!!みたいな喜色の出ていた顔に不安の色が混じったぞ?
「…ジーク、それ私も知らない。どんな魔法?」
隣を見るとシファまで不安、どころか恐怖まで混じった顔でこちらを見ている。
「なんでお前まで不安になってんだよ。」
「ジークは加減がないのよ…。何をするかが分からないっていう状況が一番怖いわ。」
「なんだそりゃ。まぁいいや。で、人払いは出来るか?俺としては巻き添えで人が死んでも責任はとれん。」
おれはアセットに向き合って言う。
「わかった。周囲のギルドにも魔境へ近づかないように周知しよう。どれだけ効果があるかは分からないが…。」
「助かる。」
これで用件は済んだな。
俺はソファから立ち上がり、部屋を後にしようとする。
その背に声を掛けられた。
「それで、ジーク君、広範囲殲滅魔法がどんなものか教えてはもらえないのかい?」
そう言えばシファに聞かれたが答えてなかったな。
人払いの関係もあるし概要は使えておくべきか。
俺は広範囲殲滅魔法がどのようなものか説明することにした。
◇◇◇◇◇
「それで、今日は何するの?」
「ん?そうだな…。」
ギルドを出た俺たちはスリアドの宿で一泊していた。
今は朝食中である。
「なんだかんだここに来るのにもっと時間かかると思ってたんだよな。足の確保が思ったよりスムーズにいったからな。」
そう言って俺は考える。
ギルドに人払いを依頼できたため代官に取り次ぐ必要もなくなったし、別段やっておいた方が良いこともないだろう。
問題はちゃんと人払いが出来るかだが、昨日魔法の概要を説明した後のアセットの青ざめた顔を見れば真剣にやってくれるだろう。
「よし、ちょっと町を離れた場所で鍛錬でもするか。」
「脳筋な答えね。」
普通にディスられた。
いや、別に時間が空いたら鍛錬だヒャッハーみたいな話ではない。
「鍛錬以外に目的があるんだよ。昨日の話だと街を離れた商人やハンターが襲われることが増えてるって話だろ?まぁ魔族に接触してみようってことだ。」
「魔族に?」
「ああ、向こうの目的や事情も知らないからな。話し合いの余地もないほど敵対的であればそれはそれで殲滅するからいいんだが、向こうも已むに已まれぬ事情があって仕方なくの行動かもしれんだろ?」
「…もしそうだったらどうするの?」
「撤退を勧告する。魔境はなくなるが人的被害は抑えられるだろう。」
「それは…。」
「まぁ俺も基本は敵対的だと思ってるよ。わざわざ拠点まで作って攻め入ってくるくらいだからな。だから最初は話してみる気もなかったし普通に全部潰すつもりだったよ。だからまぁ、今回は時間が出来たからっていう気まぐれだな。」
「…戦ってみたいのね?」
「ハハハ。ナニヲイッテイルノカナ。」
食事を終えた俺たちはスリアドから北にある平原まで移動する。
スリアドから見ても魔境は北側にあるため、魔族の襲撃や目撃例が多いのも北側の地域なのだそうだ。
「よし、じゃあ俺は【竜人化】の鍛錬するからシファは【探索】で魔族の反応がないか調べておいてくれるか?」
「ん?いるよ?」
「え?」
「私の後ろにある森の中からこっちを伺ってるのが2人。多分魔族。」
こんな簡単に魔族に遭遇するとは。
それだけ魔族側の攻勢が強まっているという事だが…。
では早速接触するか。
さりげなくバハムートさんは足扱いされています。
本人(竜?)は気にしていませんが。
そのうち彼が戦う所も用意するつもりではいます。
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