24.踏破者、護衛する。
貴族一行を襲撃しているのはゴロツキだと思っていた。
だが、恰好こそ野盗のような風体だが、扱っている武器は騎士団が使っているものと遜色ない。
奴らの振るう剣の剣筋にブレはなく、的確に相手の急所を狙っている。
これは…完全に訓練された者の動きだ。
全員が顔を覆うように布を巻いているのも違和感がある。
どこかの正規軍だろうか?
貴族一行の騎士たちも襲撃者の練度の高さに面食らったのだろう、すぐに数人が切り伏せられてしまい、人数差が大きくなってしまっている。
襲撃者側は複数人での連携もしっかりとれており、人数差を活かして確実に一人ずつ数を減らしに来ている。
瞬く間にまた数人切り伏せられ、更に人数差が広がる。
このままでは10分と持たないだろう。
「シファ、加勢に入るぞ。やりすぎるなよ。」
そう言うと俺は縮地を連続発動し戦地へと突っ込む。
今まさに剣を弾かれ、なすすべなく切り伏せられようとしている騎士の前へ割り込むと、目の前の襲撃者2人を一瞬で切り倒す。
「なっ!?」
「話は後だ!!加勢する!! シファ、そっち半分は任せた。こっちは俺がやる。」
いきなり現れた俺に驚く騎士を無視しシファに指示を飛ばす。
そして目の前の襲撃者を見据える。
話を聞くにしても数が多いな。
生かしておいても捕虜として扱える人数ではない。
1人残して後は殲滅だな。
俺は息を吸い、短く吐く。
次の瞬間、攻撃にでる。
縮地を使い接敵すると一人ずつ確実に息の根を止めていく。
人間離れした速さに連携を取ることはおろか、ついてくることすらできていない襲撃者はあっという間に数を減らしていく。
騎士たちの方も何が起こっているのか理解できていないようだ。
「【雷雨】」
魔法名が聞こえてきた瞬間、周囲を凄まじい閃光が襲う。
俺も驚いて魔法の発動者、シファの方に視線を送る。
そこには宙に顕現した幾何学模様の魔法陣から雷の槍が降り注ぐ光景が広がっていた。
魔法陣の大きさは直径20m程だろうか。
つまり、その範囲に雷が降り注いでいるという事で、その雷を浴びた襲撃者たちは悲鳴をあげながら次々と黒焦げになっていった。
今後の事を考えてシファには事前に高位魔法を使用しないように言っていたのだが、これは高位魔法ではないのか!?
眼前に広がる地獄のような光景から視線を切ると、俺は再び襲撃者と相対する。
もう僅かしかいない人数。
俺とシファという存在。
その後ろで馬車を護るよう布陣し直している騎士たち。
もはや襲撃失敗は明らかだが、何か使命を帯びているかのように突っ込んでくる襲撃者たち。
だが、手を抜くわけにもいかない。
襲い掛かる襲撃者をことごとく切り倒す。
…気付けば残りの襲撃者は3人になっていた。
俺はそのうちの一人に縮地で接近、シュラを振り下ろす。
キィン
金属音。
俺の振り下ろしの一撃は横合いから割り込んできた剣により軌道をずらされ、空振りさせられていた。
一旦バックステップで距離を取る。
どうやら襲撃者の一人が俺の動きについてきたようだ。
その一人は、次の瞬間には攻勢に出てきた。
襲撃者の斬撃を躱し、往なす。
はっきり言って今の俺の相手をできるようなレベルのものではない。
だが、俺はその剣筋に懐かしいものを感じていた。
襲撃者の斬撃の一つに合わせてシュラを振るう。
狙い通り襲撃者の剣はシュラに弾かれ宙を舞う。
「もういい。お前…シルバだな。」
武器を失いながらも、なお徒手空拳で突っ込んで来ようとしていた襲撃者の動きが止まる。
しばし無言の時間が流れた。
「…やはりジーク坊ちゃんでしたか。雰囲気は大分変わられましたが…良くぞご無事で。」
そう言うと無手となった襲撃者は顔を覆っていた布をゆっくりと取っていく。
そこには俺の記憶に残ったままの執事長の顔があった。
「こんなところで野盗の真似事など、いったい何のつもりだ?まさかこいつらフレンブリード領の兵士か?」
「…彼らは有志です。」
「は?」
俺の疑問には答えずにシルバはバックステップで他の2人の襲撃者の元まで戻ると声を張り上げた。
「私はフレンブリード領の事を憂い、我が主の益とならない者を始末するために来た!!これは私の独断ではあるが我が主も喜ばれるに違いない!!ここは一旦引くが、いずれまたその首もらい受けに参る!!」
そう言うと2人の襲撃者と共に踵を返して森へと逃げ出した。
…やられた!!
俺は焦燥感を募らせながらもやるべきことを整理する。
「シファ、まずはけが人の治療だ、まだ助かる人が居るはずだ。」
シファの【治癒】であれば、死んでさえいなければ回復できるだろう。
騎士の一人、騎馬隊の先頭に立ち、道を譲った俺たちに丁寧に謝意を表してくれた人が俺に近づいてくる。
「君はフレンブリード家の者か?先ほどの話を聞かせてほしいのだが…。」
「今の俺は家などないただのハンターのジークだ。スリアドのギルドの依頼であなたたちをつけさせてもらっていた。」
そう言いながら傍らに伏していた襲撃者を確認する。
そこにはフレンブリード家で何度か顔を合わせたことのある兵士の顔があった。
広範囲を殲滅できる魔法ってかっこいいと思うのは私だけでしょうか。
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