ドラゴンさんに褒められた
周一郎兄貴と闇絵さんが待っていた。
「宗三、お前の言葉から大変なことが分かった」
「俺は関係ないよ!」
「これまで《虎部隊》の神出鬼没はどこも防げなかったが、先日の「ミルザム・トンネル」の解析装置の完成前に、更に恐るべきことが分かったな」
「俺、帰っていい?」
やはり俺が適当に言った言葉は兄貴たちにも伝わっていて、その話題だった。
俺、別に何も考えてないんだけど。
勝手にやればいいのにー。
一体何なんだよー。
ああ、帰りたい。
しかし、突然……
〈宗ちゃん、まずはお礼を申し上げますね〉
「ドラゴンさん!」
「「「!」」」
《ドラゴン・システム》がまた語りかけて来た。
周一郎兄貴たちがまた驚いている。
〈はい、こんにちは! 先ほどの宗ちゃんの言葉から、これまでのディープラーニングによる推測が根底から間違っていたことに気付けました〉
「えーと、全然分かりません」
〈良いのです。宗ちゃんの大いなる能力の発現から先は私たちのお仕事ですから。宗ちゃんはのんびりしてて下さい〉
「いいんですか!」
〈私も宗ちゃんは大好きですから、宗ちゃんがニコニコしている状態が望ましいと思っています〉
「ありがとう、ドラゴンさん!」
「ドラゴンが宗ちゃんを大好きって言ったぁー!」
冴姫が叫び、周一郎兄貴たちが呆然としている。
〈オホホホホホホホ〉
「周一郎さん、《ドラゴン・システム》が笑ってますよ!」
「郡長、《ドラゴン・システム》ってこんなでしたっけ?」
「黙っていろ、私にも分からん」
〈神楽坂、あなたは《トリポッド》の第四位階として十分な働きをしています〉
「は、光栄です!」
第四位階ってなに?
〈特に宗ちゃんの最近の能力の拡大はそこにいる冴姫とあなたの成果と考察します。特に冴姫を宗ちゃんの傍に置くという提案が大きく影響しているようですね〉
「それは何よりのお言葉と受け取ります。この卑小な私が曲がりなりにも使命を果たせているということは、今後の一層の励みとなります」
ドラゴンさんは兄貴だけに話し掛けていた。
冴姫と闇絵さんが聞いていることは知っているだろうが、そちらには何も話し掛けない。
〈宗ちゃん〉
「え、あ、はい!」
〈何か欲しいものはありますか? それともして欲しいこととかは?〉
「え、いや、そんな、俺なんて別に大したことはしてませんから」
〈うーん、困りましたね。それではこちらで勝手に考えておきますね?〉
それも何かコワイ気がした。
「そうだ、あの!」
〈はい、なんですか?〉
「子供の頃の記憶ってあんまり無いんだけど、一つだけ気になってる場所があるんです」
〈はい、どこでしょうか?〉
「場所も名前も忘れちゃった。でもね、十人くらいの子供たちがいて、みんな可愛くってね。何日か一緒にいて毎日一緒に寝たんだ。あの子たちが元気でいるか知りたいんだけど」
〈……〉
「ドラゴンさん?」
ドラゴンさんが沈黙し、冴姫が俺の手を掴んで驚いた顔をして俺を見ていた。
〈宗ちゃんはその記憶があるんですね?〉
「そうなんですよ。他の記憶も何だかぼんやりしてるんですけど、あの場所のことが何故か今でも気になってて。あの、こんな曖昧な記憶でもドラゴンさんは分かりますかね?」
ドラゴンさんは常に俺を監視しているようだから聞いてみた。
でもそれがいつからなのかは知らない。
〈はい、十分です。そうですね、あそこで宗三さんにお会いした子たちはみんな元気ですよ。でもすみませんが、そのことについてはあまりお話し出来ないのです。でもとにかく元気でその子たちも宗三さんのことを忘れてはいません〉
「ほんとですか! いいえ、もう十分です。良かったぁー、今も元気でやってるんですね!」
「宗ちゃん!」
冴姫がいきなり抱き着いて来た。
「どうした、冴姫!」
ドラゴンさんが言った。
〈宗ちゃん、他にそこで覚えていることはありますか?〉
「そうですね、何か途轍もないものを見た覚えがあって、驚いちゃって。その子に謝りたいなって」
何に驚いたのかは記憶は無いのだが。
でも、「その子」は俺が驚いたことにショックを受けていた気がする。
「あ、それとカワイイ女の子に懐かれて、いつか結婚しようねって約束した! アハハハハハ、もうその子も忘れてるだろうなぁ」
冴姫が一層強く抱き締めて来た。
「おい、冴姫! どうしたんだよ?」
「宗ちゃん!」
「おう!」
〈全部覚えてるかどうかは分かりませんが。でもきっと宗ちゃんに優しくしてもらったことはみんな覚えていると思いますよ?〉
「そうだといいなー」
〈宗ちゃんはその子たちに会いたいですか?〉
「いいですよ! 俺なんかに会っても今更。元気でやってることを聞けただけで十分です。ドラゴンさんは流石ですね!」
〈ウフフフフ、ありがとうございます〉
兄貴と闇絵さんがなんか涙ぐんでいたように見えた。
闇絵さんはともかく、兄貴のそんな姿は初めて見たので聞きたかったけど聞けなかった。
兄貴にも大事なことがあるに違いない。
俺は冴姫と一緒に部屋を出た。
冴姫は車までずっと俺に腕を絡ませていた。
冴姫のオッパイが嬉しい。
「宗ちゃん、なんか作るよ」
エンジンを掛けながら冴姫が言った。
「おい、さっき散々喰ったじゃないか」
「美味しいカップ麺がある」
「おい!」
一応どんなものか聞いた。
スープがとにかく美味く、あっさり醤油味なのだと。
「限定販売なの」
「そうなのか」
「だからもう一個しかなくて」
「え、じゃあ冴姫が食べろよ」
「半分こしよ!」
「いいな!」
早く帰れと言うと、冴姫がアクセルを踏み込んだ。
カーブのたびに虎王さんに貰ったストラップが揺れた。
冴姫が鼻歌を歌った。
俺は微笑みながら冴姫の美しい横顔を見ていた。




