新入生
新入生が株式投資部に入ってきた。
男の子が一人。女の子が一人。
男の子は背が低くて、髪はボサボサ。ニキビだらけの顔に銀縁眼鏡。イケてるとは言い難いけれども、イケてないのが普通なのだから、そこに期待するのは意味がない。
女の子はのっぽだった。小柄なわたしやかわいい先輩は見上げる格好になる。目が細く、のっぺりした顔をしている。サラッとした髪は背まで伸びている。
「お名前はー?」
かわいい先輩が愛らしさ満点で、初々しい二人に尋ねた。
男の子は「おおぞら」、女の子は「エルム」と名乗った。
「じゃあさ、花見に行こう!」
「はあ?」
男の先輩が「なこと聞いてねえよ」と口を尖らせると
「なに言ってんの? ちょうど見頃なんだから、行かなかったら高校生活に禍根を残すわよ」
部室を出ると、風が強く、花びらがはらはらと舞っていた。
かわいい人は学校近くの団地の中にどかどか入って、団地内の公園まで来ると、おもむろにビニールシートを広げた。桜は今を盛りと淡い色で枝いっぱい埋めている。風が吹くごとに、淡い色した花辺が左から右へはらはらひらひらと流れた。鳥のさえずりが響く。うぐいすまでいる。
「ここ、穴場だよね~」
かわいい人がお菓子を広げながら言う。
昭和に建てられた大規模団地には、十何階建ての集合住宅が何棟も並んでいる。敷地はだだっ広くて、緑も豊富。
けれど、高齢者ばかりで、賑わってるという感じには程遠い。花見する人もいるにはいるが、名所の如き酒宴で埋め尽くされることもなく、散歩がてらに愛でている風情。
故に、なるほど穴場なのかもしれないが、肌寒さもあって、寂しいと言えなくもない。
花見は賑わいの中でこそ盛り上がるものなのかもしれない。
どこの中学出身? どこに住んでいるの? からはじまって、かわいい先輩が新入生を質問攻めにする。
男の子はけっこう遠いところから通ってきていると言った。
「なとこから来る子、はじめて」とかわいい先輩。今は学区制がなくなったため、県内どこからでも好きな高校を選ぶことはできるが、わたしたちの高校は有名大学に何人も入る進学校でもなければ、歴史ある伝統校でもなく、なにか特色ある専門科をもつわけでも、特別なカリキュラムがあるわけでもない、実に平凡な普通科高校に過ぎない。ので、生徒は近隣に住む者がほとんどで、「家から近い」の他にほぼ選択理由はないと言えよう。
「なんでわざわざこのガッコにしたんだ?」と男の先輩。
「環境を変えたいと思って」と、おおぞら。
「環境変えたい? なんだ、いじめられてたのか?」
「違いますよ。全然」
気色ばんだ新入生が言うには、家の近くにも似たような偏差値の高校があるが、そこだと知った環境の中で3年間を送ることになる。大学に行く前、社会に出る前に、自分の知らない環境に身を置きたかったそうだ。
エルムと名乗った女子は、今いるこの大規模団地の住人だと言った。
「高校はどこでもよかったんでえ。べつにどーしても行きたいガッコもなかったしい。なんか、着たいせー服もなかったしい。それなら、家から近いとこのほうが、なんかツーガクにかかる時間も少なくてすむしい」
「えー、じゃあ、歩いて来てるの?」
「そーなんですよお、もー、やんなっちゃう」
「どーして? 近くていいじゃん」
「自転車で来れると思ったんでえ」
「え? 自転車ダメなんだ」
「歩いて30分以上かかるとこじゃなかったらあ、なんか自転車ダメって言われてえ。しょうがないからあ、15分も歩いてきてますう」
なんで株式投資部に入ってきたのという質問には。
おおぞら 「株式投資がハヤリじゃないっすか。ひと山当てたらデカいって言うし、一年で何億も稼げるって話もあるし、そこまでゆかなくても百万程度でも稼げれば凄いじゃないっすか」
エルム 「あたしはあ、去年のここの文化祭でえ、なんとなく興味をもってえ」
「え? じゃあ、この部活したくって、このガッコに来たってこと?」
「それは違います。家からあ、近いからです」
春の陽射しに照らされた花びら舞う風の中、4人の話をひとり黙って聞いていた。
慣例で言えば、わたしがこの二人の指導を担うことになる。
二人の言葉を信じるならば、男は安易な金儲け、女は興味本位となる。
新年度になって、決算発表や決算見通しの発表が増えつつある。
小売業の好決算が目につく。
コロナウィルスによる経済活動の制限が解かれて人流が戻ってきたこと
円安により外国人観光客が戻ってきさこと
物価高が売上増につながり、増益にもつながったこと
などがその要因のようだ。
ただ、もっと長い時間軸で見れば、どうなのか。
と、考えたきっかけは、ファーストリテイリングの2024年8月期中間決算だった。
この会社の株価は4万円を超える値嵩株だから、日経平均株価にも大きな影響を及ぼす大型株だ。
今回の決算の注目は、地域別売上高。
国内こそ前年同期比マイナスだが、海外は軒並みふた桁の伸び。
人口減少で伸び悩みが予想される国内売上高は全体の三分の一ほどを占めるが、世界全体から見れば、日本の経済力は10%に満たない。となれば、開拓余地の大きな海外を多く残すこの会社の成長は、まだまだこれからと言えるのではないか。
日本製鉄は2兆円でUSスチールを買収するという。労組やアメリカ大統領選の関係もあって、成就するか否かはまだ不明ながら、注目すべきは日本を代表する鉄鋼会社が世界に打って出るところ。
大型株の印象が強い同社が実は成長株なのかもしれない、という視点をもつべきではないか。
そう感じる。
二年生になって100万円が追加された。わたしの追加投資先を考える必要がある。値嵩株のファーストリテイリングにはとても手が出ないのだが。
2024年4月12日現在 わたしのポートフォリオ
・1678 NEXT FUNDS インド株式指数 Nifty50 連動型上場投信 1,400株 買値300円 株価361.5円 時価506,100円 含み益86,100円
・2579 コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングス 200株 買値1,530円 株価2,251円 時価450,100円 含み益144,100円
・5888 DAIWA CYCLE 200株 買値1,800円 株価1,940円 時価388,000円 含み益28,000円
・6623 愛知電機 100株 買値3,615円 株価4,100円 時価410,000円 含み益48,500円
・8306 三菱UFJフィナンシャルグループ 400株 買値1,067円 株価1,550円 時価620,000円 含み益193,200円
現金 1,146,903円
時価総額 3,521,103円 含み益521,103円 含み益率17%
仮想運用分
・6758 ソニーグループ 買値14,540円 時価12,780円




