畑を起こす者たち
土は、そこにあった。
昨日と同じ場所、昨日と同じ乾き具合で、街の片隅に横たわっていた。
長い間、そこは死んだ土地だった。
作物を育てる場所ではなく、動かなくなった誰かを埋めるか、あるいはゴミを捨てるための場所。
誰も見向きもしなかったその場所に、今日は人が立っている。
一人ではない。何人か、疎らに、しかし確かな意志を持ってそこに佇んでいた。
誰が呼び集めたわけでもない。
鐘が鳴ったわけでも、布告が出されたわけでもない。
ただ、腹を満たした者たちが、吸い寄せられるように集まってきたのだ。
「……やるのか」
一人が、地面を見つめたまま言った。
声には迷いがある。かつて略奪に明け暮れていた頃の、荒々しい力強さはない。
「……分からん」
別の男が、足元の土を蹴った。乾いた音が響く。
土は岩のように固く、作物が根を張る余地などどこにもないように見えた。
「……でも」
一拍の間。
男は、空を見上げた。そこにはかつての絶望的な暗雲はなく、ただ広大な虚無がある。
「……何もしないよりは、いい」
誰も反論しなかった。
「何もしない」という贅沢は、昨日までの彼らにとって死を意味していた。
だが、腹が満ちた今日、何もしないことは「暇」という名の拷問に変わっていた。
沈黙のまま、時間が過ぎる。
やがて、一人が膝をつき、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
ゴツゴツとした、汚れの目立つ手を土に入れる。
少しだけ掘ってみるが、指先はすぐに弾かれた。
石を噛んでいるのではない。長い間、踏み固められ、呪われたように放置された土地そのものが拒絶しているのだ。
「……固ぇな」
小さく吐き捨てられた言葉に、敵意はなかった。
誰かが、その背中に近づく。
その手には、どこから持ってきたのか、錆びついたクワのような道具が握られていた。
「貸せ」
短い言葉と共に、道具が振り下ろされる。
乾いた衝撃音。土に一筋の亀裂が走った。
ほんの数センチの裂け目。だが、それはこの街にとって、城壁が崩れるよりも大きな変化だった。
「……できるな」
それだけで、動きが始まった。
一人がクワを振るい、もう一人が土を素手で掻き出す。
言葉はない。
彼らに、農耕の知識などない。
いつ種をまくべきか、どれほどの深さまで耕すべきか、誰も知らない。
ただ、目の前の固い地面を壊し、柔らかいものに変えたいという、根源的な欲求だけが彼らを動かしていた。
遠くでその様子を見ていた男が、吸い寄せられるように近づいてくる。
しばらくの間、彼は少し離れた場所で立っていた。
自分が入っていいものか、それともこれはまた別の「誰かの縄張り」なのかを見極めるように。
だが、そこにあるのは争いではなく、共有された沈黙の労働だった。
「……やるか」
誰にともなく問い、返事を待たずに彼はしゃがんだ。
指を土に潜らせる。
地表は日差しで熱を帯びていたが、少し深く指を入れれば、そこには驚くほど冷たい沈黙が潜んでいた。
爪の間に土が入り、皮膚が擦れて血が滲む。
それでも、彼は止めなかった。
別の場所。
一人の女が、古い布を抱えて立っていた。
かつては誰かを騙し、あるいは奪うために使っていたであろう、その布をじっと見つめている。
彼女の視線が、荒れ果てた畑へと向く。
少しの間、迷うような仕草を見せたが、彼女は抱えていた布を足元に置いた。
膝をつき、土に触れる。
「……できるの?」
背後から、誰かが聞いた。
その声には、嘲笑ではなく、縋るような期待が混じっていた。
「……分からない」
一拍。
女は、自分の指先に絡みついた土を、愛おしむように見つめた。
「……でも、やる」
道具は絶望的に足りなかった。
