食パンはかじってません
ギシギシと、きしむ音で目が覚めた。
ああ、今日はお昼休みにボールをまさかの顔面キャッチをしてしまったんだった。
保健室にいることについて、納得している最中も隣のベットから音は続いていた。
はぁ はぁ ギシギシ と。
寝起きであまりまわらない頭で、なんでこんなに隣がうるさいのか考える。
色々 考えてみたけれど、どうもお色気方向でしか結論がだせない。
今、私の顔は真っ赤になっているはず。鏡を見なくても分かる。
ここは、聞かなかったことにしてなるべく早く、なるべく静かに部屋から出よう。
人間、気を抜いてはいけない。
そろりそろりと音を立てないよう気をつけて、扉から出てほっとした瞬間に人と思いっきりぶつかってしまった。
「ぅわっ」
「ぶっ」
ここはかわいく「きゃっ」とか言えたら良かったのだけれど、ぶつかった相手が悪かった。やたら大きい相手に対して、反対に私は小さかった。
相手が大きかろうが小さかろうが、「きゃっ」なんて言わないだろうけど。
もちろん、このとき私が発した声は「ぶっ」の方になる。
尻もちをついた私が見上げた先にいたのは、校内でもがらが悪くて有名な、黒沢先輩だった。
学食なんかでも目立つほど大きい先輩で、まぁまぁの男前だとは思うのだけれど、目つきの悪さで相殺されていた。
そんな目つきの悪い先輩に、見下ろされたなら普通怖いだろう。怖い、怖いが今は早くここから立ち去りたい。私はまだ、扉の開いた保健室の前にいる。室内にいる人物と顔をあわせてしまったら、それこそどう対処したら良いのかわからない。
あわてて立ちあが上がる。
「ご、ごめんなさい、すみません」
それだけ言うと、急いで教室に帰った。
この一瞬の出来事で、翌日先輩に呼び出されるとは誰が思うだろう。
そう、翌日のお昼の時間。
昨日は友人と外で弁当を広げて食べていた私は、ボールと劇的な出会いを果たした。
昨日の今日で、もう一度外でお弁当を広げる根性は私には無かった。そんな事情で、和気あいあいとお昼を楽しんでいた教室に黒沢先輩は現れた。
出入り口に立つ先輩には全く気付いていなかった私を、クラスの男子が呼びにきた。
「鈴木、黒沢先輩が呼んでる」
一瞬で静かになった教室を出た、クラスメート達の視線をいっぱい受けながら。




