茶色いノート
その少女漫画は、開いたときから衝撃的だ。
初回スペシャル付録ともいえる三つ折りのカラーミニポスターがあり、開いてみると、ルネサンス時代の主人公が、羽子板を手に晴れ着で微笑んでいる。
す、凄いわ。
奈美は、色褪せてなお、力強く自己主張する昭和の漫画の力に圧倒される。
題名のついたページをめくると、二ページを使い、バラが縁を飾り、ドレスを着て、長いベールがついた円錐の帽子をかぶった女性がページの端で歌い、かわいい天使がこの物語の始まりを説明してくれる。
小さな少女の数奇な運命を。
話は懐かしくも面白かった。
全30巻の長編小説は、読みごたえがあった、が、15巻目を読み終わって奈美は、自分の記憶との違いに混乱した。
ノストラダムスが登場てこない。
と、言うより時代が違う。ノストラダムスは16世紀の人間で、『プロバンスの赤いしずく』は、15世紀、ルネサンスの時代の話だ。
まあ、物語を作る上で、ダ・ヴィンチが全盛の頃の方が面白いに違いない。
では、なんで自分はノストラダムスの物語を覚えていたのだろうか?
奈美は頭を整理したくなって段ボールの中にノートを探した。
よく奈美と遊んでくれた蘭子の荷物の中には、お絵書き帳やクレヨンなどの道具も入っているはずだ。
なんとなく、探し始めた奈美は、懐かしいような、始めてみるような、クラッシックな茶色のノートを見つけた。
開いてみると、茶色いページに、蘭子の綺麗な文字が行儀よく並んでいる。
それは、ノストラダムスの年表で、次のページには、その時代の主な歴史の人物について書いてあった。
「これ、叔母さんのネタ帳?」
奈美は思わず独り言を叫び、そこから注意深くページをめくる。
そこには、読んだ本の内容や、歴史についての考察、そして、短い習作の短編小説が書いてある。
す、凄いわ。
奈美は思わずノートを閉じて抱きしめた。
心臓がドキドキとして、背中に鳥肌がたつのをかんじる。
このノートがあれば、私、叔母さんと共作の物語を発表できるんだわ。
その昔、活版印刷が世界を変えたように、インターネットの普及が、田舎の一人の女性を小説家に変身させるのだ。
20年も昔に亡くなった人と共に一つの話を作り上げて発表する。
奈美は、これから作る物語に胸をときめかせていた。ノートを抱き締めていると、蘭子が身近にいるような気がする。
小さな頃は、ただ、お話をねだるしか出来なかったが、今なら、構成を文章にし、投稿することが出来る。奈美は決意を新たにノートを開いた。