人手も、それを維持するための計画も、ましてや農家としての知識も、この街の住民は持ち合わせていない。
それでも、彼らの手は止まらなかった。
誰かに命じられたわけではない。
誰かに教えられたわけでもない。
それでも、人は動いている。
ガルドが、少し離れた建物の陰に立っていた。
筋骨隆々の腕を組み、鋭い眼光で畑を見つめている。
彼は何も言わない。
ただ、手近にあった古い鉄製の杭を、音を立てずに近くの地面に突き刺した。
「使え」とは言わない。ただ、そこに道具を一つ置いた。それだけだ。
誰も彼に礼を言わない。
だが、気づいた一人の男が黙ってその杭を拾い上げ、土を穿つために使い始めた。
リーヴは、少し離れた木陰から、その様子を観察していた。
栄養失調と過酷な労働で、今にも倒れそうな者がいる。
彼女は反射的に一歩、踏み出しかけた。
介抱すべきか、止めるべきか。
だが、彼女は足を止めた。
そのまま、静かに見守ることを選んだ。
倒れそうになったその者は、地面に膝をつき、荒い呼吸を繰り返した後、自分の力でまた立ち上がったからだ。
他人の慈悲ではなく、自分の意志で立つことが、今の彼らには何よりも必要だと彼女は分かっていた。
ユークスは、別の視点から彼らを見ていた。
感情を排した視線だけを動かし、集団の動態を分析している。
「……死なせない」
短く、自分に言い聞かせるように呟いた。
それが、彼にできる唯一の援護であり、覚悟だった。
カイは、さらに離れた場所から、街の変化を静観していた。
カイは異界の勇者だ 6属性の魔法が使え 魔力吸収のスキル 事実上の無限魔力を持っている。 魔力が枯渇することはない。
カイは当初自分が手を出すことは遠慮しようと思っていた。だが、これまで理不尽な搾取をされ続けてきた者たちにとって余りにも不憫ではないかと思った。
俺は手伝うことを選ぶ。最初のきっかけだけだ。ずっとじゃない。
カイは土魔法を使い荒野を耕し始めた。土の天地返しである。
耕された荒野にピュリフィケーションバレットをを大量に撃つ。
土の中の不浄な菌や毒素が浄化されていく。
次にヒールバレットを大量に撃つ。
栄養素のなかった荒野はヒールバレットの効果により豊かな農地に変化した。
カイは広大な荒野を見る見るうちに農地へ変えていった。
カイは土魔法で大量の農具を作り出して耕した農地の端に置いていった。
ガルドはカイに言う「やりすぎるなよ」
そんなことを言いながらも ガルドとリーヴ ユークス セレスも カイを手伝い始めた。
ミーナは、その横で拳を固く握りしめていた。
今すぐにでも駆け寄って、一緒に土を掘りたいという衝動。
ガルドとリーヴ ユークス セレス ミーナも異界の勇者だ カイと同じことができる。
ミーナもカイの元へ駆け寄りピュリフィケーションバレットとヒールバレットを大量に撃つのであった。
マーガレットは、目を逸らさなかった。
変わりゆく街の景色を、その冷徹な瞳に焼き付けている。
アリアは、何も言わずにただ立っている。
命令を下すための口は、今は固く結ばれていた。
それでも。
「……できるかもしれん」
誰かが、掠れた声で言った。
その言葉は、祈りのようでもあり、確信のようでもあった。
誰も否定しない。
その言葉を笑う者は、もうここには一人もいなかった。
風が吹く。
乾いた砂埃の匂いの中に、湿った、重い土の匂いが混じり始めた。
生命が死に絶えていた街の空気が、少しずつ、変質していく。
誰も教えていないのに、畑が始まった。
それは、天から降ってきた奇跡ではない。
ましてや、高名な指導者が導いた結果でもない。
腹を満たし、立ち上がり、自分の手で土を掴むと決めた者たち。
その、泥にまみれた「選ばれた行動」が、新しい世界を耕し始めていた。




