『一園』
うちから近い場所だが、有名なラーメン店の『一園』は大体行列が出来ている。
マンションから歩いて行ける距離で、冴姫とも何度か来ているし、ココロちゃんと一緒だったこともある。
冴姫も好きだが、ココロちゃんもこのお店を大好きになった。
全国からラーメン好きな人間が来る有名店だ。
『一園』は豚骨と鶏骨を合わせた独自の美味しいスープが評判だ。
ココロちゃんと列の最後尾に並んでお喋りを始めた。
「私は「鶏豚チャーシューソバ」の大盛にトッピング全部のせと「鳥丼」のセットにするの」
「そうなの」
「宗ちゃんは「淡麗鶏塩ソバ」と「鳥丼」のセットを頼むの。おソバは私が食べてあげるの」
「うん、お願いね」
「あ、私は「自家製鶏団子」と「餃子」も頼むの!」
「一杯食べるね」
「うんなの!」
「アハハハハハハハ!」
俺たちの後ろに並ぶ気配がして、振り向いて俺は驚いた。
余りにもでかい!
身長は2メートル40センチくらいあり、あの仁桜姉貴よりも頭一つ大きい。
こんなに大きい人は生まれて初めて見る。
横幅はそれほどはなく、あまりにも背が高いのでむしろ細見に見えるが筋肉は発達している。
黒いポロシャツを着ているが、胸が隆起し、袖から伸びる腕も筋張っていて逞しい。
顔を見ると東洋人だが日本人とは少し違う。
「私、中国から来たんですよ。すいません、後ろに並べばよろしいですか? 」
「そうですよ。お先に失礼してます」
日本語だが、顔をよく見ると中国人のようだった。
でも言葉に訛りや発音におかしなところはない。
「私は大きくて驚かれたでしょう」
「はい、すいません。今まで見て来た中で一番背が高いですよ」
「アハハハハハ!」
「私の姉は2メートルを超えるのですが、あなたはそれ以上ですね」
「そうですね。2メートル45センチあります」
「それじゃ、バスケットゴールはジャンプせずに入りますね」
「はい、その通りです」
にこやかに笑う笑顔が優しそうな人柄を示していた。
男性は電話を始め、俺はココロちゃんとお喋りに戻った。
「宗ちゃん、おっきいの」
「こら、他人の身体のことを指摘してはいけません」
「でもおっきいの」
「まあね。でもこれまでもいろんな人から言われて来たと思うからさ」
「うん、そうなの」
15分ほど待って、店内に入れた。
ココロちゃんは「鶏豚チャーシューソバ」大盛(トッピング全部)と「鳥丼」のセットに「自家製鶏団子」と「餃子」。
俺は「淡麗鶏塩ソバ」と「鳥丼」セット。
ココロちゃんは自分の大盛をガンガン食べ、俺は鳥丼をゆっくりと食べる。
あの大きな人が入って来た。
店内ではちょっと腰を曲げているが、そういう姿勢には慣れているようで困った様子も無い。
券売機に行ったので、俺は使い方が分かるかと心配して見ていた。
俺の視線に気づいたようで、またニッコリと笑って会釈した。
大丈夫なようだ。
男性は少し離れた場所で食べ始め、俺とココロちゃんが出るタイミングで食べ終わったようだ。
出口でまた一緒になったので話し掛けた。
「美味しかったですか?」
「はい、それはもう! ここに来れて満足です!」
「そうですか、良かったですね」
「ではまた!」
「はい?」
「また」というのは挨拶にしてはおかしいのだが。
男性は大股で駅の方へ歩いて消えた。
俺たちも同じ方向だったがどんどん遠ざかり、角を曲がるともう男性の姿は見えなかった。
「おかしいの」
「そうだね、随分と早かったね。足が長いせいかな?」
「消えたの」
「いなくなっちゃったね」
「……」
ココロちゃんはちょっと不安げだった。
「タクシーで帰るの」
「え、もったいないよ」
「いいから乗るの!」
ココロちゃんがタクシーを呼んで、近いのだがそのままマンションまで戻った。
ココロちゃんはずっと周囲を警戒していた。
マンションに入ると、やっとココロちゃんは緊張を解いてくつろいだ。
「宗ちゃん、おやつの時間なのー!」
「え、まだ食べるの!」
「早くなのー!」
「はいはい」
俺は笑って紅茶とパンケーキを焼いた。
バターとメープルシロップをたっぷりと掛けて、ココロちゃんが喜んだ。
「さっきの大きな人さ」
「宗ちゃん、あの人は怪しいの」
「え?」
「私たちの周辺は常に監視してるの。でも、あいつは突然現われたし突然消えたの」
「なんだって!」
「あんなことは初めて、いや、2回目なの」
「そうなの?」
「虎蘭の時なの」
「!」
それはどういうことなのだろうか。
でも一体何の目的で……
ココロちゃんは冴姫の部屋に入って何かしていた。
冴姫が周一郎兄貴の所から戻って来た。
ココロちゃんが部屋から出て来て、監視網で撮ったはずの写真も動画も映っていないと大騒ぎした。
「あいつは誰なの!」
「ココロちゃん、落ち着いて」
「私は全然宗ちゃんを守れなかったの!」
「大丈夫だよ、俺はちゃんと無傷でいるよ」
「ごめんなさいなのー!」
泣くココロちゃんを抱き締めて落ち着かせた。
俺を外に連れ出したことを後悔しているんだろう。
冴姫も慰める。
「ココロちゃん、しばらくここにいなよ。あ、夕飯も食べて行ったら?」
「ほんとなの?」
「うん。一緒に宗ちゃんのご飯を食べよ? ねえ、何が食べたい?」
「今日はお寿司がいいの」
別な献立のつもりだったが、ココロちゃんが泣いているので冷蔵庫を確認した。
「困ったな、ネタが無いよ。じゃあ買って来るか」
また外に出ることになるが、大丈夫だろうか。
「銀座の『由ら』に行くの!」
「「はい?」」
「あそこがいいの、最高に美味しいの!」
「「……」」
外に出たら危なかったんじゃないのか。
結局冴姫が刺身を買って来て、家の中で手巻き寿司を食べた。
ココロちゃんはすっかり元気で一杯食べてくれた。
「おいしーのー!」
「うん、一杯食べてね」
「うんなのー!」
「アハハハハハハ!」
まあ、冴姫とココロちゃんが笑ってるのでそれでいい。




