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かわいい人の講義

「あー、どーしよっかなあー」

 パソコン画面を前に、後輩男子が頭を抱えている。

「もー、わけわかんないよー」

 その隣で、のっぽの女子が淡々とマウスをいじっている。


 株価 = EPS × PER


 この単純な方程式のどこに留意すればいいのか。

 理屈は理屈として、実際の銘柄を見ると、なかなか適当なのが見当たらない。

 数値だけで選択しても、聞いたこともないような会社だったり、なにをやっているのか想像もつかない業種だったりすると、今後の成長を想定できない。

 候補となる複数銘柄から、なにを基準に優劣をつけるか、これがまた難解だ。

 いっそあれもこれも全部まとめて、と思ったりするが、資金には限りがある。


 後輩の懊悩を要約すれば、ざっとこんなところであろう。


「なんか、インデックスファンド買うのがあ、一番手っ取り早いってえ、思うんですけどお」

 のっぽ女子は嘆息する。

「それは正解だね」とかわいい先輩が、くりんくりんの髪を揺らして、これ以上ないほどの笑顔を見せた。

 今、ネット上でも、動画でも、書籍でも、投資関連をテーマにしたものが山ほど出ている。

 その中で、多くの人々が言及するもののひとつが、インデックスファンドの積立投資だ。市場全体を丸ごと購入することで、確実に市場平均のリターンを取りましょうというもの。定額を積立投資することで、時間分散も実現する。コロナショックのように市場が暴落したときには、安価で大量に仕入れることができる。長期視点に立てば、経済は一貫して右肩上がりだから、長期的には確実なリターンが得られるというわけだ。

 これを最初に言ったのが、バートン・マルキールという人で、もう今から半世紀以上前のことらしい。

 当時はインデックスファンドという商品はなく、著書「ウォール街のランダム・ウォーカー 第13版」によれば、市場平均に投資するなど、馬鹿げた素人考えだと蔑まれたそうだ。

 しかし、現実に市場平均を上回り続ける投資商品はほとんどないことから、今ではインデックスファンドの価値が広く認知されているという。

 部活に入ってまだ2ヶ月ほどの新入生が、あれこれ思案して個別株の選択に苦労するぐらいなら、インデックスファンドの積立投資で十分ではないかと喝破するのは、インデックスファンドの価値を世界の多くが理解するまで何十年も要したことを思えば、極めて天晴であると言うべきかもしれない。


「でもさあ、インデックスファンドとアクティブファンドを比べるのが、そもそもおかしいと思うのよね、わたしは」

 先輩はそう言って、胸を張った。

「どーゆーことですかあ?」

「だって、うちら、べつにアクティブファンドの運用なんかしてないし、するつもりもないじゃん」

「だから?」

「うちらがするのは個別株でしょう? 多くてもせいぜい10銘柄かそこらよ。それに運用金額だって、数百万円でしょう。この規模だったら、インデックスに勝つなんて普通にある」

「えー、そうなんですかあ」

「エヌビディア、そうじゃん。インデックスなんか遥か超えてる。1年で何倍にもなる株なんて、別に珍しくもない。それ、インデックスではそうそう望めないよね」

「はあ」

「だからさ、投資信託やるような規模なら、インデックスを超えることは難しいかもだけど、個人が数百万、数千万、そうね、せいぜい数十億で運用するくらいなら、十分勝てる可能性があると思うな、わたしは」

 かわいい人は最後にこう言った。

「インデックスファンドとアクティブファンドじゃ、インデックスファンドが勝ちだろうけど、インデックスファンドと個別株なら、個別株が勝つ可能性は高い! わたしたち個人はアクティブファンドを運用してるわけじゃない。個別株を運用する。だから、個別株で勝つ方法を探るべき!」


