71.踏破者、研究所に不法侵入する
辺りは真っ暗だ。
今、俺とシファは黒づくめの装備でアルカディア魔道具研究所の屋上に来ていた。
シファの【天翔】で敷地内に侵入し、そして屋上まで飛んできたというわけだ。
シファは普通に使っているが、【天翔】は高等魔法のため使える人間はかなり限られる。
しかも、【天翔】を使えても普通は数メートルの高さを維持するのがやっとらしい。
そのため、一般の防犯対策はこういった上空からのアプローチに対しては手薄になることが多い。
さらに、【暗視】で視界を確保し、【隠密】で【探知】系のスキルで発見されないようにしている。
シファの魔法強度なら普通の人族では感知できないだろう。
というか魔法マジ便利。
魔力量はシファ曰く常軌を逸しているくらいあるらしいし、魔法をしっかり勉強してみるのもいいかもしれない。
と、今はそんなことを考えている場合ではないな。
殺風景な屋上に唯一取り付けられてるマンホールのような金属製の蓋の前で調査を行っているシファに声をかける。
「どうだ?何か仕掛けられてるか?」
「ううん。【探索】と【解析】かけたけど特に罠が張られたりとかはなさそう。中に入ってしまえば自由に行動できそうね。あ、でも中に10人位人が残ってるからそれには気を付けないといけない。」
「警備員か…、夜勤や残業中の研究者の可能性もあるか。扉の鍵はどうだ?」
「この蓋の内側に打掛錠があるね。でもそれだけみたい。」
「よし、構造を詳しく教えてくれ。」
俺はシファから打掛錠の形状を詳細に聞く。
「何とかなりそうだな。【圧】。」
重力程度の強さに抑えた【圧】を、打掛錠が外れる方向にかける。
重力魔法は鉛直方向だけでなく、水平方向でも好きな方向に圧をかけることが出来る。
打掛錠のような簡易な錠前の場合、鍵が外れる方向に力をかけてやればあら不思議。
「うん。外れたね。」
「じゃあ入ろう。【探索】と【解析】はかけっぱなしで頼む。」
「了解。」
そうして俺は金属製の蓋板を持ち上げると建屋内に侵入した。
この建屋は先日この研究所に来た時に連れてこられた建屋だ。
「じゃあ手筈通りに。ジルオールが戻っていった部屋を目指そう。」
先日ジルオールに会った後、シファには【探索】を継続してもらい、俺たちが帰った後に彼がどの部屋に戻っていくかを追跡調査してもらっていたのだ。
恐らく、彼の事務室のようなところになるはずだ。
俺達は罠と10人ほどの人員に警戒しながら通路を進む。
やはり通路の構造が複雑すぎて俺一人ではどうにもならなさそうだ。
「ふふふ。どうやら私の有能さを再認識しているみたいね。」
「どうして気付いたのか知らんが、まぁ当たりだ。が、そのどや顔はムカつくな。」
「良いんだよ照れなくても。どう?私を手籠めにして身も心も主殿のものにしてしまえばこの便利な力も使いたい放題だよ。」
「お前は一回自分が何言ってるか考えた方が良いな。それに、奴隷契約結んでるからその力は既に使いたい放題だ。」
「奴隷ちゃうし!!」
「おい奴隷。声がでかいぞ。」
そんなくだらない会話をしながらも歩みを進めていたが、シファはある扉の前で足を止める。
「あの男が入っていったのはこの部屋よ。」
「鍵は…かかってないのか。」
俺はそのドアを開けて中に入る。
そこはやはり事務室のようだった。
「特に罠もないみたい。」
「よし、さっそく調べてみよう。」
そう言うと俺は書類棚を目指す。
あの一種独特な見た目から整理整頓は苦手そうな印象を受けたが、書類はきちんと整理されていた。
その書類棚から一冊のファイルを取り出す。
タイトルが「納品魔道具リスト」と記載されたものだ。
今回俺たちが狙っているのは今研究されているものではなく、過去に納品された魔道具の詳細なのだ。
どういった経緯で納品されたものかが分かれば、全容が見えてくるかもしれない。
「あった。」
俺が手を止めたページにはこう記載されていた。
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【魔素抽出機】
経緯
ヴァン侯爵閣下からの注文により制作。
魔物から魔素を抽出する魔道具。魔素から任意の魔物を創る魔道具。魔物を操作する魔道具の3点を同時依頼。
名目はハンター養成のための戦闘訓練用と説明を受ける。
魔物を生み出す魔道具、魔物を操作する魔道具については、当研究所では有事の際に対応が困難として辞退。
その2点は別研究機関に依頼するとして魔物から魔素を抽出する魔道具のみ受注。
製作期間
3ヵ月
制作費用
約2500万ギラ
魔道具仕様
バンドを巻き付けた生物の生命エネルギーを魔素に変換し抽出する。
【魔鼠】試験ではおおよそ1週間で検体の死亡を確認。
単純比較はできないが、人大の魔物であれば数か月は抽出が可能と思われる。
備考
生命エネルギー抽出中の生物は仮死状態となることが確認されている。
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そしてそのページには手書きでコメントが入っていた。
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侯爵閣下の希望をすべて満たせば魔物の兵団が作れてしまう。
念のためこの魔道具を無効化できる魔道具も制作要。
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シファが俺の友とのファイルをのぞき込み、こちらに視線を向けてきた。
「とりあえず、この研究所はシロの可能性が非常に高くなったかな。」
「確定じゃないんだ。」
「まぁこれも罠って可能性はゼロじゃないからな。だがとりあえずは普通に依頼をこなしていってもいいだろう。次は信頼を経て本丸への情報を引き出そう。」
そして俺たちは誰にも気づかれることなく研究所を後にしたのだった。
打掛錠はくるんと回してひっかけるあれです。
何と表現すれば分かりやすいのか…。
語彙力を高めることも今後の課題ですね。
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