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誰も導かなかった世界で、俺たちは答えを与えなかった 救わない勇者たちが世界を変えた理由  作者: 慈架太子


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王族の処刑

広場は、静かだった。


かつて、この場所で王族の姿が見られるときは、必ずと言っていいほど耳を裂くような祝祭の鐘が鳴り、兵士たちの怒号が響き、民衆の強制された歓声が渦巻いていた。

だが、今はそのどれもない。

人は、いる。

瓦礫の陰から、再建途中の建物の窓から、そして広場の縁から、驚くほど多くの人々が集まっている。

それでも、声はない。

数千の人間が同じ場所に集まりながら、そこには風が石畳を撫でる音と、遠くで誰かが漏らした微かな吐息しか存在しなかった。


中央に、急造された木の台がある。

そこには、王族が立っていた。

王と、王子。

かつてはこの世界の法であり、神の代弁者であった者たち。

彼らは手首を太い縄で縛られ、逃げ場のない壇上に晒されている。

逃げない。

逃げる場所も、守ってくれる騎士も、もはやこの地上には存在しないことを彼らは誰よりも理解していた。

誰も、石を投げない。

誰も、呪詛の言葉を叫ばない。

凄惨な復讐劇を期待した者は、そこには一分子もいなかった。

ただ、見ている。

自分たちがこれまで何を信じ、何に怯え、そして今、何と決別しようとしているのか。

その事実を、その網膜に焼き付けるためだけに、人々は沈黙を守っていた。


王は、顔を上げていた。

白髪が混じった髪を風に乱しながら、かつての統治者としての矜持を最後の糸一本で繋ぎ止めるように、虚空を見据えている。

何も言わない。

今さら、誰に向けて放つ言葉もない。

王子は、深く視線を落としていた。

かつてマーガレットに向けた、あるいは自分自身に向けたあの絶望的な謝罪のあと、彼の魂はすでにどこか遠い場所へ行ってしまったかのようだった。

動かない。

ただ、冷たい風に打たれるまま、そこに立ち尽くしている。


処刑人が、傍らに立っている。

それは専門の職人ではなく、かつて王国の圧政によってすべてを奪われた名もなき住人の一人だった。

彼は無機質な道具を手に持っている。

それは正義を執行するための神聖な器などではなく、ただ命を断つための効率的な鉄の塊に過ぎない。

準備は、できている。


「……」


誰も、命じない。

カイも、ミーナも、そして集まった群衆の誰一人として、「殺せ」という言葉を口にすることはなかった。

それでも、時間は来ている。

太陽が影を伸ばし、古い世界の終わりを告げる決定的な瞬間が、音もなく訪れる。


カイは、少し離れた場所にいた。

何も言わない。

彼が始めたこの長い旅の、一つの終着点。

だが、その瞳に宿っているのは勝利の喜びではなく、ただの冷徹な観測者の光だった。

ミーナは、目を閉じていない。

悲劇から目を逸らすことは、今の彼女には許されない。

奪われた命の代償として支払われるこの瞬間を、彼女は真っ直ぐに見守っている。

マーガレットは、見ている。

かつて仕えた主君の、その最期の姿を。

一分子の揺らぎもなく、瞬きすら惜しむように、その光景を魂に刻み込んでいる。

逸らさない。

逸らすことは、彼女が背負った罪からの逃避になるからだ。


アリアは、石柱の影で静かに立っている。

かつて彼女が守ろうとした規律の、これが終焉の形だった。

ユークスは、何も言わずに立つ。

医者として、治療できない「死」という名の結末を、彼は無言で受け止めている。

リーヴも、ガルドも、動かない。

新しい世界を創る者たちが、古い世界の解体を見届けていた。


処刑人が、一歩前に出る。

止まらない。

その足取りには、憎しみも躊躇もなかった。

ただ、なすべきことをなすという、重く沈んだ意志だけがあった。


王が、わずかに口を開いた。

何かを言い残そうとしたのか、あるいは単なる生理的な震えか。

何も言わない。

結局、言葉は形を成さずに消えた。

そのまま、口を閉じる。

王子は、動かない。

視線を落としたまま、自分の運命を受け入れる準備を終えていた。


合図は、ない。

劇的な宣誓も、処刑理由の読み上げもなかった。

それでも。

手が、動く。


音は、小さかった。

石畳に何かが落ちる音、あるいは服が擦れる音。

短い。

それは、数十年続いた王国の歴史の長さに比べれば、あまりにもあっけなく、あまりにも軽い一瞬だった。


終わる。


誰も、声を出さない。

歓声も、すすり泣きも、そこにはない。

ただ、張り詰めていた糸がプツリと切れたような、奇妙な弛緩が広場に漂った。

誰も、動かない。

数秒前まで「支配者」として存在していたものが、今はただの「物」へと変わってしまった。

その圧倒的な事実に、人々は立ち尽くしていた。


ただ。

一つ、終わった。


白い布が、静かにかけられる。

それだけ。

それは、かつて彼らが纏っていた贅を尽くした法衣よりも、ずっと清潔で、ずっと公平な布だった。


時間は、静かに、重厚に流れていく。

誰も、壇上へ近づこうとはしない。

死を冒涜する者も、遺体を惜しむ者もいない。

誰も、触れない。

それはもはや、彼らの世界とは無関係な、過去の残骸でしかなかったからだ。


やがて。

一人の男が、無言で背を向けた。

足元にある土を耕すために、歩き出す。

また一人。

また一人。

誰かが先導したわけではなく、人々は自らの内側にある「生活」の呼び声に従い、散らばり始めた。

誰も、話さない。

広場は、急速に、そして静かに空いていく。


何も、変わらない。

空の色も、瓦礫の山も、空腹の痛みも、何一つとして劇的には好転しない。

遠くで、再び畑を打つ音が聞こえ始める。

作業場からは、織機が布を紡ぐ単調な音が鳴り響く。

王が死んでも、王子が消えても、世界は彼らを待たずに動き続ける。


カイは、一人、壇を見つめたまま立っていた。

動かない。

その肩にかかる重圧が、少しでも軽くなったのかは分からない。

ミーナは、長く、深い息を吐き出した。

肺に溜まっていた過去の澱を、すべて吐き出すように。

マーガレットは、目を閉じる。

一瞬だけ。

瞼の裏に焼き付いた主の姿を、暗闇の奥へと葬り去るために。

アリアは、何も言わない。

古い秩序が完全に消滅したあとの、新しい空白を見つめていた。


ユークスが、医療鞄を担ぎ直し、低く言った。


「……終わったな」


誰も、答えない。

返すべき言葉など、誰も持っていなかった。


時間は、容赦なく流れる。


処刑は、終わった。

血が流れ、命が消え、一つの時代が幕を下ろした。

だが、何も戻らない。

失われた数多の命も、焼かれた街も、傷ついた魂も、この処刑によって癒えることはなかった。


その日。

王族は、この地から消えた。

権威の象徴も、支配の源泉も、すべては歴史の泥の中に沈んだ。


だが。

何も解決しなかった。

王がいなくなっても、明日食べるパンが突然増えるわけではない。

憎しみが消えるわけでも、寂しさが埋まるわけでもない。


そして。

広場には、ただ、耐え難いほどの空虚だけが残った。

人々はその空虚を抱えたまま、それでも自分の足で立ち、自分の手で土を掴む。

王がいない世界で、自分たちがどう生きていくべきか。

その正解のない問いだけが、西日に照らされた街の至る所に、静かに、重く、降り積もっていた。



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