道草をおかずに道草を食う
旅の道連れにノースランドの聖女マリエルを加え、王都の要塞の街と終焉の街の間の砦の一つに滞在している。
「最近魔族の活動が活発になってきているのよねー」
「イーストランドが抑えているのではないのですか?」
「一国に抑え込めるなら魔族との抗争なんてもうとっくに終わっているわー」
言われて見ればそうだけど、どうして魔族はイーストランドを滅ぼしに行かないのだろうか。
「まだこっちのことはあまり詳しくないのかなー」
「こっちというか魔王とかあまり興味なかったので調べていないんですよ」
「勇者と協力関係なのにー?」
「…あいつ口軽すぎるだろ」
「ハルトくんの態度を見てればわかるけどー?」
「俺かよ」
魔王はとんでもなく強いとは聞いていたけど、確かにそれなら魔王に人間が滅ぼされていてもおかしくはないと思う。
「魔王には弱点があるのよー」
「弱点?」
「ダンジョンコアではないのだけれど、それと同じように…、いえ、むしろダンジョンコアよりも不便な弱点ですねー」
「ダンジョンコアには能力があるからか」
「そうですー。ですが、魔王の心臓と呼ばれるものにはなんの能力もありません。ただ巨大なアイテムで魔王の強さの秘訣でもありますが、それは魔王城に備え付けられていますー。つまり、魔王が直接人間を襲いに来たら防御力の落ちた魔王城に突撃して魔王の心臓を破壊することができるのですよー」
なんかとってつけたような設定に聞こえるなあ。
「でないとレベル1万オーバーの魔王に人間は簡単に蹂躙されてしまいますからー」
「バグってんなおい、1万オーバーって…」
「今の勇者は魔王戦ではレベル4000程度にはなりますねー」
あいつもうレベル400到達したのか、いつの間にアリアさん抜いたんだよ。勇者怖いわ。
「それでも足りないんですね」
「パーティーメンバーも恩恵受けるのでレベル2000オーバーがたくさんついて回れば魔王もさすがに大変ですよー」
「なるほどな。それでダンジョンコア…、じゃなかった。勇者を足止めして魔王の心臓をいただくと」
「ええー。それが人間と魔王の戦いの歴史ですー」
結局直接は魔王は倒していないのか。それならやっぱりノースランドの女王が勇者パーティーに加われば早くないか?
確かレベル700だったし、動けない理由でもあるのかな。魔王の心臓ならぬ女王の心臓みたいなのがあったりするんか?
「それで本題なのですがー」
「あ、ああ…、そういえばそんなこと言ってたな」
「ハルトくんたちは勇者を撒くために今旅をしているのですよねー」
「ノースランド王に会いに行くのもあるぞ」
「でしたらー、人類最高の叡智と呼ばれる賢者に会いに行きたいのでー、旅の項目に加えていただければとー」
「賢者?」
賢者とかいたのか。まあ、イーストランドには学術院的なのがあるって聞いていたけど、そこにいたりするのだろうか。
「王都の要塞の街はイーストランドに近いですしー」
「イーストランドの学術院で校長してたりするのか?」
「そうですー」
「…」
絵に描いたような経歴だな。
「賢者は魔王の心臓の解析を行って、この世界がダンジョンだということを発見した人物なのですよー」
「へえー」
「そして過去に破壊した魔王の心臓を媒体にラビリンスアースを創造する計画をした人物ですよー」
「へえー」
「なのでー、会いに行きましょうよー」
「おう、そうだな」
なんかちょっと離れて読書に没頭してたはずのクレア王女が本を落として口をあんぐりと開けている。
「どうかしましたか?」
「…」
口あいてますよ。
「ハルト?思考回路をダンジョンに置いて来ましたの?」
「うん?」
…。
……。
………マリエルはなんて言ってたっけ?
過去に破壊した魔王の心臓を媒体にラビリンスアースを創造する計画。
「あー、なるほど?」
「わかっていないじゃないですか」
「でも、俺がこの世界に誕生した原因なんだろう。一度死んだ身だし、俺としては生き返るのとは違うかもしれないけど、ある意味で2人目の生みの親みたいな人にあたるなら会ってみたいかな」
「魔王の心臓という人類にとって忌むべき物を用いてダンジョンを生み出した変態ですよ!?絶対マッドなサイエンティストです!あったらダーリンがドロドロに溶かされるまで解剖されてしまいますわ!」
そんなバカな。人類にとってダンジョンの解析が重要なのだろう?ならばそれに貢献しているあたり、人類の生存に大きく関与している人物だ。マッドなサイエンティストなら魔王の心臓を解剖して新しく魔王作るぐらいはするだろう。
一応マリエルに聞いてみるか。
「賢者ってそんな人間じゃないだろ?」
「そんな人間ですよー」
「おい聖女、俺を殺す気か?」
アイアンクロー!残念力が足りない!
