54.踏破者、嵐の魔神を蹂躙する。
魔法陣から発生した紫煙が上空の一か所に集まってくる。
所々で雷も発生しているそれは、雷雲が蠢いているように見える。
【単眼翼幻獣】の時と同じように、次第に煙が形を成していく。
『久しぶりの現世だな。』
周囲に厳かな声が響く。
召喚されたのは獅子の頭に人の体、そして二対の羽を背に持つ異形の者だった。
『我は【嵐の魔神】!! 召喚者は誰だ!?我を現世に顕現させた礼に最初に食らうてやるわ!!』
そう言って魔神は俺たちを見回す。
どうやら俺の召還は失敗に終わったようだ。
狙いの幻獣ではなく悪魔を召喚してしまうとは。
しかも幻獣召喚と違い術者である俺とのリンクも切れているようだ。
いわゆる受肉状態だろうか?
術者の魔力を消費して現世にとどまっている状態ではなく、完全にこの世のものとして顕現している。
しかも協力する気など微塵も見せない態度…。
うん、さっさと処分して何もなかったことにしよう。
「俺が召喚者だ。」
そう言って一歩前へ出る。
魔神の視線がまっすぐ俺を向く。
『ほう、我を呼び出すだけのことはあるな。なかなかどうして、強そうではないか。』
「そりゃどうも。そういうアンタは弱そうだがな。」
俺の軽口に魔神の額に筋が浮かぶ。
『人間ごときが魔神に不遜な態度…』
「俺に協力する気はないんだな?」
魔神の言葉を遮り質問を投げかける。
『貴様、今すぐ殺して…』
「じゃあ死ね。【空断】」
『くっ!?…っが!?』
俺の放った【空断】。
奴の体を真っ二つにする狙いだったが、その狙いは外されてしまった。
奴はこちらの攻撃を察知し、すんでのところで避けたのだ。
だが完全に躱されたわけではない。
左足には深々と裂傷が入っている。
切断には至っていないか…。
やはり空中に居る敵には【空断】は効きにくいな。
【空断】はしょせん重力魔法なので、重力加速度以上の速さで落下すると逃れられてしまうのだ。
とは言え、【アビス】から帰還して【空断】で命を絶てなかったのは初めての経験だ。
「やるじゃないか。少しは楽しめそうだ。」
一方の魔神は驚愕していた。
『…今のは一体なんだ?下等な人間ごときが我に手傷を負わせることなど叶わぬはず…?』
「いつまで相手を見下しているんだ?ほら、ちゃんと避けないとすぐに終わってしまうぞ?【暗】【圧】【採魂】…【空断】!!」
俺はシュラを構えると立て続けに魔法を発動させる。
【暗】が視界を奪い平衡感覚を喪失させる。
【圧】が敏捷を大きく低減させる。
【採魂】が体力を奪う。
正確には違うが、俺なりの弱化魔法だ。
この状態で【空断】を避け続けられるかな?
『ぐあっ!?』
青色の鮮血と共に体から切り離された右腕が宙を舞う。
「【空断】」
『がっ!?』
今度は右の翼が1本。
「【空断】」
『ぐっ!?』
次は残っていた左足。
「【空断】」
『がぁああ!?』
最後は左の翼が2本。
そしてとうとう魔神は空中に留まることが出来なくなり地面に墜ちた。
致命傷は避けていたが、もうボロボロだ。
おれはそんな魔神にゆっくりと近づいていく。
「よく視界も遮られた中で避け続けられたな。お前は間違いなく俺が今まで戦ってきた中で一番強かったよ。」
地に突っ伏していた魔神が顔を上げる。
その瞳に諦めの色はなかった。
『のうのうと近づいてきたお前の負けだ!!【嵐刃】【雷轟】!!』
瞬間俺の体に四方から風の刃が叩きつけられ、視界がホワイトアウトするくらいの高密度の雷の本流に飲み込まれる。
『くははは!!どれだけ攻撃力が高かろうとしょせんは人間!!一度でも捉えれば魔神である我の敵では…な…い…。』
魔神は傷を一切負うことなくその場に立ち続けている俺を見ると言葉を失っていく。
いずれも高出力の魔法だったが、俺の【鉄壁】を凌駕することはできなかったのだ。
恐らく万策尽きた状態なのだろう。
魔神の目からは急速に生気が失われて行っている。
「あ、違うわ。【採魂】のせいか。」
俺は慌てて【採魂】の発動を停止する。
と言うのも俺はこの自称魔神に使い道を見出していた。
「お前、風魔法と雷魔法が使えるのか?」
一方の魔神ももう反抗する気がないようだ。
片腕、片足を失い、体力も根こそぎ奪われ、渾身の魔法も通用しない。
流石に諦めたのかもしれない。
『…見ての通りだ。我は嵐を司る魔神だからな。』
「そうか。提案がある。お前俺に忠誠を誓え。配下に加えてやる。」
『…何の冗談だ?この誇り高き魔神に人間の軍門に下れと?』
「そうだ。断れば殺す。」
『…くくく。貴様本当に人間か?』
「れっきとした人間だよ。」
『…よかろう。貴様に忠誠を誓う。』
「じゃあ契約だ。【眷属化】。」
魔神の様子に変化はない。
シファの時は苦しんでたと思うんだが…。
スキル使用時の忠誠度が低いほど抵抗が大きく苦しむ仕様なのかな?
「確かに貴様の眷属となった感じがあるな。」
「ああ、契約成立だ。パズズだったか?お前には向こうにいる少女に付いてもらう。彼女のサポートと護衛が任務だ。」
「承知した。」
そう言うとパズズは自身の体を鷲の姿に変えた。
「行動を共にするにあたり我の姿は目立つからな。こちらの方が良いだろう。」
そう言うとパズズはレベッカの元へと飛んでいった。
さあ一人称のストックが尽きました!!
次は何にしようかな…。
もう少し読んでみてもいいと思っていただけましたら評価、ブックマークよろしくお願いします!!




