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新投資先

「珍しくゆっくりしてるんですね」

 わたしは顧問と二人きりで向きあっていた。

 二年生になって追加資金が手に入ったにもかかわらず、追加投資しないわたしを顧問は皮肉った。

 わたしとて、何も考えていなかったわけではない。

 ただ、この一年間で様々な知識・経験を積み、銘柄選択で見るところが増えた。それが購入の決断を遅らせたことは否めない。

 無知は怖いもの知らず

 だから能天気に選択できた。一年前は。知ってしまった今は動きが鈍る。

「考えているのは、どんなところですか?」

 聞かれたわたしは、ひとつひとつを詳細に説明した。


 ・3445 RS Technologies

 半導体関連銘柄。ウエハ再生加工大手。長い目で見れば、売上・利益とも伸び続けている。今後、AIを活用する場面が増えると想定されることから、需要はなお増加すると思われる。景気動向に左右されるものの、成長株と認識する。

 この会社の特徴は多額の保有現金。有利子負債を減じたネットキャッシュで見ると、一株あたり2,520円になる。株価は3,200円程度なので、株価の3/4は保有現金、残り1/4がそれ以外のこの会社の値段になる。株価から保有現金分を差し引くと、実質的な株価は700円程度に過ぎない。見込EPSは288円。株価3,200円ならPER11倍でこれでも十分低いが、保有現金を差し引いた700円ではPER2.4倍。数値の上では格安と言える。

 ただ、高校生のわたしにはわからないことがある。それは、この会社の事業。半導体ウエハ再生加工についてなにひとつ知識がない。会社のホームページを見ると、なんとなく将来性があると感じるものの、競合はどこか、優位性はどこにあるのか、見当がつかない。数値と過去実績を根拠に投資すべきか、わからないものは自重すべきか判断しかねている。


 ・4238 ミライアル

 同じく半導体関連銘柄。半導体工場向けウエハ容器などを作る。凸凹あるものの、長い目で見れば、増収増益傾向にある。区分すれば、景気循環株と考える。

 この会社も多額の保有現金をもつ。有利子負債はない。株価は1,500円程度、保有現金は一株あたり750円程度なので、株価の半分は保有現金、残り半分がそれ以外のこの会社の値段になる。実質的な株価は750円程度。見込EPSは116円、株価1,500円ならPERは13倍程度だが、750円ならPERは7倍程度で、数値の上ではこれまた格安と言える。

 こちらも、高校生のわたしにはこの会社の事業内容がよくわからない。


 ・7134 アップガレージグループ

 中古カー用品販売店。一貫して増収増益にある。

 上記二社ほどではないものの、保有現金が多く、財務は極めて良好。区分すれば、純粋に成長株と考える。

 2024年3月期決算では、売上高が前期比10%増収、営業利益が同14%増益。2025年3月期も7%増収14%増益を見込む。

 インフレ下、中古品ニーズは一層高まるものと思われる。新車価格は上昇していると聞く。ガソリン価格も上昇しているそうだ。自動車をもつ人は、節約意識が増すことだろう。

 株価は850円程度、PERは10倍に満たず、増益率を考えれば割高感はない。時価総額は100億円もまだ遠く、成長余地は大きいと考えられる。


 以上、3銘柄について説明を終えると、顧問は「新たに意識したことは?」と言った。

「保有資産」

「それはどうして?」

 EPSは企業が生み出す価値を一株あたりで表したものと捉えるならば、株を買うことはEPS分の価値を生み出す資産を株価で購入することと考えられる。たとえばアップガレージグループの場合、90円の価値を生む資産を850円で購入する。銀行預金なら850円を預金して利子は1円もつかないが、アップガレージグループの場合は90円になる。利回りは1割を超える。だが、この資産には他に240円ものネットキャッシュがある。850円で購入する資産には240円のキャッシュがついてくるのだから、実質610円で購入するに等しい。90円の価値を生む資産を610円で購入するなら、利回りは15%近くになる。


「なるほど。では、豊富な資産は、どんなメリットが考えられる?」

 メリット? しばらく考えてみた。

 ひとつは資金繰りに窮する恐れがないこと。つまり、倒産の心配がないこと。

 ふたつは事業拡大のための投資資金があること。


「じゃあ、懸念点は?」

 懸念点?

 お金を潤沢にもつことに懸念などあるのか。しかし、わざわざ質問するくらいだから、顧問には意図があるのだろう。しばらく考える。が、なにも出てこなかった。

「個人で考えてみましょうか」

 個人?

「仮にあなたが何百億円ものお金を持っているとしましょう」

 さあ、そのお金を何に使いますか?

「企業の買収に」

「漠然としていますね。企業買収はいいですが、買収して、あなたはなにをしたいのでしょう?」

「世の中を、変える」

「どんなふうに?」

「それを答える必要を認めない」

 顧問は、ふっと笑った。

「これは失礼。あなたがなにをしたいのか、わたしには関係ないことですね。ただ、大きなお金をどう使うか、これはとても難しいお話です。錚々たる大企業でもバカバカしいことにお金を使っている、など枚挙にいとまがない。本業の拡大のための投資での失敗ならまだしも、本業からかけ離れた事業に手を出してみたり、いい投資物件があるからと破綻企業を買収してみたり、豪華絢爛な本社を建ててみたり、一部役員や社員が途方もない交際費を使ってみたり、美術品を購入したり、要するにお金があるばっかりにムダ使いする恐れがあるということです」

 顧問の話は理解するが、ではどうすればがない。

「潤沢なキャッシュをもつ会社に投資する場合、なにに留意すればいい?」

「そのキャッシュの使いみちでしょう」

「財務諸表で見るべき項目で言えば?」

「財務諸表もさることながら、会社発表を丹念に追いかけるということでしょう」


 そんな会話があって、以下のとおり、保有銘柄を見直した。

 まず、保有の愛知電機を売却することとした。売却理由は決算見通しに対する会社発表の迷走への不信感。2023年度の営業利益は当初計画が7,000百万円に対して7,059百万円で着地した。終わってみれば計画通りであるが、この会社、10月と1月に二度下方修正をしている。1月の下方修正で6,200百万円の見通しをした。そこからわずか2ヶ月で859百万円の上回り着地。なんのための下方修正だったか理解に苦しむ。

 キャッシュは潤沢、配当利回り4%以上あり、中長期的には期待できると思われるが、わたしにはもう時間が1年半もない。他に賭けたいと思った。


 購入はRS Technologiesとアップガレージグループに絞った。

 RS Technologiesは3,200円で200株買った。

 が、アップガレージグループは指し値に対して、思いのほか株価が上昇して購入できない。

 結局、指し値まで落ちることなく、高止まりしたまま、週が終わった。

 愛知電機は4,000円で売れた。


 2024年5月24日現在 わたしのポートフォリオ

 ・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 1,400株 買値300円 株価376.1円 時価526,540円 含み益106,540円

 ・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価1887円 時価377,400円 含み益71,400円

 ・3445 RS Technologies 200株 買値3,200円 株価3,155円 時価631,000円 含み益▲9,000円

 ・5888 DAIWA CYCLE 200株 買値1,800円 株価1,912円 時価382,400円 含み益22,400円

 ・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,571円 時価628,400円 含み益201,600円

 現金 899,082円

 時価総額 3,444,822円 含み益444,822円 含み益率15%

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