 って、それがわからないから、困ってるんじゃないですか。

 男子後輩が困惑の表情を浮かべた。


 かわいい人が「しゃあねえなあ」と言いながら、エクセルファイルを開いた。

 縦軸に銘柄名が並び、横軸には次の項目が並んでいた。

 株価、ネットキャッシュ、ネット株価、配当額、配当率、前期EPS、見込EPS、EPS伸び率、見込PER、ネット株価PER、益回り、3年後EPS、3年間EPS伸び率、EPS年間伸び率、3年後PER、PEGレシオ、3年後通常PER、3年後見込株価


 かわいい人は、とある銘柄を示した。

「株価が7,680円、ネットキャッシュが563円だから、ネット株価は7,117円」

「ネットキャッシュって何ですか?」

「ああ、一株当たりの現金同等物から一株当たりの有利子負債を引いた額。単純に一株当たりどれくらいキャッシュ持ってるかって思ってくれていい」

「ネット株価は?」

「株価からネットキャッシュを引いた額。実質的な株価だと思ってる、わたしはね」

 配当額は年間配当金総額でこの銘柄では100円、配当率は配当金÷株価で同じく1.3%、前期EPSが327円、見込EPSが332円、EPS伸び率が1.3%、見込PERは23倍、ネット株価PERは21倍。。。

「ネット株価PERって、なんですか?」

「ああ、さっきネット株価って言ったでしょう。それで計算したPERだよ。この銘柄の場合、あんまり変わんないから、気にすることないけど、たとえばこっちの銘柄だったら」

 と、指さしたのを見ると、見込PERが12倍に対して、ネット株価PERは3倍。

「これぐらいキャッシュリッチな会社になると、実質、PER3倍だから、安いにもほどがあるって思わない?」


 益回りは見込EPS÷株価で4.3%、3年後EPSが700円、3年間EPS伸び率が700円÷332円で211%、これを1年間の平均伸び率に均すと、EPS年間伸び率128%

「ちょ、ちょっと待ってください。3年後EPSって、どうやって計算するんすか?」

「あー、それは勝手な予想だね」

「勝手な? 予想?」

「そ、未来のことなんて誰もわからないでしょ? だから、会社のホームページとか見て、自分でどれぐらい成長するか予想するの。ここがだから、人それぞれの見方になるわね」

 戸惑う後輩たちを前に、先輩は説明を続けた。


 自分が立てた予想EPS700円で今の株価7,680円を割ると3年後PERは11倍。

 今期見込EPS332円ではPER23倍だから割安感はないけど、11倍なら悪くない。

 EPSが年間28%伸びる株のEPSが11倍だから、PEGレシオは11÷28=0.39で1倍を大きく下回る。

 PEGレシオ1倍を標準と仮定し、仮にEPSの年間伸び率28%の適正PERを28倍とするなら、3年後通常PER28倍なら3年後見込株価は19,600円を見込める。

「あの、えーと」

「むずいよねえ、3年後のEPSを700円になると想定したでしょ。3年後のPERが28倍とするなら、株価の方程式はEPS×PERだから、700×28=19,600円になるわけ」

 この銘柄の場合、今の株価が7,680円で今のPERが23倍だから、あんまり割安感がないように見えるけど、3年後にEPSが700円を見込めるなら、株価はまだ2倍以上上げる可能性があると考えられる。

「はあ」

 1年生の二人はため息をついた。

「ま、とてもそんな上昇を見込めないと思ったら、今の話も絵に描いた餅になるんだけどね」

 先輩はくりんくりんの髪を揺らして、犯罪級の笑顔を見せた。


 2024年6月7日現在 わたしのポートフォリオ

 ・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 2,000株 買値319.8円 株価371.2円 時価742,400円 含み益102,800円

 ・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価1,918円 時価383,600円 含み益77,600円

 ・3445 RS Technologies 200株 買値3,200円 株価3,400円 時価680,000円 含み益40,000円

 ・5888 DAIWA CYCLE 200株 買値1,800円 株価2,020円 時価404,000円 含み益44,000円

 ・7134 アップガレージグループ 800株 買値835円 株価1,020円 時価816,000円 含み益148,000円

 ・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,623円 時価649,000円 含み益222,200円

 現金 11,482円

 時価総額 3,675,000円 含み益686,482円 含み益率23%

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