《虎部隊》の脅威
冴姫から一報を受けていた周一郎兄貴は明らかに苛立っていた。
いつもは明るい闇絵さんも真剣な顔をしている。
すぐに全員がソファに座って話が始まった。
「あの虎蘭がそうであることは予想はしていたが、まさか自分から《虎部隊》と名乗ったわけか」
「ええ、驚きました。まさかあの《虎部隊》が自ら正体を現わすとは」
「しかももっと重要な問題は、《虎部隊》が宗三の下に就こうと言っていることだな」
「はっきり言って、意図が全くわかりません。仮に宗ちゃんが《特異点》と見抜いているにしても、どうして自分たちを従う立場に置こうとしているのか」
「更にそれ以上に《虎部隊》の指揮官と宗三を会わせたいと言って来たことも重要だな」
「はい。これまで《虎部隊》は世界中のどこも存在を確認していません。それが構成員の《能力者》だけでなく、そのトップに紹介するというのは理解に苦しみます。虎蘭だけでなく、どうして……」
周一郎兄貴と闇絵さんが真剣に話し合っている。
えーと、どういうこと?
「宗三、お前は次から次へと……」
「え、なんだよ兄貴?」
「いやいい。お前はそういう人間なのだ」
「だから何!」
周一郎兄貴が珍しく愚痴めいたことを言った。
「《聖女》に続いて今度は《虎部隊》ですか。世界で有数の《能力者》がこの短期間で宗ちゃんの周りに集まってる」
闇絵さんまで困惑しているようだ。
「あのさ、だからどういうことなの?」
兄貴が言った。
「宗三、お前の《特異点》としての能力だと我々は考えているのだ。お前は特別な人間を引き寄せてしまう。そしてお前と出会い、ある程度交流した人間は大きな影響を受けるのだ」
「なにそれ?」
俺、知らないよ。
「お前にそういう能力があることは以前から分かっていた。《トリポッド》がお前に注目し、研究を続け、お前が日本の《特異点》であると分かった」
「そうなの?」
「前にお前に出会った人間の話をしたな」
「えーと、バスケの監督とかかな?」
「そうだ。その他にも大勢いる。お前が日本の発展の根幹を担っていると我々は考えている。だからこその《特異点》なのだ」
「俺、普通の人間なんだけど?」
兄貴のことは昔から信頼して尊敬しているが、話に付いて行けない。
俺は全然特別な人間じゃない。
まあ、それは俺の自覚であり、最近周囲がそう言っていないことはもちろん分かってはいる。
要は俺自身が認めたくないだけなのだ。
「お前はそれでいいよ。だが、我々の考えが根底から揺るがされている可能性がある」
「え?」
「それが《ヴァーミリオン》と《虎部隊》のことだ。冴姫、虎蘭は宗三に敵対せず、ただ友愛を求めたのだな?」
「そうです。私が感じた限りでは嘘はありません。まあ、《虎部隊》の人間ですから確信は出来ませんが」
「宗三、虎蘭をどう思っている?」
「え、いい人だよ? 今後も親しく関わりたいと思ってるけど」
「そうか」
俺以外の全員がまた考え込んでしまった。
「周一郎さん、宗ちゃんがそう言っていることは重要ですが、問題は虎蘭の能力です。あまりにも危険です!」
「そうだな。冴姫の車にメモを置いたということは、いつでも宗三を狙えるということだ」
「虎蘭さんは絶対にそんなことしないよ! 虎蘭さんに何かしようとするなら、俺は絶対に許さないぜ!」
俺は何故か猛然と反対した。
いつもの気の弱い俺がやるわけはない、大声で否定したのだ。
自分でもびっくりしている。
兄貴たちはもっと驚いていた。
ちょっと脅えた雰囲気すらあったので、また俺は驚いた。
「待て、宗三。そういう問題ではないのだ。我々はお前をあらゆるものから守らなければならないのだ。そのために冴姫もお前の傍にいるのだしな」
「宗ちゃん、さっきは大丈夫って言ったけど、本当は分からない。あの能力について解明出来なければ、宗ちゃんを守れないんだよ」
冴姫が泣きそうな顔で言った。
そうか、さっきは俺を安心させるために言ったのか。
それと、どこで見張られているのか分からないということもあったのだろう。
「物理的に透過して接近、侵入出来るとなると困った事態だな」
「《虎部隊》を殲滅しますか?」
「それは無理だろう」
「中国を焼け野原にしますよ」
「冴姫!」
「それでも無理だ。《虎部隊》が世界中のどこにいてもおかしくはないからな」
「おい! 俺は許さないと言ったからな!」
「わ、分かった、宗三、落ち着け!」
「宗ちゃん、ごめん。分かったよ、私は何もしない!」
物騒なことを冴姫が言った冴姫が慌てて否定した。
冴姫は冗談で言ってないことが分かったが、今は必死で謝って来る。
「あー、俺は大五郎とかと遊んでいたいんだけどなー」
不意に虎蘭さんと再会した日のことが思い出された。
大五郎と朝に会って、その日はいいことがありそうだと冴姫にも言ったのだ。
俺は日常が好きだ。
虎蘭さんと再会出来たのは確かに嬉しい日だったのだが。
「夜空の星になりたいぜー」
冗談を言い、少しでも緊迫した空気を和らげたかった。
〈《特異点》の特殊感応を感知。解析の結果「ミルザム・トンネル」の概念に合致〉
どこからか機械音声が突然聞こえて来た。
俺以外の三人が驚愕して席を立った。