手を払いのけられた。300のダメージを負った。
「折れるー!折れたー!」
「ボケは私の担当なのですがー、ハルトくんはツッコミですよ」
「いや、ボケとかツッコミに担当なんてあるのかよ」
学術院の校長のくせしてマッドサイエンティストとか経歴どうなってんだよ。
「生徒もマッドな人が多いですからねー」
「類が友呼びまくりじゃないか…」
なんかイーストランドに向かいたくないなあ…。でもなあ…。
一晩悩んだ。
次の日、ちょっと重たい瞳を頑張って起こしながら早朝に砦の談話室に集まる。まだ警備兵も交代の時間がきていない日も登るかどうかの時間帯だ。
「なんでこんな朝っぱらから…」
「ちょっと問題がありましてー」
めちゃくちゃ不機嫌そうなクレア王女とは顔合わせないでおこう。怖い。机をトントンと叩いているの怖い。俺何かしちゃいました?
「ええっとー」
「…マリエルが犯人か」
「犯人じゃないですー」
「何かありましたか?」
イライラしているクレア王女に聞いてみる。
「路銀が底を尽きましたわ」
「は?」
終焉の街で換金して結構な路銀を集めたはずなのだけれど。
「でもー、クレアちゃんも一緒にお酒飲んだじゃないー」
「あんな高い酒買ってこなくてもいいじゃない!」
「だってー、ハルトくんがお酒作って売ってくれると思ってたからー」
なんだなんだ?どういうことだ?
「最近お酒が高くなっているのを知っていますか?」
「高くなっている?安くなっているのでは?」
「いえ、高くなっています。ハルトが卸すお酒は値段の割りに安価でとても割りにあった商品です。しかし、安い反面他のお酒を販売している業者は廃業に追い込まれる立ち位置に送られることになりました」
まあ、そうだろうなあ。といっても酒造しているお店自体がそんなに多くはないと聞いていたぞ。ダーリン呼びじゃないあたり結構怒ってるな。
「そこで彼らは考えました。安くておいしいお酒に勝つことはできません。しかし、そのおいしいお酒よりも少しだけおいしさが上回る商品に需要が出てきます」
「ブランド化か?」
「いえ、どちらかといえば高級化ですわ。味の評価をハルトが売っているお酒を9とするなら10のお酒になります。それをハルトの卸しているお酒の何倍もの値段で彼らは売っているのですよ」
「そういうことか」
俺が普段売っているお酒に飽き始めた2人が最高級品を求めてお酒を買ったと、ただし聖女マリエルの独断らしく、クレア王女は路銀がなくなってキレてる。それでお金を使っても俺がカタログ購入でお酒を購入していることはわかっていたマリエルも、カタログ購入がダンジョン内でしか使えないことを知らなくて路銀が底を尽きたら尽きたままだということを知ったと。マリエルが悪いじゃねえか。
そして隣の犯人を見る。
「何してるのさ?」
「えっと…」
「その目薬は?」
「………」
「………」
「うわあああん!どうしても飲んでみたかったのー出来心、出来心でしてー、悪い霊に取り憑かれてしまったのですー!」
「聖女なら自分でお祓いくらいできるだろ」
「………てへっ」
右ストレートが顔面に突き刺さって飛んでった。
「ふん」
「………」
クレア王女怒らせんとこ。
路銀を失って無一文と化した俺たちは、仕方なく砦のとある施設を訪れていた。
「こんな朝早くから冒険者も大変っすね、え゛!?」
「何か効率的に稼げるクエストあったりしますか?」
「…え、えっと。これとかどうっすか?」
ロードローリング討伐依頼。
「これなんて魔物?」
「アルマジロの魔物ですね」
「アルマジロねえ」
「回転しながら動くので通った後にけもの道ならぬアルマジロ道ができます」
「なんだそりゃ」
「ついでに舗装された道路もアルマジロ道に変えます」
「超迷惑じゃねえか」
「装甲が硬いのでそれを貫通させるか柔らかいお腹を攻撃するかですね」
こういう説明ってギルドの職員が教えてくれることじゃないのかな。クレア王女は結構本を読むから魔物のことにも精通しているのか。ギルドの職員さんが固まっているから仕方ないか。やっぱり変装くらいしないとな…。道中も奇異な目で見られてたし。
「じゃあ、これ受けます」
「は、はいっす!」
大慌てになりながらクエスト承認をいただいた。クエスト承認は行方不明とかになると救援クエストを発生させるために存在する。規定された時刻までにクエストの成否を報告しなければならない。
「明後日の12時までに結果報告をお願いするっす」
「了解。それじゃあ行くか」
まさか無一文になってギルドの世話になるとはなあ。別に冒険者じゃないんだけど。発行してもらったギルドカードをポケットにしまって重たい腰を持ち上げて、始めてのクエストへ。
絶対俺の出番ないけど。




